触覚過敏もあってか、子どものころから雨で靴の中が濡れることや服が濡れることに強い気持ち悪さがあり、それは高校生になっても同じでした。ところが看護学校卒業後に進学した農林大学校で、濡れることが嫌いではなくなりました。それは、濡れて自分の機嫌が崩れても、自分で修正するだけの時間の余裕、気持ちの余裕があったからでした。初めての病院勤務も、助手業務から始めたことが精神的安定につながっていて、まだゆっくりじっくりしっかり助手業務をやっていきたいなと思っていたところでしたが……

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その時は突然に

助手業務に少し慣れてきたころ、その時は突然に来ました。

師長「仕事、最近どう? 慣れてきたー?」
私「少しずつって感じですね、、、」
師長「1つ上のフロアでお風呂やってみない?」
私 (!???)「お風呂ですか??」
師長「上はこのフロアより部屋が広いから、やりやすいと思うんだけど〜」

私が配属されたフロアの特浴(ベッドからストレッチャーに移動してもらい洗体・洗髪をする)は、とても狭い場所でスピーディーに行われていたため、私にはこんなにテキパキできない……と思っていました。

患者さんの便が何日も出ていなければ摘便をすることもあったのですが、その手技はまだまったく行ったことがなく、大丈夫かなという思いもありました。

それに1つ上のフロアは患者さんにどんな方がいるかもわからなかったので、それについても大丈夫かなという不安もありました(師長さんは2つのフロアの管理をされていたので、私が上のフロアまで行って入浴を担当することも可能だったのです)。

師長「私も一緒に入るからどう〜?」

(師長さんが一緒にいてくれるなら、患者さんについて気をつけなければいけない点などを教えてもらえるだろうし、できることは増やしたいから、やってみようかな)

私「お風呂やってみたいです」
師長「じゃあ、来週の水曜日よろしくねー!」

(配属されたこのフロアの患者さんでさえ顔と名前と疾患が一致していないのに、上のフロアに行くなんて大丈夫だろうか。また新しい環境になるし、緊張するな。でも新しいことをやらせてみようかなと思ってもらえたのは、すごくうれしい。気持ち的にはワクワクしているけど、心はついていけるかな)

できることを早く増やしたいという気持ちと、心はついていけるだろうかという不安が共存していました。

師長さんから提案をされると、「やります」という選択肢しかないみたいな圧(立場が上の方から言われると誰でも感じるもの)を漠然と感じるわけで、断る選択肢なんてないと思いました。ただ同時に、成長したい、新しいことを覚えたいという楽しみに感じる気持ちも大きかったのです。また、師長さんなら、もし私ができなくても受け止めてくれるだろうという安心感もありました。

一度メンタルをこじらせている身としては、再度こじらせると復帰にはだいぶ時間がかかってしまうことが予測できるため、ステップアップしていくために一つずつ取り組むとしても、その一つずつのステップに対して安心感がないと踏み出せないのです。

入浴介助の日までの過ごしかた

水曜日までのあいだ、家で教科書を読んだり、ネットで動画を観たりしながら準備をしました。教科書には足浴や全身清拭のやりかたは書いてあっても、特浴のやりかたは書いていなかったので、保清時に何に気をつけるかなどを参考にしました。

また、農林大学校の学生だったころに、訪問入浴のアルバイトを2回したことがあったため、そのときの記憶を思い出してイメージトレーニングもしました。

当日の頭のなか

お風呂を始めるのは10時ごろと言われていたので、9時半ごろまではいつも働いているフロアでオムツ交換をしていました。

オムツ交換はそれまでに回数をこなしてきたので徐々に慣れてきてはいたものの、お風呂のことも頭のなかで考えているので、朝から脳がパンパンでした。

まだまだオムツ交換が完璧にできるわけでもないため「この患者さんにはこういう特徴があって、こういう体位変換をしなきゃいけないな」と思いながら、一つひとつの動作を考えて確認しながら進めているなかで、「お風呂は10時ごろだから、その前に着替えなきゃいけないし、それをどのタイミングで周りに言ったらいいかわかんないし、あー、前に確認しとけばよかった」なんて考えていくとすでにキャパオーバーになりそうでした。

着替える服はどこにあるのかわからないし、どこで着替えたらいいかも聞いてない。

着替えてから上のフロアに行くべきなのか、上で着替えるべきなのか。

長靴ってどこにあるんだろう。

入浴室はたぶん暑いだろうけど、飲み物って持っていっていいのかな。

師長さんに呼ばれて一緒に上に行くのかな、それともみずから上に行って師長さんに声をかけるパターンなのかな。

いきなり上のフロアに行ったら上のフロアの看護師さん「なんで来たの?」って思ったりしないかな。

今日、私がお風呂やるってこと、情報共有されているのかな。

怖かったら嫌だな、すでにメンタルきてる説あるのに、、、


直前になって考えることがいっぱいあり過ぎだけど、師長さんは忙しそうで今日は会えていないし、どうしよう……という思いが降り積もります。

いろいろ考えているうちに9時半になりました。

そろそろ着替えたほうがいいよなと思っていたら、助手さんたちから「今日、お風呂担当なんでしょう〜。そろそろ着替えたほうがいいんじゃない?」と言われ、入浴用の服がある場所と着替える部屋を教えてもらい着替えたのでした。

プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。


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