農林大学校に退学届の提出や寮の荷物整理に向かう電車の中でこれまでの学校生活を思い起こしています。農林大学校には部活動がありました。クラスメイトに誘われて一緒にバレーボール部の体験入部に行くことに。初日は緊張したものの、先輩たちの人柄のおかげで和気あいあいと楽しめました。終わってからは体験入部で一緒になった女の子と晩ご飯を一緒に食べることになりました。もともと人と話しながらご飯を食べることが苦手で、看護学校時代は友だちと一緒にいても無言で食べていました。それが、彼女とは一緒に話ながら食べることができたのです……

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映画の世界?

私はご飯を食べるのがとても遅いので、先に食べ終わったCちゃんは待ってくれていました。私が食べ終わると、横に座っていたCちゃんが私を見て言いました。

「おじょーのこともっと知りたい」

えええ!? なにこれ告白!!?

私「えええ、どゆこと!?笑」
Cちゃん「おじょーのいままでのこととかそういうの、全部知りたい」



(話しているなかで私が年上であることを知ったからか何がきっかけかはわかりませんが、「おじょー」と呼ばれるようになっていました笑)


私のいままでを知りたいって、部活とご飯のこの短時間でそう思わせる要素が私にあったかな……? と頭のなかを検索します。看護学生時代は「変わってる」と一線を引かれて、私を知りたいと突っ込んでくるタイプはいなかったので余計にビックリしていました。



なんか、青春映画みたいだなと思いました。

こんな一言、私は恥ずかしくて言えません。照れてしまいます。ですがCちゃんは本心で素直な気持ちを言ってくれています。

思ったことを素直に言えることが、私にはすごく羨ましくて、かっこよく見えました。

こうやってあなたのこと知りたいと言ってもいいんだと思いました。というより言ったほうが、言われた側は嬉しいんだなと思いました。

素直なコミュニケーションは、人を、人の心を動かします。私は頭のなかで話している量の1/10ほどしか口に出ないですし、表情にも出せていないので見習うものがあります。

私ももっとうまく表現できるようになれたら……。

ほとんど口にしない頭のなかの言葉

私が脳内ではおしゃべりなのに、実際に口にする言葉が少ないことに気づいたのは、看護学生時代に行った精神看護実習のときでした。

精神看護実習ではプロセスレコードを書きます。プロセスレコードとは、ある場面の「患者さんの言動、自分の感情や考え、自分の言動」を振り返って時系列で表にまとめるものです。まとめることで患者さんの言動だけでなく、自分の言動や感情の変化を理解でき、コミュニケーション能力の向上に繋がるといわれています。


私は実習初日に気になるある場面があったので書くことにしました。患者さんの1つの場面に対して、用紙の欄が埋まるほど自分が思ったことやそこから考えたことがたくさん出てきました。しかし、私が患者さんにかけた言葉はたった一言。

書いていてびっくりしました。

こんなにも頭で思っていることがたくさんあるのに、口に出すことはこれしかないんだと。他者から見れば、私は何も感じていない、考えていない冷たい人に見えているんじゃ、と思いました。


書いたプロセスレコードを実習担当の看護師さんに提出して、会議室を使って振り返りを行いました。

看護師さん「実習初日でプロセスレコード書いた学生さん初めてだよ笑。この場面でこんなこと思ったんだね。気持ちも、頭もすごく動いてるよね。でも出した言葉は一言なのはどうしてなの?」

私「傷つけちゃうかなと思って。なら言わないほうがいいかなと」

看護師さん「ほんとに?? 私なら嬉しいけどな~。すごく考えてくれているんだなーって思うよ」

私「……? 嬉しいって思うんですか?」

看護師さん「うんうん、そう思うよ。じゃあロールプレイングしてみようか。そしたら感覚が違うと思うから。私がまめこさんがプロセスレコードに書いたことを読むから、まめこさんは患者さん役ね」

統合失調症の陰性症状が強い患者さんで、私がお茶をくみに行くシーンをやります。患者さんはコップにお茶を入れてほしそうにしていて、それに気がついた私が声をかけて汲みに行きます。汲んだお茶を渡すと、具体的にどんなリアクションが返ってきたか忘れてしまいましたが、本当に些細でちゃんと見ていないと気づかないような反応を出してくれたんです。

このときに患者さんはわかりやすい「ありがとう」とかそういうジェスチャーはできないけど、思っている。ここに感情はある。でも本当に些細な変化だから、多分多くの人は気づかないんだろうな。

私は実習に来ていて、一生懸命1人の患者さんの情報収集をしてるから、この少しの反応をキャッチできたけど、この患者さんが思う気持ちを誰も受け取ってくれてなかったんだろうな。なかったことにされちゃったんだろうな。それって寂しいよな。悲しくて苦しいよな。と感情が湧き上がってきます。でも、私は感じていることが表情に出るわけでもないし、かけた言葉も「お茶持ってきましたよー」の一言だけでした。

ロールプレイングでは、私が心で思っていたことを看護師さんが患者さん役の私に向かって言います。

するとすごく嬉しかったんです。
この人、考えてくれているんだ、私のこと、って思いました。

言っていたことが当たっているかどうかは別として、私に対してそうやって思ってくれたことが嬉しいなと。

ロールプレイングをする前までは、言ったほうが患者さんを傷つけてしまうんじゃないかと思っていましたが、実際やってみると、温かいなって思いました。人の感情って温かいものなんだって感じました。

「感情」というものは、私のなかではネガティブのイメージで、人を振り回したり傷つけたりするものだと思っていたので、いままで言葉にしてこなかったけど、そうじゃない感情もあるんだと知りました。

それからは、できるだけ頭でしゃべっていることを口にしようと努力してきました。でも、それでも一般的に見れば少ないほうなんだと思います。


2週間の精神看護実習では、いろんな意味で3回鼻水を垂らして感情を爆発させ、泣きました(いろんなことがありすぎたので、またあらためて詳しくこ書きたいなと思ってます)。

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プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。