新卒では看護師の仕事には就かず、農林大学校へ進学したまめこさんは、コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、農林大学校は退学することに。病院勤務は週3日、働き始めて2カ月が経ちました。看護助手業務からスタートして、現在は緊張や不安を感じながらも周囲の温かい声かけにも助けられ、入浴介助や食事介助を担当していましたが、業務内容も徐々に変わりつつあり、褥瘡の処置にもかかわりはじめました。そんなとき突然、所属フロアを異動することに! さらに、病院勤務に慣れるにつれて、あらたな業務も増え、ついに部屋持ちすることになり、その準備が進んでいます……

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部屋持ち開始

採血やルート確保の段取りなど、部屋持ちをするための準備は整いました。といっても、スタートはできる状態ですが、自分の心はまったく準備が追いついていない状況です。

1日12人の患者さんを担当する責任を考えると、自分が本当に全うできるのか不安でしかありません。しばらくのあいだは先輩看護師が付いていてくれますが、その先輩看護師ともうまくコミュニケーションが取れるかどうかもわかりません。

そもそも部屋持ち業務は何をするのか。
この病棟にはマニュアルがなかったのです。 

どういうことだろうと思いましたが、考えてみればそれもそのはずでした。この病院に転職してきたり、異動してくる看護師はみなベテランです。大体の流れはすぐに掴めるのでしょう。

何度も“安心”なルートを壊さなければならないのがASDの人生

朝、点滴を作るところから始まり、申し送り中にパソコンの入力をしていきます。ベテラン勢は申し送りを聞きながら、パソコンを操作しても必要な情報をしっかり取れるようで、私にも「同じようにやれるでしょ」という雰囲気を感じましたが、私はできませんでした。

耳からの情報を保持するのが苦手で、同時に違うことをやるマルチタスクも苦手です。申し送りを聞くことは優先度が高いと感じつつも、きっと先輩が聞いていてくれるだろうからと、よくわからないパソコンをいじることにしました。

パソコン操作の仕方もわからない、どんなときにパソコンに入力しなきゃいけないのかもわからない、1日の流れもわからない、不安でしかなかったです。

病棟の方針は「やりながら覚えていこう!」でしたが、私はできるだけ人に指摘されたくない、いわゆる完璧主義の人間です。刺激に弱いためアドバイスだとわかっていても誰かに何か言われるたびに心臓がバクバクするので、自分のなかの最大限の準備をしておきたいのです。

でも、その方法では始められそうにありませんでした。

私が、自分自身が不安にならないように、適用するために作った「最大限の準備」という“安心”なルートを変え、「やりながら覚えていこう!」という病棟の方針に合わせなければいけません。ASDの私にとって、頭も心も混乱します。

安心材料を手に入れる

私が部屋持ちとして独り立ちするまでに、指導係の先輩看護師が日替わりで何人も付き、いろんな人の方法を見ながら、自分のものにしていきます。

10カ月間病棟の中でフリーの仕事をしていたとはいえ、部屋持ち業務しかしない看護師さんとはそれまでほとんど話したことがありません。

そのため指導係の先輩がどんな性格かよくわからず、毎回、毎回、緊張します。先輩たちの指導スタイルはさまざまで、ずっと張り付いていて見ていてくれる先輩もいれば、「ずっと見られていると緊張するでしょ〜」とときどき違う人の仕事を手伝いに行っていなくなってしまう先輩もいます。

ミスをしてしまうのではないかと不安の強い私は、どちらかと言うと一挙手一投足見ていてほしく、どこかに行ってしまう先輩に対して「行かないで〜(涙)」と思っていました。

そして、いろんな先輩に見てもらうことによって、私への評価がさまざまであることに気がつきました。

ある先輩は私に対して笑いながら「不器用だよね」と言い、また別の先輩は「覚えも早くて器用だよね」と言いました。そんな私に対して真反対の印象を持っていた2人の先輩が私のことについて話しながらお互いに「え? どこが?(笑)」となっているときはおもしろかったです。

看護学生・看護師あるあるとして、指導に付く看護師によってやり方が違うため、それに混乱するということがあると思うのですが、私はその場合はすべて師長に聞きに行きました。例えば「A看護師はこういった手順で、B看護師は順番が違いましたがどちらで覚えればいいですか?」といった具合です。

これにより、別の看護師に間違っていると指摘されたときに「師長さんに確認したらこの方法でやってほしいと言われたんです」と答えることができ、A看護師とB看護師が対立することを防げますし、私のなかで「師長さんに聞いたから大丈夫」という安心材料も手に入れられます。

師長にいろいろと聞きやすい環境だったのが救いでした。いろんな先輩の方法を聞いてしまうと、脳キャパがない私はすぐに混乱してしまうので……。

ベテランの先輩看護師の多くは新人を教えることに慣れていないようで、ナースステーションで「このやり方はこの手順で合ってるよね?」などと確認している姿をよく目にしました。

新人指導は「荷が重いし、やりたくない〜」と言いつつも、朝から夕方までの流れを昼食を食べながら書き出してくれた先輩もいて、本当にみなさんにとてもよくしていただきました(涙)。感謝しかありません。

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まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。