看護の仕事を続けられなくなる不安を感じるほどの腰の痛みの原因を明らかにするめ、大きな病院でMRI検査を受けたところ、特に問題はなく、医師の診断は筋膜の炎症でした。仕事を続けられるうれしさを感じながら、翌日から通っていた農林大学校に行き、退学届の提出や寮の鍵を返すために部屋の荷物をすべて運び出すことが気になっていました……

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3カ月ぶりの農林大学校

寮に車を置いて実家に帰ってきていたため、電車で学校に向かいました。新型コロナウイルスの感染が拡大してから電車に乗る機会はほぼなかったため、いつもより感染リスクの高い環境にドキドキしていました。混まない時間を狙って電車に乗ったものの「混んだらどうしよう」と怖かったです。

電車を乗り継いで、実家から学校の最寄りのバス停まで4時間以上かかります。時間を潰すためにいつもだったら本を読むのですが、感染のことが気になって読めませんでした。

電車に差し込む暖かい陽射し、過ぎてく景色を見ながら、いままでの学校生活を思い返していると、4時間という時間は長いようで、短く感じました。

農林大学校での思い出

私が通っていたのは2年制の学校で、1年生のときは全員が寮生活をします。

五感過敏があり、神経質な私は、1部屋3人の寮生活ができるか心配でした。特に音に敏感で小さな音でも目が覚めてしまうので、共同生活に不安を感じていたのです。

そのため私は入学前から学校を訪ね、自分の発達の特性や配慮してほしいことを森林コースの先生と総務課の担当者に伝えていました。

伝えるときも、先生たちは発達障害を知っているだろうか、「甘えだ、わがままだ」だと言われないだろうか、配慮できないと言われたらどうしようなど、挙げればキリがないほど心配事がありました。

しかし、森林コースの先生からはチェーンソーを使うときに大きな音が出ることや、実習中に危険を知らせる笛を鳴らすことなどを説明してくださって、先生のほうから大丈夫かどうか確認してくれました。また、総務課の担当者からは視覚過敏はないかと聞かれ、授業でスライドを使うことがあるため光の刺激で疲れてしまうようなことがあれば、いろいろと考えていかないといけないねと話してくれました。

私が想像していた以上にみなさん優しくて、ここに進学してもしダメだったら、それはそれでいいやと思えるぐらいの安心感がもてました。

ただ、できればと希望した1人部屋については、部屋の数的に難しいため3人部屋で過ごしてみて、それでもダメだったらその後検討しようということになりました。

障害を話すむずかしさ

障害について誰かに話すとき、相手が強い偏見をもっている人だったらどうしようと、話すのが怖いことがあります。私自身を知ってもらう前に、障害名だけで距離を置かれないだろうか、ネガティブに捉えられないだろうかなど、定型発達の人が思う以上に、発達障害がある人が障害について人に話すのに多くのエネルギーを使います。

話してみて、温かく受け入れてくれたという成功体験が多ければ多いほど、話すことへの自分のなかでの心理的ハードルは下がっていくと思います。

農林大学校への入学当時は診断されてからまだ1年も経っていなかったため、障害について人に話す経験がまだまだない状態でした。

看護学生のときは、先生も同級生ももともと私の性格や行動知ってくれていて、後になって障害の診断がついたため、受け入れやすかったと思います。しかし、農林大学校の先生方に話すときは、初対面で障害について話す必要があったため、私の性格や行動を知る前に障害名だけが先行してしまい、ネガティブに捉えられないか心配でした。

しかし、そんな私の心配を払拭するように、常にわかろうとしてくれている姿勢を先生方に感じて、とても救われた気持ちになりました。


私はもともと完璧主義な性格でした。だから、自分ができないことや苦手なことを人に言うのにもとても抵抗がありましたし、たとえ自分の限界を超えていることでも「できない」と言いたくないと思っていました。

しかし、定型発達の人が当たり前にできることが当たり前にできないため、生きていくには「私はこれができないです。難しいです。配慮お願いします」と、これから何度も言う必要があるのです。悔しさも、悲しさも、もちろんあります。それでも自分の特性による難しさを伝えていかないと、自分が苦しくなる一方です。

学校は実家とも距離があり、簡単に親を頼れません。つらくなったときに頼れる人を学校内に作っておく必要がありました。頼りにする相手には、私ができること、できないことを伝えておかなければなりません。

いろんな葛藤を抱きながら、私の農林大学校生活は始まったのです。

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プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。