忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。
口内炎ケアで立ち尽くす看護師へ
ナースちゃん:
ぐぬぬぬぬ……。
先生:
どうしたの、ナースちゃん。口内炎の時にうっかり梅干し食べちゃったみたいな顔して。
ナースちゃん:
そう! 口内炎! 口内炎で患者さんが苦しんでいるのに、何もしてあげることができないもどかしさに悶えていたんですよ。
先生:
口内炎って命に関わらないからと軽く見られがちだけれど、患者さんのQOLにとってはものすごく大きな問題だよね。誰もが口内炎になったときに同じ苦しみを味わってるのにね。
ナースちゃん:
そうなんですよ。しかも、がん患者さんたちの口内炎って多発したり、だらだら長く続くじゃないですか。食事量も減ってしまって、治るものも治らなくなるんです。
先生:
口内炎に対しては、主治医からはどんな薬がでてるの?
ナースちゃん:
口の中に塗るステロイドの軟膏くらいですね。でも患者さんが、これだけじゃ良くならないからもっと何かないかって。主治医に聞いても「これ以上はなぁ……」って困っている様子で。
先生:
それを見てナースちゃんは煩悶してたわけだ。
ナースちゃん:
患者さんの姿を見ていると、「治るまで我慢しましょう」の言葉がどうしても言えず……。ついうっかり、「なんとかしましょう!」と安請け合いして今に至るわけです。というわけで、助けてかんわエモン!
先生:
振りが雑すぎるよ。まあでも、患者さんに我慢させずにちゃんと付き合おうとしている所はさすがだね。緩和ケアの第一歩は、患者さんをもうこれ以上見捨てないことだからね。
ナースちゃん:
もうこれ以上って、緩和ケアの患者さんもベーシック・サポーティブ・ケア(BSC)をちゃんと受けてるじゃないですか。
緩和ケアは患者さんを見捨てないケア
先生:
医療者から見るとそうなんだけどね。でも、患者さんからしたら、手術や抗がん剤をやりきってBSCを言い渡されたときって、「もうこれ以上あなたにしてあげられることはありません」って、医療に見捨てられたように思うものなんだよ。「緩和ケアに行ったら、もう何も治療はしてもらえないんでしょ」って言う患者さん、とても多いんだよ。
ナースちゃん:
ああ、確かにそういう人いますよね。緩和ケア病棟でもちゃんと痛みや症状の対策だけでなく、抗菌薬なんかの一般的な治療だってするのに。
先生:
一度医療に見捨てられた体験をした患者さんたちを、二度とそんな気持ちにさせない。それもまた緩和ケアの大切な役割だって、師匠に口を酸っぱくして教えられたものだよ。
ナースちゃん:
とはいえ、ですよ。素敵な理想を掲げても、実際できることがなければそれまでなわけですよ。口内炎なんて、正直できる治療は限られてるわけじゃないですか? 処方してもらえるのだって、口腔軟膏と含嗽薬ぐらいのもんですよ。これ以上どうしろと。
先生:
治療の責任がこちらに移った途端、世論を味方に付けたように手厳しいね、ナースちゃん。でもね、実はまだまだやれることはあるんだよ!
まずは基本! 医師が処方する口内炎治療薬まとめ
先生:
まずは、医師が病院で処方できる治療薬から。今回処方されているように、ステロイドの口腔軟膏はよく出るよね。他にも口腔粘膜を保護する薬もあるし、痛みが強すぎる場合には鎮痛薬を出したりもするよ。特にがん患者さんで痛みが強い場合には、オピオイドを処方することもあるね。半夏瀉心湯や立効散なんかの漢方も口内炎には効果的と言われているんだ。
ナースちゃん:
口をゆすぐための含嗽薬も見ますよね。
先生:
抗炎症作用のあるアズレンスルホン酸入りが基本だね。ドラッグストアで売っている含嗽薬にはたいていアズレンスルホン酸が入っているよ。これに重曹を加えたり、グリセリン、キシロカインなどを混ぜて独自の調剤をしている病院もあるね。他にはステロイドで含嗽したり、ちょっと薬局に協力してもらう必要があるけど、NSAIDsやキシロカイン、オピオイドで口をすすぐなんて方法もあるよ。
ナースちゃん:
含嗽薬、そんなにあるんですね! イソジンガーグルとハチアズレくらいしか知りませんでしたよ。
先生:
イソジンガーグルはポピドンヨードを使った消毒薬だから、口内炎には使わないほうがいいね。ハチアズレはアズレンスルホン酸と重曹の組み合わさった含嗽薬だよ。
ナースちゃん:
でも、うがい薬ってどのタイミングで使えばいいのかいっつも迷うんですよ。やっぱり、ただいまの後ですか?
先生:
基本は1日4~8回使うのが良いとされているよ。タイミングは、起床時、毎食前後、就寝時、歯ブラシ後あたりかな。15mL程度の量を1分間かけてゆっくりグチュグチュしてね。含嗽後30分間は飲食を避けるのが基本だよ。一方で、食事に伴う痛みの軽減を期待して、鎮痛薬の入った含嗽薬を食前15~30分前くらいに使うのもありだよ!
ナースちゃん:
まあでも、こんだけ処方薬があることは分かりましたけど、結局口内炎に対して看護師ができることなんて限られてるんですよ。
先生:
おっと、聞き捨てならないね! 看護師さんたちができる、口内炎対策のための生活習慣のアドバイスも実はたくさんあるんだよ。
薬だけじゃない! 生活の工夫で口内炎は楽になる
ナースちゃん:
ちょぉっと待った! 聞き捨てならないはこちらの台詞ですよ! 生活習慣のアドバイスってんなら、私にだって一家言ありますよ。舐めてもらっちゃあ困ります。
口内炎時の生活習慣の工夫(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
私にも看護師一筋、ゴニョゴニョ年の矜恃ってもんがあるんですよ!(ドヤァ)
先生:
看護師の矜恃が年齢を重ねる恥じらいに負けちゃってるよ。
ナースちゃん:
シャラップ! 私が言いたかったのは、この程度ならもうとっくに患者さんに情報提供してますよってことです。私たちナースが求めてるのは、この先ですよ。
先生:
こちらこそ舐めてもらっちゃあ困るね! もちろん、ありますとも!
さらに一歩先へ! 処方箋なしで提案できるケア
自宅でできる口内炎対策(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
え、含嗽薬って自宅で作れるんですか?
先生:
アズレンスルホン酸はさすがに薬局で買うしかないけれど、これに重曹を溶かすとハチアズレになるね。生理食塩水で口をゆすぐだけで効果がある人もいるよ。
ナースちゃん:
ちょっとちょっと、既存の処方薬のつくりかたなんてバラしちゃったらマズくないですか? 逆に先生がバラされて瀬戸内海の藻屑に……。
先生:
……。えー、他にも、蜂蜜やカモミール、マヌカオイルなんかも口内炎に効果があるんじゃないかって言われてるね。どれもスーパーや食料品店で見つけられるものだね。後は、患部の保護という意味では白ごま油が結構いいらしい。
ナースちゃん:
ごま油なんて口に塗ったら、口の中が終日中華になっちゃいますよ! よだれが出て逆に良いみたいな?
先生:
ナースちゃんが言っているのは、焙煎ごま油だね。白ごま油は精製工程で薫り成分が取り除かれたものだから、薫りはほとんどないよ。ドラッグストアで手に入る口内炎治療薬もたくさんあるよ。アフタッチ、トラフルダイレクト、アフタガードなんかはステロイドの薬だね。半夏瀉心湯などの漢方薬もドラッグストアで見つけられるよ。
ナースちゃん:
でも、漢方ってお湯で溶かしても粒が残っちゃうじゃないですか。あんなざらざらの液体で口をゆすいだら、口内炎余計痛みますよ。
先生:
いい観点だね! そんなときは、ペットボトルの出番だよ。ペットボトルにお白湯と漢方薬を入れて、ワイルドに振り回すんだ! そのままペットボトルで持ち歩けば、仕事をしている人でも日中こまめに含嗽ができるから便利だよ。なお、おしとやかな人には、漢方薬をいったん細かくすり潰してからお湯に溶かす方法もおすすめです。
ナースちゃん:
私はもちろん、すり潰す派ですからね。ってかこの、カプサイシンキャンディーって何ですか? 舐めたらめっちゃ痛そうなんですけど。
おうちで簡単! カプサイシンキャンディーレシピ(タップして拡大↑)
先生:
海外では結構有名な、自宅で調理できる口内炎対策だよ。確かに舐めはじめは灼熱感があるらしいけど、だんだん慣れてきて痛みが数時間のあいだ軽減するんだって。
ナースちゃん:
カプサイシンキャンディー。痛みの向こうにこそ幸せがあるって、なんか人生みたいですね。……ま、最近の私の幸せなんて、夜勤明けの缶ビールと半額シール焼肉弁当くらいのもんですけど。
【参考文献】
1)緩和ケア編集委員会: すっきりしない症状. 緩和ケア. 2022; 32(6増刊)
2)Wound Care Nutrition: Capsaicin Hot Pepper Candy Recipe for Mouth Pain. Wound Care Nutrition. 2024. Available from:
https://woundcarenutrition.com/nutrition/capsaicin-hot-pepper-candy-recipe-for-mouth-pain/. Accessed November 2, 2025.
3)Canterbury District Health Board: General Mouth Care for Oncology Patients. Christchurch, New Zealand; 2018. Available from:
https://edu.cdhb.health.nz/Hospitals-Services/health-professionals/Cytotoxic-Biotherapy/Documents/General%20Mouth%20Care%20for%20Oncology%20Patients.pdf" .Accessed November 3, 2025.
University of Technology Sydney, St Vincent's Hospital Sydney
Visiting Scholar
緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。現在はオーストラリア・シドニーで、緩和ケアの質改善や教育に関する研究に携わっています。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。
