初めての特浴担当が終わり下のフロアに戻ったところ、助手さんが「どうだった?」と声をかけてくれました。無事に入力介助を終えたことを伝えると、助手さんは自分ごとのように喜んでくれて、その姿に嬉しくなりました。小さなころからとても自己肯定感が低かったのです。そのため誰かに認められることがとても嬉しく、自信が積み上がっていったのですが、それと同時に自分で自分を認めて自己肯定感を育てる必要性も感じてきました。それが自分自身を守ることになるからです……

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想定外の業務

はじめての入浴介助を終えて下のフロアに戻ってきました。

戻ってきたことを助手のリーダーさんに伝え、もうすぐお昼の時間だったので、患者さんの昼食の準備をしようと思っていました。

すると師長さんが来て、「まめこさんー!上で薬を塗ったりする処置があるからいっしょにやってくれる?」と声をかけられました。

上のフロアに行くのは入浴のときだけだと思っていたのでびっくり。師長さんといっしょに階段を上って上のフロアに行きます。

師長「お昼の時間まであとちょっとしかないんだけど、それまでにできるだけ患者さんの薬を終わらせたくてね〜」

私「(名前も顔も疾患もわからないのに、薬塗るお手伝いとかして、大丈夫かな)」

師長「バインダーに挟んである紙に、誰にどんな処置をするか書いてあるから、それ見ながらやっていくよ〜」

バインダーと処置に必要な物品が載っている台車を持って、患者さんの部屋を回ります。

師長「この患者さんは全身プロペトと足にルリコン塗るよ」

私「(外用薬について全然わからないな。足に対してどれぐらいの量が適切なのかもわからないし、全身と言われてもほんとにくまなくプロペトを塗るべきなのか、全身という抽象的な指示での言葉なのかわからない)」

学生時代皮膚科の授業は2時間分ぐらいしかなかったですし、「テストに出すからこのプリント覚えといてね」と配られただけの授業でした。特に外用薬についての知識がほぼなく、これから勉強の必要性を感じました。

ここでも発達の特性が出ていて、抽象的な言葉をどうとらえていいかわかりません。「全身に塗る」と言われても、どこまで文字としての意味を受け取っていいのかわからず、全身くまなく塗ったら時間がかかりすぎるので、たぶん「乾燥がある部分の全身に塗る」という意味なのだろうと解釈し、師長さんの前でいっしょに塗りました。塗り過ぎや塗らなさ過ぎということを言われなかったので、私の解釈は合っていたようです。


いまでは抽象的な言葉がわからなくても、これぐらいの程度だろうという推測を立てることができるようになりましたし、「私はこの言葉をこう解釈したのですがあっていますか?」と聞けるようになりました。相手の言葉の認識のしかたや定義が、私の理解と異なることがたびたびあって、「この言葉どういう定義で使っていますか?」とよく聞くので、面倒くさがられることもあります。それでもお互いがズレなくコミニケーションしていくためには、このような段階を踏むことが私にとっては必要なのです。

でも、これもいまでこそできますが、小学生や中学生のときは、どう聞いていいのかも、どう言葉にしていいのかもわからず、不安だけが降り積もっていきました。一般的な解釈のしかたがわからなかったですし、自分自身の解釈のしかたが一般的なそれとは違っていることにも、そのときは気づけていませんでした。

一般的に、どういうときにどういう言葉を使うのか、どういう場面でどういう感情になると表現するのかは、小説のなかの人物に当てはめて覚えました。私が素で感じることは一般的なことからズレることがあるので、それを修正し「一般的」を学ぶために、中学校のときはたくさん本を読みました。そのおかげで、ある程度は適切なときに適切な言葉や表現を扱えるようになったと思います。


#007『学生時代のような環境はつくれるのか』でも書きましたが、頭が良いとか変わっているというポジションを自分で確立させたことで助けられたこともありました。「この言葉は、私はこうとらえているのですが合っていますか?」と聞いたとしても、多少気味悪がられつつ、「変わっているからそういう発言するんだな」と受け流してもらえていたような気がします。

ベテラン看護師しかいない病棟

上のフロアで、処置をしながら病棟を回りました。
そのとき廊下から見えたステーションにはベテラン看護師さんばかり。
私が配属された下のフロアはママさんナースが多く、その様子に「ベテランさんが多いな」と思っていたのですが、上のフロアはそれ以上でした。全員が師長さんクラスの雰囲気でした。

学生時代に実習してきた病院は20代の看護師さんが多かったので、50代の看護師さんがほとんどを占める病棟を見て驚きました。急性期の病院では5年ほど勤めると病院からゆったり働けるクリニックに転職される看護師さんが多いイメージを持っていたので、歳を重ねても病棟で働けるんだという驚きがありました。

新人が多く配属された病棟だと、教育をしなければいけないのでピリピリした雰囲気があったのですが、全員がベテランだとピリピリすることもなく、業務もスムーズなんだろうなと思いました。


このときはまだ、この上のフロアで看護師業務をすることになるなんて少しも思っていませんでした。ベテラン看護師さんたちに、ひよこな私が混じって勤務するなんて。

そして皮膚疾患についての知識のなさや薬の適切な塗布量などがわからなさが、後に皮膚科クリニックで働くきっかけとなっていきました。

1ヶ月後の人生すら、予測不可能です。

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プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。