新卒では看護師の仕事には就かず、農林大学校へ進学したまめこさんは、コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、農林大学校は退学することに。病院勤務は週3日、働き始めて2カ月が経ちました。看護助手業務からスタートして、現在は緊張や不安を感じながらも周囲の温かい声かけにも助けられ、入浴介助や食事介助を担当していましたが、業務内容も徐々に変わりつつあり、褥瘡の処置にもかかわりはじめました。そんなとき突然、所属フロアを異動することになり、利用する休憩室、タイムカードを押す場所も変わり、どう振舞えばいいのか不安を感じながらの勤務が始まりました。一方、ダメ元でアルバイトに応募した皮膚科クリニックでの採用が決まり、制服のサイズ合わせに行きました……今回は、自分のことを理解してもらうために制作した動画のお話です
看護師1年目フリー業務
病院に入職してから10カ月間はずっとフリー業務をしていました。主体的に褥瘡の処置やバルーン交換はできるようになったものの、フリー業務をするときはほとんど先輩が付いている状態でした。
最初は週3回の午前中勤務でしたが、徐々に週2回の午前中に加えて週1回は15時まで勤務の日をつくって午後の時間に慣れるようにしていました。ASDの私にとって昼食の時間はとても複雑な時間です。ご飯を食べつつ、周りの空気感にもずっと気を配らなければいけない。いろんなことを質問されるが、角が立たないように返すにはどうするのがベストかと常に頭を働かせ続けます。ASDオリジナルの返答をしてしまうと理解されなかったり、変だなと思われたりするので、できるだけ定型発達っぽく返す努力をしていました。30分の休憩に慣れるのも、一苦労です。
もう少し待ってほしい
「まだ点滴詰めさせないの?」
「吸引くらいやらせてもいいんじゃないの?」
「師長さんの考えなんじゃない?」
入職してから半年経っても点滴を作るのも、吸引も、採血もしたことはありませんでした。先輩たちの声が耳に入り、心臓がドクンとなります。
私の最優先事項は、シフトのある日にちゃんと出勤すること。普通の人からしたら当たり前のこと過ぎますよね。師長さんとしても発達障害を持つ看護師を育てたことはなかったと思うので、進み具合を慎重に見てくれていたんだなと思います。
私は、ずっと怖かったです。
入職して半年も経てば普通は部屋持ちして夜勤も始める。それが一般的です。
でも私は、朝から夕方までの1日も働けない。
「変な子」「使えない子」だと思われて見放されてしまうんじゃないかとすごく怖かったです。
だいぶ待ってもらっているほうだけど、まだ私の身体も心も準備ができていない。でも、どうかもう少し待っていてくださいと願っていました。
全然理解できなかった(笑)
病院で働き始めたころから、いままでのことを動画にまとめてみたいなと思っていました。私の特性も働き方もだいぶ特殊なので、誰かに理解してほしいなと思ったときに「この動画を見てもらえれば少し私のことがわかってもらえると思います」と渡せるものを作りたいと思っていました。
私は5年一貫の看護高校を卒業していますが、5年生のときに隣の席の子に「5年間いっしょにいたけど全然理解できなかった(笑)」と言われたのです。
彼女は笑っていたけど、私は時が止まってしまいました。私にとって、その瞬間は絶望的だったからです。たいへんなことをたくさんいっしょに乗り越えてきたクラスメイトにすら「わからない」と言われてしまったら、この先、私のことをわかってくれる人なんて現れないのだと。こんなに濃い時間を共有した人にすらわかってもらえないのだと。お先真っ暗でした。
そんな悲しさは、私の説明動画を作る原動力となりました。何を話すか、どう話すか、どんなテンションでいるべきか。沢山考え、動画を撮り、編集を終えるまで1カ月以上かかりました。
ゆるりと再生回数は伸びていき、3000回を越えたあたりから、きついコメントも書き込まれるようになりました。
「障害者には最初から資格を取らせなくするべき」
「障害者に看護されるのは不安」
「まわりの人々が苦労させられ、疲弊する障害です。まわりの人があなたのミスをずっと常にカバーしつつ、自分たちの仕事もするわけです。あなたのミスでみんなが大変苦労するのが目に見えるようです。あまり命にかかわらない病院で働かれては」
このようなコメントが届くたびに涙が止まらない日々を過ごしていました。それでも動画を非公開にしなかった理由は、それ以上に自分以外にも困難を抱えて生きている人がいるんだなと感じられたからです。
私は動画を作って公開するまで、こうした困難を持って看護師として働いているのは自分だけなんじゃないかという感覚がありました。看護高校のクラスには私しかいなかったから。
でも、日本中からコメントが届く。
この動画のコメント欄に書き込まれるものは一つずつが長文で、それぞれの困難が記されています。みんな話す場所がないから、ここに吐き出してくれるんだろうなと思います。
私は動画を作ったことで、コメントをくれる方々の人生に触れることができ、勇気をもらいました。