新卒では看護師の仕事には就かず、農林大学校へ進学したまめこさんは、コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、農林大学校は退学することに。病院勤務は週3日、働き始めて2カ月が経ちました。看護助手業務からスタートして、現在は緊張や不安を感じながらも周囲の温かい声かけにも助けられ、入浴介助や食事介助を担当していますが、今朝は出勤してすぐナースステーションでの申し送りに参加して、あいさつをしました。今日はいつもとは違う仕事がありそうです……
ベテラン看護師さんと回って
朝の申し送りが終わり、看護師さんたちはそれぞれ動き始めます。私はいままで下の階から上がってきたら特浴室に直行していたので、どう動き始めていいのかわかりません。とりあえず座っていた椅子を休憩室に片付けて、ナースステーションのど真ん中でキョロキョロと周りを見渡します。
師長「本間さん、今日フリーでしょ〜? まめこさんお願いね〜。お風呂前に浣腸とか教えてあげて!」
本間さん「え?? 私ですか、師長さん?」
師長「そうよ〜優しくしてあげてね〜!」
看護師免許を持っているのに看護助手業務をしているピヨピヨした私の面倒を見るのがめんどう〜というような雰囲気を醸し出しながらも、本間さんがこちらに向かってきてくれました。
私「お願いします」
本間さん「特浴担当の人はね、始まる前に浣腸に行くのよ。ここのバインダーに書かれている人を回って行くの。この机の下に浣腸が入っているから取って、潤滑剤と袋を持っていくよ〜」
私「わかりました。」
50人以上いるフロアなのに、本間さんは名前を見ただけでどこにどの患者さんがいるかを把握していてすごいなと思いました。
本間さん「浣腸くらいはやったことがあるでしょ?」
私「まだやったことがないんです……」
本間さん「そうなの!?(笑)」
看護師歴20年は超えていそうなベテラン看護師さんにとって、浣腸が初めてというのはびっくりだったのかもしれません。そもそもこの病院は新人看護師が勤めるような場所ではなく、大多数が看護師歴10年以上です。
本間さん「やり方くらいはわかるでしょ?」
私「はい。患者さんに左側臥位になってもらって、注入時は口呼吸を促します」
浣腸が終わると、患者さんのベッドの足元にあるおむつ表に浣腸実施したことを記載します。
本間さん「浣腸は汚物処理室に捨てる場所があるからそこに捨てといて〜。ナースステーションにあるゴミ箱には捨てちゃだめよ」
私「わかりました。」
本間さん「捨て終わったら、もうお風呂始まる時間だから着替えて準備しなさい」
私の無難なリアクション
いつも通り入浴介助用のTシャツとズボンに着替えました。本間さんは、最初はピヨピヨの私の指導につくのがめんどうくさそうでしたが、すべての動作がぎこちない私を見て笑っていたので、きっと私のことを嫌いではないんだろうなと思いました。自分としてはどこに笑えるポイントがあるのかがわからないくらい必死だったのですが……。
着替えが終わってから、水筒を持ってくるのを忘れたためナースステーションに戻ったところ、看護師さんたちに話しかけられました。
看護師Aさん「あら、高校生みたいじゃない(笑)。どこの子が紛れ込んじゃったのかと思ったよ」
看護師Bさん「似合ってるね(笑)。いいじゃん!かわいい!」
看護師Cさん「ほんとね(笑)。若いっていいわね〜」
私はいままで実年齢より年上に見られることのほうが多かったためびっくりしました。小学生のときは中学生に見られ、中学生のときは高校生に見られ、高校生のときは18歳に見られていたので、歳を下に見られることは意外でした。
ですが、思えばショートカットで前髪を上げて、半袖半パンを着た姿は高校生に見えないこともなかったかもしれません。そして、職場で「かわいい」と言われるのは何だか不思議な感じです。学生時代は同級生のあいだでかわいいポジションではなかったですし、なんなら怖いと思われていたので、どうリアクションしていいか困惑しました。
私「ああ、あは、あ、あ、……」
このような想定外の場面に初めて出会ったとき、どうリアクションしていいのかわからなくなり、真顔でフリーズしてしまうのは私が持つASDの特徴です。
周りに変とか怖いとか思われてしまうので、とりあえず声を出して、困りながらも微笑んでおきました。この方法が本当に適切かはわかりませんが、私が21年間生きてきたなかで編み出したいちばん無難な方法です。
映画『千と千尋の神隠し』に出てくるカオナシをちょっと笑顔にしたようなイメージです。ただ、自分ではちょっと笑顔にしたイメージをしていますが、他の人から見ればほとんどカオナシと変わらないくらい不器用な顔をしていると思います。
これが私の精一杯です。