●プランナー
大庭真俊
神奈川県立こども医療センター整形外科 医長


本特集で解説される疾患は、どれも小児整形外科の分野では代表的な疾患です。各項目、その分野の第一人者の先生にご執筆いただきました。各疾患・問題の解説を読むなかで、知識を得るだけでなく、診療にあたる医師がどのようなことを考えているかについても、理解が深まるのではないでしょうか。

“小児整形外科”と聞くと、一見かなり特殊な分野のようで身構えてしまう方も多いと思います。その理由の1 つは、整形外科の入院病棟がある総合病院であっても、子どもの患者さんの入院はそうめったにあるものではないからかもしれません。

しかし、整形外科の外来診療には、外傷や歩容異常、乳幼児健診の二次検診などの目的でお子さんが訪れることも多いです。小児患者さんは全体のなかではあまり多くないため、経験不足から戸惑うこともあるかと思います。今回の特集を読むことで、読者のみなさまに小児整形外科の分野に親しみを感じていただければ幸いです。




●執筆
大庭真俊
神奈川県立こども医療センター整形外科 医長

患者さん・家族への対応

診察前にできること


医師と対面する前の素の状態の患者さんや家族の様子・表情を観察することで、さまざまな重要な情報を手に入れることができます。

乳幼児を連れた両親は荷物が多いため、診察室のドアを開けてスムーズに入るのがむずかしいことがしばしばあります。様子を見てドアの手前でそっとお手伝いをすることで、患者さんと家族の緊張感や不安を和らげることができます。



診察中にできること


診察中に医師と患者さん、あるいは親が会話しているときに、患者さん本人や幼い兄弟が落ち着かなくなることがあります。外来に簡単なおもちゃなどが準備されていると、このようなときに便利です。

乳児の場合は、ビニール袋をすり合わせたカサカサ音を聞かせるだけで落ち着くこともあります。既製品のおもちゃ以外も利用してみましょう。



診察後にできること


とくに医師から長い説明があった際、診察室のドアから出たところで患者さん・親を呼び止めて、「お話はどうでしたか?」「なにかわからないことはありましたか?」など尋ねてみましょう。

診察中は直接医師に聞けない雰囲気があったとしても、こうして看護師が尋ねることで家族や患者さん自身の不安や疑問を改めて表出できることがあります。

point

教えてドクター!|コミュニケーション術
著者自身は、今でもそこまで接遇が得意ではありません。しかし、あるとき読んだ本に「毎回、患者さんが脱いだ靴を揃える」のような、簡単なことをルール化して必ず実行する、というコツが紹介されており実践してみました1)。最初はお作法として「決めたからやる」だけでしたが、続けてみるとさまざまなことに気が付くようになりました。前述した「ドアを開けるお手伝い」も同様です。
接遇やコミュニケーションを考えるとき、どうしても「○○ができていない」のような減点法の思考になりがちです。そこで、何か1 つ良さそうなことを“お作法”としてでも続けてみることをお勧めします。きっとそこから何かが広がってきます。

「これが聞きたい!」家族のホンネ

1「ギプスや装具などの固定、自宅ではどうすればいいの?」


ギプスやシーネなど、外傷の際に使用する固定および装具のケアや取り扱いについては、整形外科看護誌のバックナンバー(2021 年10 月号、12 月号)がわかりやすいです。

ギプスや水で濡らして形をつくるシーネなどは水に弱く、濡れると柔らかくなってしまいます。固定している端の部分を中心に食品用ラップなどで保護し、上から大きなビニール袋をすっぽりかぶせて、ギプスの範囲よりも近位で電気工事用のビニールテープ(ホームセンターで購入可)などを使って密閉すると、シャワー程度では濡れなくなります。

下肢のギプスやシーネの場合、どうしても床や地面に一部がついてしまって汚れやすいです。汚れないようにするためには、大人用の大きな毛糸の靴下(寒くないように履くもの)や、雨の日用の使い捨て靴カバーなどをかぶせておく方法があります。

家族の工夫は時にすばらしく、装具がはずれたり、装具のベルトを口に入れてしまったりしないようにするためにカバーなどを自作されています。許可をもらって記録を残すことで、ノウハウをほかの家族に還元できるケースも多いです。

2「痛み止めはどう飲んだらいいの?」


術後などで痛みが続くことが予想されるときは、痛み止めのアセトアミノフェンやNSAIDsが処方されることが多いです。その場合、決められた間隔と回数で使用してもらうようにします。骨折などの外傷は、しっかりと固定された状態であれば、たいていは痛みが徐々に引いていきます。固定後は痛み止めの内服が不要にな ることも多いです。

問題は、ギプスやシーネ固定をしている状態で、痛み止めが効かずに激しい痛みがある場合です。幼い患者さんは、言葉でうまく伝えられずにただ激しく泣くだけの場合もあります。このようなときは、ギプスやシーネ固定により、固定された四肢の血流障害をきたしている恐れがあります。

重要なことは、ギプスやシーネなどの固定を行って帰宅する前に、一度ギプスやシーネから見える手指(足趾)の色をチェックすることです。帰宅後、上記のような激しい痛みがある場合には、大至急、ギプスやシーネをカットしてゆるめる必要があります。すぐに病院に連絡するように家族に伝えておきましょう。

<引用・参考文献>
1) medtoolz.レジデント初期研修用資料 医療とコミュニケーションについて.東京,オーム社,2016,239p.



本記事は『整形外科看護』2022年8月号からの再掲載です。


整形外科看護2022年8月号

整形外科看護 2022年8月号
[きほんの特集]
5秒でわかる!術後のキケンサイン6


■キケンサインを見逃すな!
①脊椎術後の合併症フロー
■キケンサインを見逃すな!
②人工関節術後の合併症フロー
■キケンサインを見逃すな!
③四肢骨折術後の合併症フロー
■キケンサインを見逃すな!
④上肢術後の合併症フロー
■キケンサインを見逃すな!
⑤下肢術後の合併症フロー
■キケンサインを見逃すな!
⑥高齢者の合併症フロー

■1 硬膜外血腫
■2 術後脱臼
■3 静脈血栓塞栓症(VTE)
■4 コンパートメント症候群
■5 四肢末梢神経障害
■6 手術部位感染
■7 全身合併症
■8 髄液漏
■9 術後せん妄

【深める特集】
患者家族への対応がわかる!
子どもの治療とケア


■1 子どもの診察を行うポイント
■2 上腕骨顆上骨折
■3 発育性股関節形成不全
■4 先天性内反足
■5 虐待

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