新卒では看護師の仕事には就かず、農林大学校へ進学したまめこさん。コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、それまで通っていた農林大学校を退学することを決意し、荷物整理のために2カ月ぶりに学校の寮に戻ってきました。同級生と久しぶりに再会した後に向かった寮の部屋は同室だった友人たちもコロナ禍で自宅に戻り、とても寂しいものでした。次に明日の帰りのことを考えて、残していった自分の車の様子を見に行ったところ、リモコンではドアロックが解除できず、鍵穴に鍵を差しこんだところでセキュリティアラームが鳴り響きました。大きな音が苦手なまめこさん、いろいろ試みたもののアラーム音を止めることができず、不安がどんどん膨らんでいきます。そんななか助けを求められる人が頭に浮かびました。寮の舎監さんです。
仕組みのわからない車は怖い
大音量で鳴り響いている車のほうに向かって歩きます。
舎監さんが来てくれることに心底安心しました。
暗闇の中で不安と闘いながら、自分1人でどうにかできるなんて思えなかったからです。
車に乗り始めて1年も経っておらず、これまでにもコンビニに車を停めていたらなぜか車が動かなくなってしまい、パニックになりながら業者を呼んだこともありました。
業者さんは到着して車を少し見てから「これじゃ動かないよ」と言い、レバーを動かしたら、私にはお手上げだった車が何事もなく車が動き出しました。
業者さんは「なんともなくてよかったね」と言いながらも、「せっかく来たのにな」という気持ちが同居しているように思えました。私は、こんなことで呼んでしまった恥ずかしさで赤面しながら、車は仕組みが本当によくわからなくて怖いという気持ちでいっぱいになりました。
今回もなぜアラーム音が鳴り続けているのか、理解不能でした。不安症の私にとって、車なんて乗るものではないと思いながらも、この辺鄙な場所では車を使わない選択肢はありませんでした。
トラブルに対する冷静さ
舎監さん「待たせたな〜。お前さん鍵は差してみたんか?」
私「差してみました。でも鳴り止まないんです」
舎監さん「ほれ、貸してみろ」
鍵穴に入れ、鍵を回そうと試みるも固く回らず、アラームはやっぱり鳴り止みません。
舎監さん「なんだ、なんだ、ボンネット開けて見てみるか」
私「たぶんバッテリーが上がってるから鳴り止まないのかも」
舎監さん「バッテリー上がってるんか。そしたら俺の車を持ってきて、ケーブル繋いでみっか」
舎監さんはトラブルに対して驚くほど冷静でした。舎監さんのデカい車を横付けして、ケーブルを繋ぐまでほんの数分。
舎監さん「ほれ、エンジンかけてみろ」
鍵穴に鍵を差したままエンジンをかけてみると、先ほどまでまったく回らなかった鍵が回りました。そして、アラーム音も同時に消えました。
私「ありがとうございます!!」
舎監さん「よかったの〜。この車に乗って帰るじゃろ?これで一応バッテリーは回復すると思うけど、遠い道のりなんだから車屋で見てもらったほうがいいぞ」
どうやって持って帰る?
部屋に戻ってくると、今度はまた違う問題が目の前にありました。部屋の片付けです。持って帰らなければならない荷物の量に愕然としました。
服は夏物も冬物もあります。暇つぶしに買ったカホンやウクレレ、自分で切った直径10cm、長さ80cmの丸太もあります。車に積むにはかさばり過ぎる敷布団も掛け布団も枕もあります。
冷凍庫の冷凍パスタは今日食べるとして、買い溜めしていたアイスはどうしようか。今日と明日で食べられるだけ食べようか。無理して食べたくないけど捨てるのはもったいない。
そもそも荷物を車までどうやって持っていこうか。ダンボールは車に乗せづらいし……。そう考えていると、部屋に置いてあった大きなゴミ袋が目に入りました。
舎監室で45Lのゴミ袋をたくさんもらい、その中に荷物を突っ込むことにしました。服でいっぱいの袋はサンタクロースを彷彿させる大きな袋になりました。持ち上げるのも一苦労です。そんな大きな袋が服だけで2個できました。
粗雑にどんどんビニール袋に物を入れていきます。家に帰ってからの仕分けが大変になると思いながらも、いまはとにかく荷物を車に乗せられるようにすることが最優先です。
今日はこの部屋に泊まるので、布団一式はそのままにしておきます。明日の夕方には荷物をすべて出し、寮の鍵を学校に返しに行かなければなりません。
果たして間に合うのでしょうか。
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。