忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。


「もう何もしてもらえないんですよね?」に言葉が詰まる

ナースちゃん:
昨日久しぶりに急性期病棟看護師の友達とお茶しに行ったんですけど、「結局緩和ケアって、もう何もしないってことでしょ?」って言われて、上手く言い返せませんでした……。

先生:
休日までなかなかヘビーな議論をしてるね。医療職同士だと、話題がめっちゃ偏るよね。ナースちゃんは、どう思うの?

ナースちゃん:
違うよ! ……って言いたかったんですけど、上手い説明が出てこなくて。すごいもやもやしました。

先生:
同じ医療者ですらこうだからね。患者さんやご家族からのこの手の質問が多いのも、当然のことなんだろうね。

ナースちゃん:
そうなんです! ベスト・サポーティブ・ケアに移行した患者さんやご家族に、「もう何もしてもらえないんですね……」って言われて、曖昧な笑顔を返すくらいしかできないナース、かなり多いと思うんですよ。正直、こういうときの完璧な返答マニュアルが欲しいですよ。

先生:
悩ましいところだね。ただ、もしかしたらそれ、自分の中で「緩和ケア」というものの定義がちゃんとできていないからかもしれないよ?

「緩和ケア」ってなんだと思いますか?

ナースちゃん:
それも無理ないことだと思いますよ。だって緩和ケアって、教科書的にはみんな知ってるけれど、本物を見たことがある人って実は少ないツチノコ診療科じゃないですか!

先生:
ツチノコ……。でも、確かにそうだね。緩和ケアの専門医って実は全国に300人程度(2023年4月)しかいない、レア診療科なんだよね。

ナースちゃん:
日本の病院って8千施設以上あるんですよ。クリニックとか入れると12万弱あるって言われてるのに、どんだけ緩和ケア医レアなんですか! そりゃ普通のナースが緩和ケアちゃんと見る機会がないのも、不思議じゃないですよ。

先生:
うぅ、その通りだね……。啓発活動頑張ります。でも、こういった質問に言葉がつまってしまう本当の原因は、 緩和ケアを心のどこかで「治療が終わったあとに行く場所」 と思ってしまっているところにあるんじゃないかな。

ナースちゃん:
それは、あるかもしれませんね。

先生:
「治療=抗がん剤や手術」って思い込んでいると、そうなるかもしれないね。でもね、緩和ケアも立派な「医療」であり、「治療」なんだよ。

緩和ケアは治療をするところ

ナースちゃん:
緩和ケアが立派な「医療」であることにはなんの疑問もないですよ。でも、「治療」と言われると、ちょっと抵抗ありますね。だって、緩和ケアってがんを治せるわけじゃないじゃないですか。

先生:
そういう感じ方もあるかもしれないね。でもならそもそも、転移したがんに抗がん剤を使うのだって、根治を目指しているわけじゃないなら「治療」にはならないって論理になってしまうよ。

ナースちゃん:
んー、なんだろう、この屁理屈感! そういうことじゃないんだよなぁ。

先生:
OK、じゃあいちど、緩和ケアの効果をまとめてみよう。


緩和ケアの効果(タップして拡大↑)

ナースちゃん:
え、緩和ケアって寿命延ばすんですか!?

先生:
いくつかの研究で、特に早期の緩和ケア介入によって生存期間が延長したという報告があるよ。どうだい、これなら緩和ケアも立派な「治療」に位置づけられると思わないかい?

ナースちゃん:
これ、多くの人たち知りませんよ。症状が楽になって、生存期間まで延びるなんてすごいじゃないですか!

先生:
私の緩和ケアの兄弟子にあたる先生が、40代でがんで亡くなったんだ。その先生は闘病しながら診療を続けていたんだけれど、いつも新しくやってくる患者さんたちにこう言っていたよ。「緩和ケアへようこそ。これまで辛い治療、お疲れ様でした。ここからは、お互い楽に長生きしませんか?」って。自身もがん患者である先生にしか言えない言葉だなといつも思っていたよ。

ナースちゃん:
うぅ、なんだか泣けてくる……。

トータルペインは人間の4つの苦しみ


トータルペイン(タップして拡大↑)

ナースちゃん:
トータルペイン=全人的苦痛って、緩和ケアを勉強するとき一番初めに教科書に出てくるやつですよね。

先生:
緩和ケアの母であるシシリー・ソンダース先生の提唱した、まさに緩和ケアの基本であり全てである概念だからね。

ナースちゃん:
このスピリチュアルペインってやつが、いっつもよく分からないんですよ。これだけカタカナで、翻訳するのを放棄した臭いが――

先生:
――あくまでナースちゃんの個人的な見解です。でも、スピリチュアルペインは宗教観や人生観と深く結びついた苦痛だから、宗教色の薄くなりがちな現代日本人にとってはどうしても難しい概念だよね。分かりづらければ、「人生の意味や意義に関する苦しみ」と捉えてみるといいかな。

ナースちゃん:
「私の人生には何の意味があったんだろう」ってやつですか? 確かに、それなら理解できるかも。そういう悩みを抱えている患者さんのお話、ときおり傾聴してますよ。

先生:
流石緩和ケアナースだね! 緩和ケアではいわゆる「治療」的な介入以外に、社会的苦痛やスピリチュアルペインも含めた全人的な介入をするんだ。だからかもしれないけれど、終末期の患者さんたちに後悔したことを尋ねる研究では、いつも「緩和ケアをもっと早く知りたかった。もっと早くに始めていれば良かった」という意見が結構出るんだよ。

ナースちゃん:
それはなんだか、とても申し訳ないですね。緩和ケアの認知度を上げたり、ちゃんとした情報提供をするのは私たち医療者の責任ですもんね。

声かけは、理解の先に自然に出てくる言葉で

ナースちゃん:
でも結局、一般病棟ナースは患者さんやご家族に緩和ケアについて聞かれたとき、なんて答えればいいんですか?

先生:
これだ!っていう決定版のフレーズとなると、なかなか難しいね。患者さんやご家族によって心配していることは違うだろうから、全員にあてはまる完璧な声かけっていうのはないんじゃないかなぁ。

ナースちゃん:
そんな戯言を聞くために、ここまで先生の長話に付き合ってきたわけじゃないんですよ! 責任ある回答を! ほら、プリーズ!

先生:
分かったよ。私ならこんな風に患者さんやご家族に説明するかな。


緩和ケアの考え方説明(タップして拡大↑)

ナースちゃん:
これなら私にも説明できそうですよ。

先生:
世間のイメージと違って、緩和ケアって実は受け身で死を待つ場所じゃないんだよね。むしろ積極的に、人生の課題解決の手助けをするための診療科なんだ。

ナースちゃん:
残された時間が限られているからこそ、攻めの姿勢が大事なんですね! 島津の退き口並みに攻めるぞー。

先生:
苛烈さはほどほどに、白衣の天使の自覚を忘れずにね!



【参考文献】
1)Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al. Early palliative care for patients with metastatic non–small-cell lung cancer. New England Journal of Medicine. 2010;363(8):733-742. doi:10.1056/NEJMoa1000678.
2)Hoerger M, Wayser GR, Schwing G, Suzuki A, Perry LM. Impact of interdisciplinary outpatient specialty palliative care on survival and quality of life in adults with advanced cancer: A meta-analysis of randomized controlled trials. Annals of Behavioral Medicine. 2019;53(7):674-685. doi:10.1093/abm/kay077.
3)Shih HH, Chang HJ, Huang TW. Effects of early palliative care in advanced cancer patients: A meta-analysis. American Journal of Hospice and Palliative Medicine. 2022;39(3):327-335. doi:10.1177/10499091221075570.
4)Bader H, Farraj H, Yamin S, et al. Effects of integrating palliative care in patients with advanced cancer: A systematic review and meta-analysis of quality of life and psychological outcomes. American Journal of Hospice and Palliative Medicine. 2024. doi:10.1177/10499091241297924.




光齋久人
University of Technology Sydney, St Vincent's Hospital Sydney
Visiting Scholar

緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。現在はオーストラリア・シドニーで、緩和ケアの質改善や教育に関する研究に携わっています。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。