「認知症の患者さんにどう対応していいかわからない……。どうしたらよい?」と感じることはありませんか? 本コーナーでは、認知症の患者さんにかかわり、ケア・対応を行うときのポイントを事例とともに紹介します。(メディカ出版 編集室)



回答者:田村文佳(芸西病院 看護部長/老人看護専門看護師)



【患者】80歳代前半、男性
【背景】
● アルツハイマー型と血管性認知症の混合型認知症(ミニメンタルステート検査〔MMSE〕 15点)と診断されました。
● 5年前に脳梗塞を発症しましたが、明らかな麻痺はありませんでした。
● 自宅で転倒し動けなくなっていたため、入院しました。
● 骨折はありませんでしたが、痛みにより動きづらくなり、リハビリテーションを実施することとなりました。下肢筋力の低下がありました。
● 自宅で妻と2人で生活をしており、介護保険サービスの利用はありません。
【経過】
入浴の声掛けをしても、患者のAさんは「いや、いい」と言って拒否しました。何度か繰り返し誘ってみましたが、浴室まで来てくれることはあっても「家で入る」と話し、入浴ができませんでした。
清潔を保つためには入浴が必要だと思いますが、どうしたら入浴してくれるのでしょうか。入浴したくないとはっきりと意思表示をされているのですが、本人の意思に沿うべきなのでしょうか?

入浴の過程を観察し、拒否する理由を考えながら対応する

まず考えたいことは、「清潔を保ちたい」という看護師の気持ちを押し付けていないかということです。無理に入浴をすると、入浴は不快なもの、嫌なものという印象が残ってしまいます。そのため、入浴は無理には勧めないことを原則にすることが重要です。

入浴は心地よさにつながる意義のあるケアですが、複雑な動作の組み合わせでもあります。そのため、入浴には時間がかかることを十分理解しましょう。Aさんは、下肢筋力の低下や認知機能の低下(中等度の認知症)、転倒による痛みがあります。近時記憶障害や遂行機能障害、失行、痛みなどがあると、入浴が不安だったり、失敗を経験したりしているかもしれません。まずは、本人が入浴する過程を丁寧に観察して、どの段階でどのような拒否があるのかをアセスメントします。そのうえで、拒否する理由を考えながら本人の反応に沿って対応できるよう工夫します

入浴の過程をアセスメントして、本人の反応を整理する

入浴の過程を大きく4つに分けて考えてみましょう。つまり、脱衣室まで移動する(脱衣前)、服を脱いで浴室に入る(脱衣時・浴室移動時)、浴室内で動く(洗体・洗髪時)、そして浴室から出て服を着る(着衣時)ということ です。

そのうえで、入浴の過程のどの段階でどのような反応があるのかについて情報を整理しながら、拒否する理由をアセスメントします)。脱衣前の声掛けで拒否があるという場合、A さんは「身体が痛い」「面倒くさい」と感じているのかもしれません。また、過去に嫌な体験をしているのかもしれませんし、記憶障害や見当識障害から、「昨日入った」「毎日入っている」と思っているのかもしれません。

そのように考えながら、Aさんに理由を聞いてみて理由がわかれば、その理由に合わせて対応できるように工夫します。理由がはっきりしないときには、時間を置いて再度誘ってみる、患者さんと関係性のよい人がかかわる、言葉でのコミュニケーションに加えて、入浴の道具を見せて視覚的に訴えるといった工夫もします。



身体的苦痛・ 不快感 身体的苦痛 痛い、かゆい、だるい、風邪気味で熱があるなど
不快感 ● 脱衣室・浴室が寒い
● 風邪を引くかもしれないという思い
不満・恐怖 体験 ケアへの 不満 ● 無理やりされたり、衣類に不備があったりしたなど、嫌 な経験がある
● 対応の仕方に不満がある
● いきなりシャワーをかけられたり、急かされたりしたこ とがある
入浴への 不満 ● ゆっくり入れない
● 温度が合わない
● 人前で裸になりたくない
浴室(環境) への不満 ● 段差がある
● 滑りそうで不安を感じる
● 脱衣室が狭い/広い
失見当識・ 記憶障害など による拒否 アルツハイマ ー型認知症 記憶障害により、「昨日入った」「家で入っている」と拒否 する
場所失見当識により、「家に帰って入る」と拒否する
遂行機能障害により、入浴手順がわからないので嫌がる
血管性 認知症 意欲低下、無関心、面倒に感じる
着衣失行などにより、スムーズに入浴できず嫌がる
レビー小体 型認知症 認知機能の変動で急に不機嫌になり、拒否する
パーキンソニズムによる歩行・動作障害や疲労から拒否す る
幻覚・幻視により拒否する
前頭側頭型 認知症 常同行動、時刻表的生活により、勧められても入浴しない
遂行機能障害で入浴手順がわからず嫌がる
「お金がないからここでは入ることができない」などと言っ て、理解力や判断力が低下した苛立ちから、拒否する
習慣 浴槽 「個別浴槽でないから汚い、1人で入りたい」と言う
時間 ● 人に笑われるので昼間には入りたくないと感じている
● 家の者より先に入るべきではないと考えている
入浴の頻度 これまで週に1回しか入らないという生活をしていた

 入浴拒否の理由に関するアセスメント

丁寧に振り返って工夫を重ね、良好な関係性を構築する

入浴拒否があっても浴槽に入るととても気持ちよさそうに入浴をしてくれたという経験を振り返ると、入浴の誘い方や脱衣時までの工夫がポイントになることが多いと思います。また、認知症の重症度によって言葉で必要性を伝えたほうがよい場合もあれば、言葉は少なく患者さんと腕を組むなどして一緒に脱衣室に来るほうがよい場合もあります。

入浴をしてもらうための工夫は、看護師と本人の良好な関係性があってはじめてうまくいきます。日ごろから笑顔であいさつをする、隣に座る、話を聞くといったことが、患者さんとの関係づくりにつながり、入浴時の声掛けにも影響すると考えます。環境に慣れることや関係性の構築には、少し時間がかかります。はじめはうまくいかなくても丁寧に振り返り、工夫を重ねていきましょう。





ひとことアドバイス
入浴が認知症の患者さんにとって、どのような体験なのかを想像してみることが大切です。入浴が実は複雑な過程からなっていることを念頭に、どの段階でどのような拒否があるのか、その理由は何かということをアセスメントしながらケアに工夫を重ねていきましょう。

引用・参考文献
1) 高山成子.“ 入浴の看護”.認知症の人の生活行動を支える看護:エビデンスに基づいた看護プロトコル.東京,医歯薬出版,2014,48-55.
2) 廣木佑介.受容.おはよう21.34(13),2023,44-5.

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