新卒では看護師の仕事には就かず、農林大学校へ進学したまめこさん。コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、それまで通っていた農林大学校を退学することを決意し、荷物整理のために2カ月ぶりに学校の寮に戻ってきました。寮に着いて、置きっぱなしの車のバッテリーが上がっていたり、片付けなければならない部屋の荷物の多さに愕然とすることもありましたが、ようやく出発する準備が整い、そのまま寮で一泊して朝を迎えました。
思い出す寮の朝の景色
使っていた部屋から荷物をすべて出し、鍵を閉めて舎監さんに渡した後、卒業した先輩たちが1泊する用に使っていた部屋に泊まりました。
朝、アラームで起きてトイレに行き洗面所で歯を磨きます。授業があったころはこの洗面所は混んでいて、譲り合って使っていました。鏡に写る友だちたちはみな、寝起きで眠い顔のままで歯を磨いていました。
寝るときも、起きたときも、いつも誰かしら人の気配があって、トイレの個室に入っているときさえもお喋りが止まらない、そういう生活が懐かしく感じられます。
歯磨きを終えて、朝ごはんを買い忘れていたことに気がつきました。冷凍食品は捨ててしまったし、食べられそうなものは何もありません。どこかのサービスエリアに寄って朝ごはんを食べることにしました。
着替えをしているとケータイに通知が入りました。
友人「おじょー!校舎前の駐車場に着いたよ!まだ寮?」
私「まだ寮!向かうね!」
友人「おけー!」
お世話になった人たちに囲まれて
急いで着替え、荷物をまとめて下駄箱に自分の靴が残っていないかチェックして、玄関を出ます。
学校にまた来ることがあっても寮に入ることはもうないのだろうな。たくさんの思い出をありがとう。
ポケットに車の鍵を入れて、校舎に小走りで向かいます。寮から校舎に続く坂道はけっこうな傾斜があり、夏の暑い日にはただ歩くだけでへばっていました。でも、友人たちが集まってくれていると思うと、その坂も気になりません。
「おじょー!!久しぶりー!!」
私を見つけた友人が手を振ってくれています。
大きな声を出すことが楽しいという彼女とは、お昼ごはんの時間を削って芝生で日向ぼっこしたり、放課後にイオンに行ったりと、多くの時間をともにした仲です。「声を出すのが好きだから、ラーメン屋でバイトしてみたい」と聞いたときには、世の中には大きな声を出したいと思っている人がいるのだと驚かされました。私からすると声出しは「やらされている」という感覚が強かったので、私にはない感覚を彼女は持っているのだと思いました。
ほかのみんなも手を振ってくれています。林業コースの女の子は私を含めて5人で、1人は私よりも先に退学して林業組合に就職しているので、来てくれたのは3人でした。
私「わざわざ来てくれてありがとうね〜」
友人「今日来なきゃいつ会えるかわからないでしょ〜」
私「またすぐにでも来たい気持ちはあるけど、コロナで外に出づらいからね〜」
友人「こっちはそんなにコロナの影響を感じないからな〜、山ばかりだし(笑)」
私「実習を見合わせている理由がわからないもんね。林業の実習こそ、ソーシャルディスタンスだもんね(笑)」
友人「先生たちももう着いてるらしいから呼んでくるね〜!」
私「ありがとう!」
話していると、校舎から先生たちが出てきました。
私「ご無沙汰してます。急に退学になってすみません」
担任「仕事は順調なのかい?」
私「そうですね、順調です。仕事を始めてみてうまくいかなかったら学校に戻ろうと思ってましたが、ありがたいことに人に恵まれて」
担任「ならよかったよ。心の療養のためにここに通っていたじゃないか。だから心配していたんだよ」
私「1年、自然に囲まれて過ごせたおかげで、またがんばれるほど持ち直したと思います。もうちょっとここにいたかった気持ちもありますが、病院に縁があったので」
担任「そうか、そうか。よかったね」
副担任「地元に帰ってから山には登れてるのかい?」
私「全然ですね。最近は家と病院の往復のみです」
副担任「そうか。授業でも山に登って、休みの日にも山に登っていたのにね(笑)」
私「先生が休みの日も連れて行ってくださるので、本当に楽しかったです。冬の山に登れなかったのが心残りですが」
副担任「結局、行けなかったもんね」
授業で山に登っていましたが、休みの日にも副担任に車を出してもらい、山のガイドをしてもらっていました。先生は草木にとても詳しく、質問すると何でも答えてくれました(聞く割には全然覚えられませんでしたが)。
山頂でコーヒーまで淹れてくれて、本当に至れり尽くせりでした。
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。