忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。


オピオイドは怖い・看護が大変?

ナースちゃん:
はぁ~、今日も麻薬カート触ったけど、やっぱり何回やっても緊張で胃が痛むんですよ。扱い厳しすぎて、もう毎回試験受けてる気分。

先生:
ああ、分かるよ。特に病棟だと麻薬=オピオイドの扱いってものすごい厳重だもんね。

ナースちゃん:
麻薬って名前がつくだけで、なんか周りの目もシビアになるんですよ。ってか、同じような薬なのに種類多すぎじゃないですか? オキなんとかやら、ナルなんとか…って。もはやわざと引っかけに来ているとしか思えない。

先生:
なるほどね、そもそもオピオイドのイメージが上手く掴めていないのかもしれないね。まあ、本当に似たような効果の薬ばかりだから仕方ないんだけどね。あ、そうだ。ちょうどこの前ChatGPTにオピオイドを擬人化してもらったから、それ見ながらちょっと勉強してみようか。

ナースちゃん:
擬人化したんですか、先生もたいがい暇ですよね。そりゃ私も夜勤明けの自撮りをGPTに戦国武将風に加工させて、後で死ぬほどへこんだことはありますけど。

オピオイド擬人化してみました


オピオイド擬人化してみました(タップして拡大↑)

先生:
戦国武将風ナースちゃん、後で見せてね。緩和ケアが専門じゃなくても知っておいて欲しいオピオイドはこの5つだね。

ナースちゃん:
あれは墓まで持ってくんで諦めてください。この中だと私は断然フェンタニル派ですね。

先生:
イケオジ派?

ナースちゃん:
まあそうなんですが、現実にイケオジってまずいないんですよ。渋みと清潔感を両立させて、なおかつ若い女に色目使わないっていう矛盾を抱えた幻の生き物ですから。先生も気をつけてくださいね。30歳越えたら好意もセクハラって、妙齢イケメンアイドルも言ってましたからね。

先生:
思うことにすらコンプラ規制がかかる、生きづらい世の中になったね……。それはそれとして、確かにフェンタニルはちょっと他のメンバーからは浮いた存在なんだよね。こんな風に派閥分けができるよ。


オピオイドの派閥(タップして拡大↑)

ナースちゃん:
世の中には2種類のオピオイドしかいない。モルヒネか、モルヒネ以外か。それ以上に語る必要、あります?(ドヤァ)

先生:
あるよ! とはいえ、緩和ケアを専門にやるわけじゃなければ、まずはざっくりそういう理解でいいと思うよ。モルヒネ系以外はひとまずフェンタニルだけ覚えていればいいかな。そう考えると、一気にすっきりしてこない?

ナースちゃん:
まあそれだけでいいなら、こちらとしては願ったり叶ったりですが。でも、なんとなくの顔とか雰囲気は伝わりましたけど、それぞれの薬の特徴が今ひとつピンとこないですね。

オピオイドの種類と違い

先生:
そう来ると思って、それぞれのキャラもまとめてみたよ。


オピオイドのキャラクター(タップして拡大↑)

ナースちゃん:
あー、そういうまとめ方なんですね。なんか絶妙に上手いこと言ってるのがちょっと腹立つけど、ツッコむと負けな気がする。

先生:
お褒め頂きありがとう。モルヒネの仲間も、似ているようで皆ちょっとずつキャラクターが違うんだよね。

ナースちゃん:
そういえば、最近猫も杓子もモルヒネってわけじゃなくなってきたなって思ってたんですが、モルヒネが使いづらい患者さんも結構いるんですね。

先生:
お、気づいていたかい。オピオイドの今昔を語れるなんて、さすがはベテランナースだね!

ナースちゃん:
コンプラ案件ですよ。次のセクハラ研修で年齢絡みの例文に使わせてもらいますね。

先生:
すみません、以後気を付けます。ただ実際、モルヒネの使用割合が減ってきているのはその通りだよ。

ナースちゃん:
今度なめろう奢ってくれたら許します。なんでなんですか?

先生:
終末期の患者さんはどうしても、身体が徐々に弱って多臓器不全になっていく。そうすると、モルヒネの代謝産物が身体に溜まりやすくなるんだ。これらは鎮静やせん妄、呼吸抑制などの副作用を引き起こす原因になる。実は結構使いづらい薬なんだよね。

ナースちゃん:
なるほど。昔はモルヒネしかなかったから、他に選択肢がなかった。でも最近はオキシコドンやヒドロモルフォンみたいな新しい薬も増えてきたから、患者さんに合わせてより使いやすいものを選べるようになってきたと。

先生:
その通り! 選択肢が増えると、できることが増えるんだ。

ナースちゃん:
とは言えですよ。モルヒネ一族だけでも、これは流石に多すぎますよ。

オピオイドローテーション

ナースちゃん:
オキシコドンとヒドロモルフォンなんて、説明文でどうにか誤魔化そうとしてるけど、実際ほとんどキャラの書き分けできてないし。

先生:
うぅ、鋭い。でも、オピオイドの種類が多いことには大きく二つのメリットがあるんだ。一つ目は、オピオイドローテーション。

ナースちゃん:
あー、はいはい。先生が時々やる、オピオイドの種類変えるあれですね。薬局から別の薬もらって、帳簿新しくして、在庫確認して……。あれ地味に面倒なんですよ。

先生:
なんかごめん。でも、オピオイドローテーションには大事な意味があるんだ。例えば、患者さんの痛みがなかなか良くならず、薬の量を増やしても効きが悪くて、むしろ副作用が出てくるようなとき。モルヒネ系の薬同士であっても、例えばモルヒネ→オキシコドンみたいに薬剤を変えることで、鎮痛効果を引き上げて、副作用を軽減することができるんだよ。

ナースちゃん:
なんですかそれ、チートじゃないですか!

先生:
身体を上手く欺すっていう意味でいうなら、確かにチートかもしれないね。100%どんなときにも必ず上手くいくわけじゃないんだけど、オピオイドの実質量は変えずにローテーションするだけで効果が上がるなら、試してみない手はないよね。

多彩な剤形・投与経路を使い分けよう

先生:
もう一つは、薬剤が多様になれば、剤形もまた多様にできるってことだよ。こちらも表でまとめてみたから見てみよう。


剤形ごとの使い分け(タップして拡大↑)

ナースちゃん:
確かに、認知症の患者さんに錠剤飲ませるときは結構気を遣いますね。飲んでもらった後、口の中確認するけど、結構ベロの下や奥の方に隠れてたりするし。なにより夜だと見えづらくて。翌日リネン交換のときに眠剤転がってきたりとか、正直結構ありますよ。

先生:
内服液剤は、患者さんが痛みや呼吸困難感で焦っているときでも内服しやすいと評判だよ。それに言わずもがな、貼付剤は内服ができない時の強い味方だよね。

ナースちゃん:
モルヒネの坐薬も、終末期の意識状態が悪くなった患者さんに使ったことありましたね。持続皮下注射始める前に意識状態悪くなったけれど、眉間に皺を寄せて苦しそうにしていたのが、すっと治まりました。

先生:
本人は喋れなかったとしても痛みは感じるし、苦しむ顔を見ている家族もとても辛い思いをするからね。


剤形ごとのオピオイド一覧(タップして拡大↑)

ナースちゃん:
こうやって見ると、ちゃんとそれぞれのオピオイドにも役割や存在意義があったんですね。シンプルに考えれば、それほど難しくない気もしてきました。なんか薬なのに、人としての距離感が縮んだ気がしますよ。

先生:
オピオイドは友達、怖くない!

ナースちゃん:
友達なら帳簿も何とかしてくれ。




光齋久人
University of Technology Sydney, St Vincent's Hospital Sydney
Visiting Scholar

緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。現在はオーストラリア・シドニーで、緩和ケアの質改善や教育に関する研究に携わっています。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。