「認知症の患者さんにどう対応していいかわからない……。どうしたらよい?」と感じることはありませんか? 本コーナーでは、認知症の患者さんにかかわり、ケア・対応を行うときのポイントを事例とともに紹介します。(メディカ出版 編集室)



回答者:西山みどり(有馬温泉病院看護部長/老人看護専門看護師)



【患者】80歳代前半、男性
【背景】
●脳梗塞の既往はありますが、幸い大きな後遺症はみられません。
丸半年ほど前から、妻が促しても入浴したがらないため、デイケアを利用し、入浴介助を受けています。
●短期記憶障害があるものの受診歴はなく、認知症の診断はついていません。
【経過】
患者のAさんはデイケアでは、穏やかにスポーツ新聞に目をとおしたり、カラオケをするときに歌を口ずさんだり、手拍子をする様子がみられます。Aさんの妻は隣人から、物忘れには計算や漢字など、脳を鍛える大人向けのドリルがよいと聞き、何冊かドリルを購入し、Aさんに勧めているそうです。Aさんは最初の何問かには取り組みますが長続きせず、また妻が間違いを指摘すると「もういい」と言って怒り、席を立ってしまうそうです。

家でのこのような様子を聞き、脳トレを勧められているAさんに、これから看護師としてどうかかわればよいでしょうか?

生活の不自由や今の思いを代弁して、妻に伝える

Aさんがドリルに積極的に取り組めない様子から、集中力が続かず、問題を解くことに興味や関心をもてずにいる可能性があります。Aさんはまだ認知症の診断がついていませんが、例えばアルツハイマー型認知症に代表されるような神経変性疾患では、ストレスを抱えることでより認知機能を低下させる恐れがあります

そこでまず、Aさんに自宅ではどのように過ごしているのか、何か生活するうえで不自由や困っていることはないか、すなわちストレスを抱えていないかを確認します。このとき、Aさんを質問攻めにするのではなく、平易な言葉で聞いたり、発言を待ったり、言いたいことを察したり、工夫しながら尋ねます。そして、もしA さんが今の思いや不安、苦悩など、妻には直接言いにくい思いを胸のうちに抱えていそうであれば、看護師が代弁して妻に伝えることもできると誠意をもって伝えます

介護者の思いを聞き、患者さん本人のストレスも伝える

そもそも自宅での入浴が困難になったことでデイケアの利用が始まっていることから、妻がA さんの介護に困難を感じていないか、一人で困難感を抱え込んでいないかについて確認する必要があります。また隣人から促されたドリルをAさんに勧めている様子から、妻が少しでもAさんの認知機能を改善させたいという思いをもっていることもうかがえます。

そこでまず、夫に元気になってもらいたいという思いは十分に理解できることを妻に伝えたうえで、興味のもてないドリルをすることは、Aさんにとっては脳を活性化させるというより、ストレスになっている可能性があることを伝えます。

認知機能の状態を知るために、受診を促す

妻には、Aさんにドリルを勧めるよりも、まず受診を促すようにしてもらいます。なぜなら、受診し診断をつけてもらい、必要であれば内服薬を服用することなどにより、これからのAさんの生活をよりよくできる可能性が大きいからです。

ただし、受診して診断がつくことで、Aさん夫妻が大きな衝撃を受ける可能性もあります。それでもこれから先のことを長い目で見たときに、早めに受診することのメリットを真摯に伝え、われわれ医療者が今後も支えになることを約束します。加えて、Aさんから聞いた今の思い、望みや不安、苦悩などがあれば、代弁して妻に伝えます()。




 家族に本人の思いを伝える看護師

本人が楽しめる時間を提供し、快の刺激を増やす

デイケアでのAさんは、新聞を読んだり、音楽を聴いたり歌ったりと、興味や関心をもち集中力を維持して過ごしているようです。このようにA さんがもてる力を発揮し、快の刺激を増やすことは、認知機能の維持にとてもよい効果があります

看護師としてA さんの心身の状態を観察するとともに、このように少しでも脳を活性化させる時間を設けるようにします。加えて、デイケア利用時以外にも、このような時間が少しでももてるよう、妻と情報交換をしながら、自宅での環境調整を依頼します





ひとことアドバイス
認知機能の低下を感じたら、本人はもとより家族も何とかしたいと思うのは当然のことでしょう。ちまたには大人用のドリルや「脳トレ」もあふれ、簡単に手にとることもできます。しかし、ここで大事なことは、認知症の患者さん自身がそれを「楽しい」「やりたい」と思えるか否かです。また、最初はこのようなドリルに積極的に取り組めていても、経過とともに難しいと感じる日が来ることは避けられません。このことを念頭に置き、こういったトレーニングがストレスになっていないかどうかに気を配る必要があります。

引用・参考文献
1)鶴屋邦江.“認知症”.改訂2版高齢者看護すぐに実践トータルナビ.岡本充子ほか編.大阪,メディカ出版,2025,188-201.

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有馬温泉病院 看護部長/老人看護専門看護師 西山 みどり 編著
有馬温泉病院 看護師長/認知症看護認定看護師 西田 珠貴 編著

発行:2025年4月
サイズ:A5判 184頁
価格:3,080(税込)
ISBN:978-4-8404-8797-9

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