忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。


幸せってなんだろう? PERMAは幸せの要素

ナースちゃん:
最近よく「ウェルビーイング」とか「幸せ」とか聞くじゃないですか。患者さんやご家族の幸福度とか。正直、看護の現場で言われると、ちょっと構えちゃうんですよね。忙しいし、理想論っぽいし、「余裕ある人の話でしょ?」って感じ。

先生:
そう思うのも自然だと思うよ。「幸せ」って捉えどころがないからね。ナースちゃんの「幸せ」っていったら何?

ナースちゃん:
そりゃ、こたつでハーゲンダッツ食べながら、2005年のヒョードル対ミルコの神試合を見てるときですね。

先生:
えらく具体的なのが出てきたね。でも、「幸せ」にもいろんな形があるよね。

ナースちゃん:
もちろん私だって、患者さんに「ありがとう」って言ってもらったときとか、友達とわいわい飲んでるときとかにも「幸せ」感じますよ。でも、そういうのっていつでも必ずそこにあるわけじゃないじゃないですか。ダッツとヒョードルは私を裏切りませんからね。

先生:
急にダークな一面を見せられると、ドキッとするね。

ナースちゃん:
大人の魅力ってやつですよ。

先生:
ナースちゃんから漏れ出している何かの究明はさておき、このつかみ所のない「幸せ」を心理学的に説明しようとした人たちがいるんだよ。

ナースちゃん:
え、そんなことできるんですか? 「幸せ」なんて人それぞれじゃないですか。

先生:
そうとも言える。でも、心理学的に「幸せ」には共通する構成要素PERMAがあるんだよ。

幸せを探求する心理学――ポジティブ心理学とは

先生:
まず、PERMAの前に、ポジティブ心理学の話を少しだけしようか。心理学者のマーティン・セリグマンは、心理学がずっと人の負の側面ばかりを見てきたことに疑問を投げかけたんだよね。

ナースちゃん:
確かに、心理学ってポップなやつを除けば、なんか心の傷とか不調ばっかり扱っているイメージありますもんね。

先生:
ポップ心理学は、学術的な心理学とはまたちょっと別のジャンルだからね。


マーティン・セリグマンのポジティブ心理学(タップして拡大↑)

ナースちゃん:
おお、なんかめっちゃ名言っぽい!

先生:
実際、名言なんだよ。彼がポジティブ心理学という新しい道筋を付けてくれたおかげで、人間にとって幸福とは何かとか、前向きな心の働きの研究が盛んになっていったんだ。

ナースちゃん:
単純に「頑張ろう!」とか「ポジティブになろう!」とか精神論に走っちゃわないところが、学者っぽいですね。

先生:
ははは、そうだね。セリグマンが言ったのは、「人が何に支えられて生きているのか」もちゃんと科学の言葉で扱おう、ということだったんだよね。幸福になるっていう目標の前段階とも言えるね。「そもそも、幸福って何?」ってところから考えてみようよ、って話さ。

ナースちゃん:
頭のいい人は、いつもこう回りくどいんですよね。

先生:
まあまあ、そう言わずに。幸福ってものの本質が分かればこそ、気合や性格論に頼らずに、誰もが幸福への地図を得ることができる。そして、その一つの答えがPERMAなんだ。

幸せの構成要素、PERMAとは?

ナースちゃん:
パーマって、もしかして、サザエさんのヘアスタイルの――。

先生:
髪にあてるパーマは、英語だとpermだね。定番のボケをありがとう。

ナースちゃん:
投げられた球を全部打ちに行ってしまうのも、もういい歳だからやめようと思ってるんですけどね……。

先生:
PERMAは幸せを構成する5つの要素の頭文字なんだ。


PERMA(タップして拡大↑)

先生:
PはPositive emotion(ポジティブな感情)。喜び、感謝、希望、愛情などの肯定的な感情体験を指すんだ。これは、従来の幸福研究における「快楽」の概念も包含してるんだけど、今ではより広範な感情状態を含む概念として考えられている。

ナースちゃん:
「お酒飲んで楽しいー!」だけがポジティブな感情じゃないってことですね。

先生:
そうだね。ポジティブな感情は、個人の主観的な幸福感の基礎で、レジリエンス(回復力)を高め、創造性を促進するんだ。

ナースちゃん:
いきなり初っぱなから守備範囲広めのやつきたけど、大丈夫ですか? あと4つも要素あるんですか?

先生:
まあ、続きを聞いてよ。EはEngagement(没頭)。心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー状態」の概念とも密接に関連しているよ。フロー状態とは、活動に完全に没頭し、時間の感覚を失い、自己意識が消失するような心理状態を言うよ。スポーツ選手とかだと、「ゾーンに入る」って表現したりするね。

ナースちゃん:
分かります! 時間を忘れて部屋のコロコロ掛けに没頭した後って、妙にすっきりした気分になって幸せ感じますもん。

先生:
RはRelationship(人間関係)。他者との肯定的なつながりと社会的支援を指すんだ。まあ、これが幸福に繋がるっていうのは、誰しも実感があるところじゃないかな。

ナースちゃん:
どっちかって言うと、ここが上手く行かないと不幸になるってイメージですけどね。

先生:
MはMeaning(意味)。自分の人生や活動が、何か大きな目的や価値に貢献しているという感覚のことだよ。単なる快楽や満足を超えた、より深い充足感の源泉となるんだ。

ナースちゃん:
看護師なんて大変な仕事、意味があると思えなきゃ、やってらんないですよ。患者さんやご家族の人生にとってとても大事なことなんだと思えばこそ、身を粉にして働いてきたんです!

先生:
まさに、それが大事なんだよ! 医療従事者はちゃんと意味を持って働いていることが多いよね。最後のAはAccomplishment(達成)。目標の達成、能力の発揮、成功の体験を指すよ。これは、単に外的な報酬や承認を得ることではなく、自己の成長と能力の実現を含むのがミソだよ。

ナースちゃん:
並べてみると、当たり前に感じているものもあれば、あんまり普段意識していなかったものもありますね。

先生:
要素を整理して列挙するってのは、自分の中にあるでこぼこを意識するのに重要なんだよね。

ナースちゃん:
でも先生、何が幸せの構成要素かってのは分かりましたけど、自分に足りないところがあったとして、どうすればいいって言うんですか!?

PERMAを使って幸せになるには?

先生:
もちろん、そこが大事だよね! 残念ながら、「これをすれば全て解決!」なんて安直な方法はないんだ。

ナースちゃん:
まあ、当たり前ですよね。幸福なんて、人生のとても大きな課題なんだし。一発解決の方法がるなら、既に全人類がやってますよ。

先生:
ただ、PERMAの研究が進んで、どういう介入がそれぞれの側面において効果的なのかは、少しずつ解り始めているんだよ。


PERMAの改善法(タップして拡大↑)

先生:
ひとつひとつのやり方を事細かに説明していたらえらいことになるから、ちょっと割愛させてもらうよ。

ナースちゃん:
まあ、自分に足りなさそうなところとやり方が分かれば、ネットで調べられますからね。

先生:
ちなみに、自分のPERMAがどんな状態かっていうのは、PERMA-Profilerっていうテストで調べられるんだ。23問しかないから、とても簡便にできるのも魅力だよ。日本語版は、金沢工業大学心理科学研究所が無料で公開してくれているよ!
https://kitap01.kanazawa-it.ac.jp/permaprofiler/public

ナースちゃん:
おーし、やるぞ!

先生:
こらこら、話の途中で始めないで。

幸せになるには、まず現状を知るところから

ナースちゃん:
私、幸せってもっと曖昧なものかと思ってました。だから、なんとなく「幸せじゃないなぁ。しんどいなぁ」って思っても、深く突き詰めて考えてみようと思ったこと、なかったかもしれません。

先生:
あったとしても、一番気になることとか、辛かった出来事にばかりフォーカスしてしまいがちだよね。

ナースちゃん:
そうなんですよ。でも、こうしてPERMAを俯瞰してみると、案外幸せを感じられていない理由って、いくつか同時にあったりするもんなんですね。

先生:
そうなんだよね。特に「漠然とした不安」みたいなものを抱えているときは、PERMAで自分の心をひとつひとつ紐解いていくのが大切なんだよ。

ナースちゃん:
私も今日からPERMAを意識して、ヒョードルとダッツ以外の幸せを見つけようっと!


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【参考文献】
1)Seligman MEP, Csikszentmihalyi M. Positive psychology: An introduction. American Psychologist. 2000;55(1):5–14.
2)Seligman MEP. Flourish: A Visionary New Understanding of Happiness and Well-being. Free Press; 2011.
3)Bolier L, et al. Positive psychology interventions: A meta-analysis of randomized controlled studies. BMC Public Health. 2013;13:119.




光齋久人
University of Technology Sydney, St Vincent's Hospital Sydney
Visiting Scholar

緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。現在はオーストラリア・シドニーで、緩和ケアの質改善や教育に関する研究に携わっています。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。
X:しくじり緩和ケア医@シドニー (@StumblePall