コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、それまで通っていた農林大学校を退学することを決意したまめこさん。寮の荷物整理に向かうと、友人たちが学校最寄りのバス停まで迎えに来てくれました。3カ月ぶりの再会でしたが、変わることのない「ゆるさ」で出迎えてもらい、そのまま食事に行くことになりました。友だちとの再会で、農林大学校で過ごした1年間の楽しい思い出がすぐによみがえってきます。
いま見えている景色
学校から東のほうに向かって走り出すと、どんどん道が開けていきます。学校は標高の高いところにあるため、どこへいくのも自然と下り道です。
車から見える街並みが、すごく爽やかで好きです。
学校から離れていくと、少しずつ道幅も広くなり周りの一軒ごとのお店が大きくなります。都心ではショッピングモールに集められるだろうお店がドン、ドン、ドンと建っています。どんなに運転が下手でも、どこかしらに停められるほどの駐車場の広さ。清々しささえ感じます。
車通りがほぼない二車線の道路。この道も、もう来ることがないのかもしれない。地元に帰ったら車を運転しなくなるだろうし、またこの土地に来てもこんな辺鄙な場所にはわざわざ来ないだろうから。
感傷的なっていると、前を走っている1人で乗っている友だちの車から「ふぅ~うぇ~~い」と声が聞こえます。こういうノリが久しぶりで、面白がるのにワンテンポ遅れた自分がいました。いままでの友だちにはいなかったタイプなので、唐突な言動に驚き、おもしろがっていいんだろうかと考えてしまいました(笑)。
「まじでやばい(笑)」
「1人でやってんだよ、あれ(笑)」
「まじうける(笑)」
車間も空いているなかで、車の騒音にかき消されない声のボリュームはけっこうな大きさです。こういうことを1年間楽しんできたんだった、と気づいたとき、もうリアクションするには遅すぎました。
これも田舎道だからできることです。山に囲まれて自然とともに生きている感覚も、時間を気にせず、どうでもいいようなことに声を出して笑うことも、地元に戻ったら珍しいものになってしまいます。
色んな大切な時間も、環境も、貴重になってしまう。
そういう決断を私はしたのです。
久しぶりの友だちとの食事
30分ほど車に揺られていると目的地に着きました。
「ここ?」
「そうそう、ここ!」
地元だとご飯を食べに行くとなるとチェーン店に行くことが多いため、個人店に行くのはテンションが上がります。農林大生のときは食堂のご飯かイオンのフードコートかの2択が多かったですが、車で少し走るとチェーン店を見かけることは少なくなり、家族経営の飲食店が多くなります。
「ここ何がおすすめなのー?」
「ハンバーグがおいしいよ」
「じゃあ、ハンバーグにしようかな~」
結局、みんなでハンバーグを注文することにしました。
友だち「ちょー久しぶりじゃん?」
友だち「仕事始めたんでしょ? どう? 良さそう?」
私「すごくいいところだよ。入職してやばそうだったら辞めようと思ってたけど、今後も続けていけそうと思えたからさ! 退学しても大丈夫かなと思えたんだよね」
友だち「本当よかった~! いいところに巡り会えてよかったね! さみしいけど!(笑)」
友だち「あと1年学校にいるって普通に思ってたもんね(笑)」
友だち「自粛期間中に『え?』って感じ(笑)」
私「ほんとほんと~コロナが流行らなければこうはなってないもん。全然予定になかったし」
友だち「だってこっちで就職するって言ってたもんね?」
私「インターンだってこっちで2箇所参加してるし、学校休んで病院見学も2件行ったからね(笑)」
私「コロナ流行り始めたころ、造園でインターンしてるときに社長と『ここはコロナ関係ないですね~。流行ってるのは東京だけの話なんですかね~』って話してたもん」
友だち「ウチらも休校になるほど影響があるとはあのときはぜんぜん思ってなかった」
友だち「てかまず農業も林業もみんなソーシャルディスタンス取れてるのに、休校になる必要あるんだか(笑)」
友だち「座学はなしにしても実習はしていいだろって感じ(笑)」
みんな「それな~」
友だちは私の決断に驚いてはいましたが、どこかそうすることがわかっていたかのようでした。私だけが想定外だったのかもしれません。
退学するかもとLINEで連絡したときも、予想以上にあっさりしていました。私的にはもうちょっとびっくりしてほしいなと思ったほどです(笑)。
思えば、看護師免許を取ったのにいきなり農林大学校に入学してくるトリッキーな人だったから、中退への受容は容易だったのかもしれません。
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。