勤務を始めた病棟での食事介助。発達障害の特性から「いい感じに」や「もう少し」「多めに」といった抽象的な言葉には戸惑ってしまいます。そのため、先輩にめんどくさがられると思っても、正しく安全に行えるように、何度でも質問させてもらうなど、自分の業務を確かめながら進めていたが、後にそれを師長さんに認められ、評価してもらえていたことで、自身の成長を感じながら業務に取り組むことができるようになりました……

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「できる」ために必要なこと

「手を出していかないと覚えないでしょ」

働き始めて3日目、先輩に見守られながらおむつ交換を行うようになりました。もっと先輩たちのやり方を観察してからやりたいなと言う気持ちを持ちながら行っていたからか、上のような助言をいただきました。

それはとてもわかります。

経験を積めば技術は身についていくし、数をこなせば手技はできるようになる。でも、気持ちの整理はやればやっただけできるようにはならない。その前に潰れてしまう可能性があるからです。

多くの患者さんのオムツ交換をすることは、頭の中で「この患者さんはこういう疾患で、こういう状況だから、こうするべきだ」と考える回数が増えることになるし、患者さんに触れることによって感覚刺激も伴います。

うまくできていなければ先輩からの指摘があり、その言葉を受け取るときの自分の声のトーンや表情に気をつけなければなりません。そして、指摘してもらったのに次うまくできなかったらどうしようとプレッシャーも感じるし、いままで以上に次のおむつ交換では気をつけなければならないことが増えます。とにかく頭の中で咀嚼しなければならない情報が多くなるのです。

私の場合、1つの手技を獲得するにも、多くの情報を処理し、適応していかなければなりません。

私だって、できれば早く1人で何でもできるようになりたいです。でも、感覚が敏感過ぎて、すぐキャパオーバーになってしまう。だからゆっくりやることが、本当に「できる」ようになるために必要なのです。

指導してくださる人には、ものすごく忍耐力が必要になっていると思います。私自身、時間をかけてやることはとても苦痛ですから、見ている指導者はもっとたいへんだと思います。

(最近、後輩に手技を教える機会があり、1人で業務をこなすよりもぐったりとしてしまい、教えるってこんなにたいへんなんだなと感じました)

そんなとき、助手さんの1人から言葉をかけられました。

「若いんだから、ゆっくり覚えていけばいいのよ」

若いんだから、早く覚えて早く一人前になりなさいという考え方が当たり前だと思っていたので、この言葉にはとても救われました。自分でも早くできるようになりたいと焦ってしまう部分があるので、自分自身に「ゆっくりで大丈夫だよ」と言ってあげられることで心の健康が維持できました。

ゆっくりね、ゆっくり。私のペースでやってこ。

患者さんに名前で呼ばれて

「看護師さん、見ない顔だね〜。最近入ったの?」
「そうです。まめこといいます。よろしくお願いします」

勤務をはじめたときにそう話した患者さんが、数日後にもまた話しかけてくれました。

「まめこさん、もう働いてどれくらい? 10日ぐらいいるよね?」
「いえ、今日まだ4日目なんです」
「えー、もっといるかと思ったよー」

名前を呼ばれたこと、すごくうれしかったです。
不思議だったのが、まだ働き始めて4日目でまったく慣れていない状況なのに、もう環境に馴染んでいるように見えていたことです。

いままでいろんなバイトをしてきました。勤務をはじめて間もないのに、すでにベテラン感があるって言われたこともありました。発達障害を持っているため、動揺が顔に出ないからそう思われるのかなと思っています。

緊張していても、動揺していても、困っていても、「平然としている」「なんでもさらっとこなしそう」という印象を持たれるので、それはそれで困りごとです。

想定外をあえて経験する

発達障害を持っていると、刺激に敏感だからあまり外向きの活動をしたことがないかというと反対で、4カ所で住み込みバイトを経験したり、ダンスを10年やっていたり、子どもたちとキャンプに行くボランティアもしていました。

刺激に敏感だからこそ、いろんな所で想定外を経験していくことで少しずつ慣れていくのではないかと考え、これまでいろんなことをしてきました。

初めてコンビニバイトをしたときは何度も泣きましたし、行くのが嫌で家でも泣きました。お客さんに小銭を投げられたり、怒鳴られたりして、そのたびに心拍数が上がって不安が襲ってきて、怖くて怖くて仕方がなかったです。

住み込みバイトでは、案内された部屋が汚くてすぐに帰りたくなったり、食器を洗っていたら割れていたグラスが指に刺さり、圧迫してもなかなか止まらないほど出血して泣きました。

ダンススタジオを変えるときには、書類が足らずその月の提出期限に間に合わなくなり、パニックになって過呼吸を起こし、泣きながらお母さんに電話したり、初めてのキャンプボランティアではプレッシャーで呼吸が荒くなりました。

それでも、刺激を受けたくないからと家に引きこもることなく、慣れるためにたくさん挑戦したことはとてもよかったと思っています。

初めての想定外に出会うとパニックになってしまうこともありますが、看護学生のときや、看護師になってからも仕事中の忙しいときではなく余裕のあるときに経験したことで、いまでは少しのことで動揺しにくくなりました。それでも、やはり定型発達の人よりはパニックになりやすいです。

いまでも電車を乗り過ごしたり、ホームを間違えたり、用事の日時を捉え間違えていたりして、不安が爆発して泣きそうになりますが、昔よりコントロールできるようになりました。

ある程度は、仕事も日常生活も普通に送れるようになりましたが、それは克服するためにたくさん努力した結果だと思っています。

もし、身近に障害を持っている方がいたとして、見たところ「普通に生きられてるじゃん」と思うことがあったとしても、それは、その人がいろんな努力をして、その結果として生きられているのだと思います。途中で無理になっちゃった人は、引きこもったり、疾患を発症したり、なかには自殺を選ぶ人もいます。

一人ひとり得意や苦手が違うこと、不安に感じやすくパニックになりやすい人もいることなど、自分が接している周りの人だけでなく、まったく違った特性を持つ人もいるんだなってことを知ってもらえたら、障害を持っている人も、そうじゃない人も、もっと生きやすいのになと思います。

1人で努力しなくても、周りの理解や配慮があれば、その人は特性を持ったまま生きられるのに。

私はひとまず10代を運良く乗り切れたけど、私と同じような特性を持った人がこんなにアグレッシブに乗り切れるわけではないよなと思っています。

たまたまいまの社会に合わない特性を持って生まれてきただけなのに、こんなにも個人の努力に頼らなければならないいまの仕組みはよくないんじゃないかな。

生きるって難しいですね。

プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。


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