「認知症の患者さんにどう対応していいかわからない……。どうしたらよい?」と感じることはありませんか? 本コーナーでは、認知症の患者さんにかかわり、ケア・対応を行うときのポイントを事例とともに紹介します。(メディカ出版 編集室)



回答者:今村直美(JCHO神戸中央病院 看護部 副看護師長/皮膚・排泄ケア認定看護師)



【患者】90歳代、女性
【背景】
● 9年前にアルツハイマー型認知症を発症し、改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)4点、FAST ステージ7です。
● 在宅で生活していましたが、脳梗塞を発症後、肺がんがみつかりました。すでに転移があることもあり、積極的な治療は行わない方針となりました。
● 入院時に仙骨部に黒色壊死のある褥瘡を形成していました。褥瘡サイズは10cm×5cm、創周囲に発赤、腫脹、熱感はありません。DESIGN-R®2020の評価は、DU-e3s9i0G6N6p0です。
● 現在は寝たきり状態で、要介護5と認定されています。
【経過】
患者のAさんは入院時、仙骨部に10cm×5cmの黒色の壊死組織が付着した褥瘡が形成されていました。自力で体位変換できない状態であり、褥瘡の観察のために側臥位をとると苦痛の表情がみられました。仙骨部の褥瘡が、体位を変えようとするときに痛みを増大させているのかもしれません。
認知症の患者さんへのケアとして、難治性の褥瘡にどのように対応したらよいですか?

体位変換やポジショニングを行い、褥瘡の悪化を予防する

脳梗塞を発症後に肺がんを併発したA さんは、治療を積極的に行わないという方針もあり、脳梗塞によるADLの低下に加え、がんの進行や転移により身体的な苦痛が増大していたのではないかと予測できます。動けない状況や苦痛の増大により同一体位でいたことが予測されますが、褥瘡は局所に圧迫が加わったことで発生した1)と考えられます。褥瘡の重症度は、DESIGN-R®2020などのスケールを用いて評価します(2)

がんが進行するにつれて、全身状態はますます悪化することが予測されます。栄養状態が低下し、るい痩になると、骨突出も著明にみられるようになります。褥瘡の予防や治癒に必要なのは、除圧です。除圧を行うためには、痛みをコントロールし、安心・安楽に過ごせるようにケアを進めることが大切です。表情や体のこわばりの状況から苦痛の程度を予測し、ゆっくりと丁寧に体位変換やポジショニングを行います。また、ウレタンマットや高機能エアマットなどの用品を使用することでも、十分な除圧効果が得られます。





 DESIGN-R® 2020 褥瘡経過評価用
(文献2より転載)

希望する体位や痛みの部位を把握し、苦痛を与えない

まずは患者さんにとって、普段どのような体位がもっとも楽なのかを知ることが大切です。「どの体勢でいることが多いのか」「どこに触れ、どのように身体を動かすと苦痛の表情がみられるのか」などを考えながら、観察します。どの部分が骨突出しているのかによっても、介入のポイントは異なります。

また、痛みの部位を知っておくことも必要です。どのような体勢でいると痛みが軽減するのかを把握することで、痛みのない部分を知ることができます。患者さんが希望する体位を見出し、その体位を維持しながら、苦痛を与えない褥瘡ケアを行いましょう

身振りや表情をよく観察して、本人が望む体位を検討する

終末期にある患者さんには、さまざまな身体症状がみられます。特に認知症の患者さんになると、コミュニケーションが困難になり意思疎通が難しくなるため、その時々の症状だけでなく、わずかにみられる身振りや表情をよく観察しながら、本人が望むと考えられる体位やポジショニングを検討するなど、個別性のある褥瘡対策を行う必要があります。

痛みがある人や全身倦怠感がある人にとっては、人に触れられるだけでも痛みや苦痛を感じることがあります。そのようなときには、自動体位変換機能が付いた高機能エアマットを使うと、患者さんに定期的に触れずにかかわることができます。ポジショニングとしては、身体の一部を小さく動かすことで体位を変えるスモールチェンジ法を用いて、身体にかかる負担を少しでも減らせるように意識して対応することが大切です3)

終末期の褥瘡ケアでは、緩和的ケアとして丁寧に対応する

終末期のケアで大切なことは、日常生活自立度が低下したときから褥瘡を発生させないためのケアを行うことです。それでも褥瘡が発生してしまった場合には処置を行いますが、終末期にある患者さんに対する褥瘡ケアでは、苦痛を増悪させないように短時間で処置を行うことを最優先させます4)

終末期においては、治療的ケアではなく、緩和的ケアとして処置・対応するように心掛けることも忘れないようにします。痛みが強い場合は、事前に痛み止めを使用したり、処置物品を万全に準備して手際よく行えるように工夫したりしますが、患者さんの苦痛を最小限に抑えるということを念頭に置いて丁寧に対応します。それでも対応に困ったときには、一人で抱え込んで悩まずに、皮膚・排泄ケア認定看護師や医師に相談しましょう。





ひとことアドバイス
終末期にある患者さんでは、褥瘡が治癒に至らずに亡くなられることもあります。緩和的なケアを最優先に考えると褥瘡が治りにくくなることもありますが、できるだけ早期から「苦痛を生まない」という点に配慮しながら褥瘡対策をすれば、褥瘡予防や治癒に至ることもあります。苦痛を最小限に抑えるという視点を意識して、予防やケアを しっかりと行うことが大切です5)

引用・参考文献
1) 日本褥瘡学会編.“褥瘡の定義と疫学”.褥瘡ガイドブック:褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)準拠.第3版.東京,照林社,2023,8-19.
2) 日本褥瘡学会編.“DESIGN-R®2020 褥瘡経過評価用”.改定DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント.東京,照林社,2020,5.
3) 日本褥瘡学会編.“終末期の人の体圧分散マットレスの選択”.前掲書1).221-3.
4) 溝上祐子ほか.“褥瘡のある認知症者へのケア”.認知症ケアガイドブック.日本看護協会編.東京,照林社,2016,269-73.
5) 西山みどり.“終末期のケア”.高齢者看護すぐに実践トータルナビ.岡本充子ほか編.大阪,メディカ出版,2025,27-32.

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発行:2025年4月
サイズ:A5判 184頁
価格:3,080(税込)
ISBN:978-4-8404-8797-9

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