忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。
予後予測は経験と勘? 看護師が抱きがちな誤解
ナースちゃん:
先生が先月、予後は短い週の単位って告知した患者さん、穏やかにお見送りできて良かったですね。
先生:
いいお看取りだったね。ご本人もご家族も、残された時間を大切に過ごせていたからね。
ナースちゃん:
いやぁ、それにしても先生の予後予測、毎回すごいですよ。まさにプロの経験と勘のなせる技!
先生:
ちょっと待って、ナースちゃん。もしかして私の予後予測、いつも勘で言ってると思ってたの?
ナースちゃん:
え? 違うんですか? だってほら、ベテランってそういうの空気で分かるって言うじゃないですか。私も早くその域に達したいですよ。インタビューで、「患者さんの空気が、私に予後を囁きかけてくるんです」って言ってみたいですね。
先生:
それなんのインタビュー?
ナースちゃん:
「YORi-SOU がんナーシング」のナースインタビュー特集です。いつか巻頭グラビアに呼ばれたときのために、最近ピラティス始めたんですよ。
先生:
(……「YORi-SOU がんナーシング」にそんな企画あったっけ?)というか、予後予測は当て推量じゃないよ! 経験とか勘で適当に言っているわけじゃなくて、ちゃんとエビデンスに基づいた計算の仕方があるんだ。
ナースちゃん:
え、余命って計算できるんですか? でもどうせ、医者にしかできないような難しい計算なんでしょ。
先生:
実は、そんなこともないんだよ。 予後予測の仕方にもいろんなやり方があるんだ。ちゃんと看護師が現場で使えるものもあるからね!
ナースちゃん:
なにそれ、めっちゃ気になる!
予後予測スコアとは? 目的と役割をわかりやすく解説
先生:
じゃあまずは、予後予測スコアにはどんなものがあるか主なものを一覧にしてみてみよう。
予後予測スコア(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
うわぁ、なにこれ。「P」すぎる! 覚えさせる気ないでしょ、これ。
先生:
開発者も暗記のために名前付けてるわけじゃないんだろうけど、言いたいことは分かるよ。予後予測スコアって、どれも「P」だらけの略語ばっかりで紛らわしいよね。
ナースちゃん:
それにしても、思ったよりたくさんあるんですね。機械学習?とか、ナースにはとてもじゃないけど使えなさそう。
先生:
流石にこういう高度なやつは人間では計算できないから、電子カルテに統合して運用するような研究がなされているよ。近い将来、電子カルテのダッシュボードでおおよその予後が確認できたり、予後が短くなるとアラートが出るような機能が実装されるかもね。
ナースちゃん:
電子カルテに表示されたらとても助かりますね! でも、こんなにたくさんあるのに、なんで全然看護師には知られてないんでしょうね。
先生:
理由は色々あると思うけれど、ひとつには、これらの予後予測はがん終末期という限られた場面でしか使われないものだからかもね。看護師みんなが覚えるべきことにはなりにくいんじゃないかな。まあでも多分、それより大きいのは、「予後の話=医師の仕事」という考え方が強く根付いてしまっているところだろうね。
ナースちゃん:
そりゃそうですよ。ご家族さんに「予後はどれくらいなんでしょうか」って聞かれたら、「また先生に聞いてみましょうね」って返答するのが一年目ナースの必修テンプレですからね。
先生:
もちろん、主治医の意向もあるだろうから、その返答も正しいと思うよ。でもやっぱり、看護師もプロの医療従事者だからね。患者さんに最期の大切な時間を有意義に過ごしてもらうためにも、きちんと残りの時間を意識した看護ができたほうがいいよね。
ナースちゃん:
そこまで言うからには、ナースにも簡単に使える予後予測スコア、あるんでしょうね?
先生:
もちろん! ここからが本題だよ!
看護師が日常臨床で使える予後予測スコア:Palliative Prognostic Index (PPI)とは
Palliative Prognostic Index (PPI)(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
なにこれ、私たちが毎日見てる症状ばっかり!
先生:
そう、PPI(Palliative Prognostic Index)は観察による項目だけで、おおまかに患者さんの予後が一ヶ月以上あるのか、週の単位に差し迫ってきているのかを知ることができるスコアなんだ。血液検査のデータなんかは不要だから、看護師が評価するのにぴったりだよね。
ナースちゃん:
この項目、直感的にもすごい分かります! 患者さんケアしていて、食事量落ちたり、むくみが強く出てくると、そろそろ残された時間が短くなってきたかなって感じますもん。
先生:
そうなんだよ。そういう臨床的な経験を正しく選別して、誰にでも使えるかたちにするのが科学的研究の醍醐味なんだ。まあでも、PPIについては正直個人的に多重共線性が気になって――。
ナースちゃん:
あーあー、はいはい。科学オタクの持論はまた今度飲みながら聞いてあげますから。まあでもこれをちゃんと知っていれば、医師に患者さんの予後について相談するときも、 「私の感覚なんですが~」じゃなくて 「PPIで〇〇点なので~」って自信を持って言えますね。
先生:
それもとても大事なことだね! 勘では個々人の意見が割れてしまいかねないけれど、客観的な指標があればチームで見解を統一することができる。患者さんの大切な時間を少しでも無駄にしないために、とても大切なことだよね。
予後予測スコアで看護はどう変わる? 予後別実践ポイント
ナースちゃん:
でも先生、スコアがつけられても、その先が分からないと意味ないんですよ。 ただ点数つけるだけで患者さんが楽になるなら、私もいくらでも計算しますけども。
先生:
分かってますとも。これでどうだ!
予測予後別看護師がやること(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
私、予後予測ってなんか残酷だなって思ってました。だからつい、自分の仕事じゃないって、考えるのを諦めてたのかもしれません。
先生:
分かるよ。限りある人生を大切にしようとしている人たちに対して、時間という客観的な軸はどうしても無機質に思えるよね。
ナースちゃん:
でも、予後がちゃんと意識できるからこそ、一日一日にできること、やるべきことがはっきりするんですよね。
先生:
そうだね。予後予測は患者さんやご家族を絶望させるためのものじゃなくって、「もしお別れがこんなに早いと、あのとき分かっていたら……」っていう後悔を少しでも減らすための大事な指標なんだよ。
ナースちゃん:
これからは自分でもちゃんと根拠を持って予後予測をしながら、患者さんやご家族に関わっていきます!
先生:
実は医者より看護師のほうが、予後の見立てが正確だっていう研究もあるんだ。患者さんの日々の生活に寄り添う看護師だからこそ、見えているものもたくさんあるんだよ。
ナースちゃん:
ちなみに、どこまで飲んだら二日酔いになるのかの予測スコアってありますかね?
先生:
そんなもんはないよ。言っとくけど、次の看護研究のテーマ、それじゃ受け付けないからね!
【参考文献】
1)日本緩和医療学会 編: 専門家を目指す人のための緩和医療学.改訂第3版.南江堂;2021.
2)Rossi A, et al.: Evaluation of the Impact of a 90-day Mortality Prediction Model Integrated in the EHR for Advanced Care Planning. medRxiv. 2024. doi: 10.1101/2024.10.08.24315123.
3)Morita T, Tsunoda J, Inoue S, Chihara S.: The Palliative Prognostic Index: a scoring system for survival prediction of terminally ill cancer patients. Supportive Care in Cancer. 1999;7(3):128–133. doi: 10.1007/s005200050242.
4)Uneno Y, et al.: Prognosis Prediction Models and their Clinical Utility in Palliative Care. In: Palliative Care. IntechOpen; 2017. doi: 10.5772/INTECHOPEN.69663.
University of Technology Sydney, St Vincent's Hospital Sydney
Visiting Scholar
緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。現在はオーストラリア・シドニーで、緩和ケアの質改善や教育に関する研究に携わっています。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。
