新卒では看護師の仕事には就かず、農林大学校へ進学したまめこさんは、コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、農林大学校は退学することに。病院勤務は週3日、働き始めて2カ月が経ちました。看護助手業務からスタートして、現在は緊張や不安を感じながらも周囲の温かい声かけにも助けられ、入浴介助や食事介助を担当していましたが、業務内容も徐々に変わりつつあり、褥瘡の処置にもかかわりはじめました。そんなとき突然、所属フロアを異動することになりました……
まだ、待って
入職時に暗髪にしましたが、ブリーチ毛のため徐々に色が落ちて明るくなってきました。
室内で見るとまだ大丈夫かな……。
日差しに当たるとだいぶ明るいな。
そろそろ黒染めしなさいって言われるかな。
自分のタイミングで黒染めするから、髪染めてきなさいとか言わないでほしいな。そう思っていると喉元が押されて息苦しくなります。“いい子”にしないといけないプレッシャーとそれを上手いことできない脳、その反動が身体に出てきます。
病院内で日向になるところなんて、そうそうないんだからまだ大丈夫。だふん、大丈夫。
大丈夫であって、ください。
名札が変わってから初めての出勤
いままでは下の階でタイムカードを押してから上に行っていたけど、直接上の階に行くなら何時に行くべきなんだろうか。
早く出勤したところで時給が発生するわけではないし、何ができるわけでもないし、何したらいいかわからないし。それに、スタッフ全員が師長みたいな貫禄があるから、みんなが揃っているナースステーションのあの圧に朝から耐えられそうもない。話しかけられたら、角が立たない上手い返答ができる自信もないし。
ギリギリに、行こう。
何か言われたら、その時はその時だ。
階段を上がり、ナースステーションの中を突っ切って行けばタイムカードを押す場所まで最短距離ですが、会う人への挨拶のタイミングもわからないし、そもそも私の存在に気づかれたくないので遠回りします。
ナースステーションの外郭に沿って歩き、看護助手休憩室の中にあるタイムカードリーダー目指します。
休憩室に入るときはたぶん挨拶は必要だから、挨拶しないとなと頭の中で何度も復唱します。
看護助手「え!? どうしたの?」
私「!!?(フリーズ)」
看護助手「いままで下でタイムカード押してたよね?」
私「あ、あのこれからはこの階で押すことになりました」
看護助手「そうなの?」
私「い、異動になったみたいです、私」
不思議そうな顔をされたので名札の配属先が変わったことを見せましたが、それでも変わらず不思議そうな顔をしています。
看護助手「入職したばかりだよね?」
私「はい」
看護助手「そんな早い異動ってあるの?」
私「いや、私も驚いてて。人事総務の方が言うには師長が2フロアみてるから、変わらないでしょ的なニュアンスでした」
看護助手「あ~、そういうことね~。この病院さ、人事異動が急なんだよね~。今回もそういうことなんだろうね」
私「はい」
看護助手「特浴担当が来てくれて、うれしいよ~。これからよろしくね~」
見えない地雷を、避けるために
タイムカードを押すと8時23分。
ギリギリ過ぎたかもしれません。
私「あの、このタイムカードを入れる場所は何か順番とかありますか?」
看護助手「ないんじゃない~。みんな好きなところ入れてると思うよ」
私「そうなんですね」
これは「気を遣わないでいいよ」と言いつつも「気を遣うのが当たり前でしょ?」の罠だろうか。言葉を間に受けて、そうではないと言われた記憶が多過ぎて、何が正解なんだかもうよくわかりません。
タイムカードを入れるスペースをまじまじと見ても、誰が偉くて、誰が役職者なのか、歴が長いのは誰で、性格が面倒くさくないのは誰かなど、名前も顔も全く一致していないのでよくわかりません。
これまで特浴室メインで動いていたので、顔を合わせるのは一部の看護師と師長のみです。そもそも、その人たちの性格すらも知りません。
いや、むずいな。
これは地雷踏んでしまうフラグだろうか。
はあ~、まじでこういうことに気を遣っていくのたいへん。
でも、こういう一つひとつのことに気を遣わないと定型発達社会では生きてはいけないのです。ましてや看護師の世界では。