ある日、師長さんから声を掛けられて、上のフロアで特浴を行うことに。初めてのことに不安と緊張を感じながらも、新しいことをやらせてみようかなと思ってもらえたことはうれしくて、ワクワクもしました。特浴に入る次の水曜日まで、家で教科書を読んだり、ネットで動画を観たり、以前にアルバイトで経験した訪問入浴を思い出しながらイメージトレーニングをして準備をしました。そしてその日が来ました。朝から落ち着きません。よく考えたら着替える服がどこにあるか、どこで着替えたらいいかも聞いてないことの気づき、不安が増します。そんなとき、助手さんが声を掛けて教えてくれました……
第一ミッション:師長さんを探す
看護助手さんに着替える部屋を教えてもらい、無事にTシャツと短パンに着替えられました。長靴を履いて行ったほうがいいのかわからなかったので、とりあえず上のフロアに行ってから考えようと思いました。
ナースステーションを覗いてみたところ師長さんはいなかったので、これは1人で上のフロアに行くってことかなと思い、階段を使って向かいます。
ナースステーションに師長さんいなかったら嫌だな、知らない看護師さんに声を掛けるのが怖いな、などと思っていると、気持ち的に階段をスムーズに登れません。
それでも時間が迫ってくるのでナースステーションに向かいます。
ナースステーションに師長さんがいますようにと願いながら近づいて行きます。ドアからチラッと中を見ると、ちょうど師長さんが見えました。よかったー!
私「失礼します。師長さん、着替えてきました」
師長「もうそんな時間か! 特浴室に行こうか!」
師長「特浴室の中にお風呂用のエプロンと長靴があるから、それに着替えといて! 私もすぐ行くから!」
私「わかりました!」
わかりましたと言ったものの、特浴室の中にはエプロンが何種類かあり、どれを付けていいのかわからず、少し悩みましたが、とりあえずサイズが合いそうなものを選びました。お風呂用の長靴も4つぐらい置いてあり、1番大きいサイズを履きました(私の足のサイズは25センチなのでけっこう大きいのです)。
用意をしていると特浴担当の看護助手さんに声を掛けられました。
助手「今日のお風呂担当の看護師さん?」
私「そうです。下のフロアから来ました。よろしくお願いします!」
助手「師長さんから聞いてます〜よろしくね!」
廊下では看護助手さんたちが特浴室の前に患者さんをベッドごと動かしていました。今日お風呂入れる人数は約10人ぐらいのようです。
(10人も患者さんお風呂入れるのか……私の体力持つかな)
第二ミッション:安全に特浴を行う
半袖・短パンの師長さんが登場し、特浴を行うメンバーが揃ったので始まります。
まずはベッドから特浴用のストレッチャーに患者さんを移していきます。そこから浴槽近くまでストレッチャーを移動させ、そこで患者さんの体や頭を洗っていきます。
助手さんは患者さんの頭と顔を洗うのがメインで、看護師は首から下の体を洗っていきます。
師長「体を洗うボディーシャンプーと褥瘡を洗うソープは違うから、使い分けてね!」
私「わかりました!」
首から胸部、腹部、上下肢を洗い、助手さんと協力して患者さんを側臥位にして背中を洗っていきます。
患者さんは痛みを訴えられない方が多いので、側臥位にするときに手が巻き込まれてないか、足が変な位置になっていないかなどを確認しながら行っていきます。
「ここが痛い、ここをこうして」「もっと強く洗って」といった希望が言えない患者さんの表情を見ながら、苦痛がないか随時確認します。
褥瘡も洗っていくのですが、見た目はだいぶグロテスクでした。学生時代、褥瘡の模型でしが直視できなかった私にとって苦手意識がありましたが、お風呂を安全に適切にできるようになりたい思いで集中していたからか、気持ち悪いとか怖いとかを感じずに洗い終えました。
洗い終わったら浴槽に溜まっているお湯を桶ですくい患者さんにかけ湯をして、バスタオルをかけてストレッチャーをベッドの近くまで移動させます。
ストレッチャーからベッドに患者さんを移動させて、廊下で患者さんの更衣をしてくださる助手さんたちにベッドを渡していきます。
この繰り返しで患者さん10人に特浴を行い、無事終えることができました。
精神的安全基地がある環境
師長「終わったねー! 初めてのことだったけど容量いっぱいになってない? 大丈夫そう?」
私「やっぱり初めてのことなのでいっぱいいっぱいになっていた部分もありますが、それよりも新しいことが少しできるようになって、うれしいなっていう気持ちがあります」
師長「そっか! よかった! 回数こなしていけば慣れくるから大丈夫よ!」
初めての特浴に戸惑うこともありましたが、無事終わってよかったです。流れや物品の位置がまだ覚えきれておらずスムーズにいかないので、助手さんのスピードについていくのが精いっぱいなのが現状ですが。
それでも、私の持っている不安になりやすい性質や容量がいっぱいになりやすいことを気にかけていただきながらも、新しいことに挑戦させてもらえる環境はとてもありがたいなと心から思いました。
のちに私が「お風呂マスター」と言われるほどのお風呂担当者になることは、この時はまだ私自身、予想もしていませんでした。
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。