はじめに

みなさん、はじめまして、こんにちは。私は三重県桑名市で訪問看護師をしている社本と申します。訪問看護師歴はまだ4年少しです。その前に精神科病院で病棟看護師を21年ほどしておりました。私の看護師歴は、精神科看護一筋といった感じです。

わが国の医療は入院治療から地域へと大きく舵を切っています。精神科訪問看護の対象の利用者さんも、これからますます増えていくと予想されます。また地域への流れの一環として、近年、看護師の働き方が多様になり、新卒から訪問看護師をする人も増えていると聞きます。しかし訪問看護は一人ないし二人という少人数の看護師で患者さんの元に伺うことが多く、アセスメントや判断など、経験が左右する場面が非常に多いです。

特に精神科訪問看護では「精神科看護の経験」がとても大事だとずっと言われていたし、私もそう感じることがとても多いです。しかし未経験でも精神科訪問看護に興味があり、働いてみたいと思われる人が増えてきていることを、私はすごく嬉しいと思っています。だから、精神科訪問看護に対応できる看護師を増やしていくこと、教育していくことは私たちの役目ではないかと思っています。これからの記事が、経験の少ない看護師さんの一助となれば嬉しく思います。

傾聴の大切さ~最後の「。」まで、しっかりと聞く

病院勤務ではそこまで意識をしなくてもよかったことが、訪問看護の場面では大切で、「できたほうがいいよ」というポイントがいくつかありました。その一つが、今回書く「傾聴」「対話」です。

看護学生時代、精神科実習に行くと「患者さんの話を傾聴してね」や「しっかりと傾聴しています」など、「傾聴」という言葉がキーワードとしてよく出てきたと思います。

私は学生時代から精神科看護が好きで、非常に興味がありました。それは、主治医でなく看護師でも、患者さんの状態をよいものに展開していけるという手ごたえがあったからだと思います。

看護展開のまず第一歩は「患者さんを理解すること」ですよね。理解に必要なのは、「しっかりと傾聴する」という技術なのですが、自分の価値観を中心に話を聞くと、患者さんが話している内容を「評価」してしまいます。それは傾聴ではないのです。「なぜこんなこと言われるのだろう」「わがままだよね」「おかしいわ」と、聞き手の価値観をもとに話を聞いていくと患者さんを理解できず、それどころか、ときに陰性感情を抱くこともあります。それは関係性を構築するときに邪魔になる感情です。

しっかりと傾聴することで、「ああ、こういうふうに感じているのだな」「つらいんだな」というように、患者さんの気持ちの理解が深まります。傾聴とは自分自身の価値観をいったん横に置いて、気持ちを真っ白にして相手の話に全集中することだと思います。そうすると患者さんの話の内容を「評価」しないので、自分の気持ちに陰性感情がわかないのです。患者さんも正面からしっかりと「受けとめてもらえた感覚」を得られると思います。それが信頼関係の一歩ですよね。

私たちも上司や友人、家族と話しをするときに話の途中で「いや、それはおかしいよ」「気のせいだよ」なんて言われたら、もうこの人には何も言うまいと思いますね。最後の「。」までしっかりと聞く、途中で遮らない。そして価値観を横に置き気持ちを真っ白にして聞く。このあたりは基本だと思います。傾聴も筋トレと同じで、訓練でだんだんと「傾聴筋」がついてきます(笑)。 

私も過去、病棟勤務の時は業務が忙しく、しっかりと傾聴できていたかというと疑問がありますが、今、ようやく訓練を開始したところです。気が付いたときが「はじめどき」です。みんなで傾聴の筋肉を増やしていきましょう!

対話とは~会話を俯瞰する、状況を整理する、患者さんの持つ答えをガイドする

基本の傾聴がしっかりとできたら、次のステップは「対話」です。会話と対話の違いはなんだろうと考えたとき、「効果を意識的にコントロールできる」ことが対話ではないかと思います。たとえば、職場の人間関係で悩んでいる人がいるとします。まずしっかりとつらい気持ちや現状を傾聴します。そのあとに、効果を意識的にコントロールすることが「精神科看護の支援」です。

【例:会話】
患者A「職場で嫌な人がいてね。毎日憂鬱なんですよ」
看護師B「そうなんですね」
患者A「仕事行きたくないんです……」
看護師B「行きたくないんですね。家族はなんと言っていますか?」
患者A「こんな話、妻には言えなくて……」
看護師B「ああ、確かに、言えないですよね。そうですね」
患者A「会社に行くと吐き気もあって……」
看護師B「吐き気があるのですね……。つらいですね」

【例:対話】
患者C「職場で嫌な人がいてね。毎日憂鬱なんですよ」
看護師D「職場で嫌な人がいて毎日憂鬱なんですね。それはおつらいですね」
患者C「そうなんです。つらいです」
看護師D「Cさんは、その嫌な人のどういうところが嫌なのでしょうか?」
患者C「僕だけに仕事を多く振ってきたり、機嫌が悪いと無視してくるんです。はあ……」
看護師D「仕事をCさんだけに多く振ってきたり、無視もあるのですね。ほかはどうですか?」
患者C「ほかですか……あとは……無いですね」
看護師D「わかりました。では仕事をCさんだけに多く振ってきたとき、Cさんはどのように対応されていますか?」
患者C「いや、なにも。嫌な気持ちになるだけです。なんで自分だけにこんなに多く頼むんだろうって」
看護師D「そうなんですね。ちなみにその嫌な方は上司にあたる方でしょうか?」
患者C「違います。先輩です」
看護師D「先輩なんですね、では上司ではないんですね」
患者C「はい、上司ではないです」
看護師D「では今の困っている状況を上司は知っていますか」
患者C「知らないです」
看護師D「上司に今の状況を知ってほしいですか?」
患者C「そりゃ知ってほしいです。でも言うタイミングがわからなくて。上司から先輩に注意もしてほしいです」
看護師D「上司から先輩に注意してほしいということなんですね。Cさんは上司に知ってほしいと思っていたけど、いつ、どう言えばよいかがわからなくて困っていたということでしょうか?」
患者C「ああ、そうです。どう切り出せばよいかわからなくて、もやもやしていました」
看護師D「もやもやしますね、それは。上司に話をするタイミングはありそうでしょうか?」患者C「うーん、あ、来週面談があるので、そのときに言えそうです」

やり取りを見て気が付かれましたか?

「対話」というのは、上記のように、患者Cさんの困りごとの解決方法について、看護師Dが、Cさん自身がどうしていきたいかを聞き出してゴール設定をすることです。「会話」では、Aさんの困りごとに対して看護師Bはゴールを設定できずに、気持ちを共感の流れに任せている感じですよね。では看護師Dはどこに意識を持っているか? それは「患者Cさんがどうしたいか、Cさんのなかにある答えを引き出すガイドをする」という感覚を持つことなんですよ。

看護師Dは少し離れたところから患者Cさんと自分の会話を俯瞰しています。俯瞰しながら、患者Cさんから具体的に状況を聞き出して、情報を集めています。集めながらCさんの回りにいる登場人物も整理していきます。対話の筋力を鍛えることは、すぐにはできませんが、ポイントは「俯瞰する」「状況を対話をしながら整理する」「患者が持っている答えが出るようにガイドする」という感じです。

このように意識的に対話をすることで、患者さんが自分の気持ちに気が付いたり、今後どのように行動していけばよいかに気が付いたりすることできます。

この対話も訓練で力がついていきます。患者役、看護師役で練習してみてもよいですよね。

今回は精神科訪問看護の場面で大事な「傾聴」「対話」について書いていきました。この二つを意識すると訪問看護の場面で流れが作れると思います。





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。