前回は「自分の理解」が訪問看護の仕事を助けるお話をしました。自分自身を考える時間を少し取れるとよいかなあと思います。

さて今回は、「利用者さんの成育歴の大事さ、疾患の理解」についてお話ししていきたいと思います。みなさんは利用者さんを知るときに、どこをポイントに見ていくでしょうか? 現在の状態や困ったことでしょうか? もちろんそれも大事ですが、ここでは成育歴に注目し、成育歴を知っておくことがなぜ大切なのかというお話をしていきます。

なぜ成育歴に注目するのか

「三つ子の魂~」ということわざにもあるように、思考の癖などは幼少期の経験が軸になって形づくられることがあります。また基本的信頼関係もこの時期に形成されます。幼少期にどのように育ってきたのか、環境はもちろんですが、家族関係などにも影響されます。なので、利用者さん本人もそうですが、兄弟や親、親戚にもお話を聞けるのだったら、ぜひ聞いておくことをお勧めします。

そうやって少しずつ情報を集めながら、現在の利用者さんの困りごとや課題と結びつけます。そして思考の癖も確認していきます。自動思考(事柄が起こって自動的に頭に浮かぶ感情)がネガテイブになりがちな人の場合は、「認知行動療法」で自動思考を変更できるように根気よくかかわるとよいでしょう。この「自動思考」はまさしく成育歴に影響されます。そうです、利用者だけでなく、看護師の私たちもそうなのです(※前回記載した自分の理解の部分に通じます)。

「基本的信頼関係が脆弱なまま育ってきた人が、大人になって支援者と良好な関係が築いていけるか?」は、訪問看護師として気をつけて見ていくべきところです。なぜなら信頼の感覚が脆弱な人のなかには、「この看護師を全面的に信頼してよいのか?」「どうなんだろう?」と不安になる人もいるのです。また幼少期に大人に傷付けられた人(虐待など)は人を信用しにくいです。

信頼関係が築きにくい場合、看護師を揺さぶる行動を起こし、そのときの看護師の反応を見ています。その反応で自分への愛情を量る人もいると思います。チームでかかわる病棟とは違って、訪問看護の現場では看護師が一人ないし二人です。少人数で揺さぶられ(例:泣きつく、うそをつく、居留守を使う、自傷行為など)があったときこそ、「これは病状なのか?」ときちんとアセスメントして、対応することが大事です。しっかりと見極めてかかわることで看護師も守られるし、利用者の負の行動化を最小限に抑えることにもなるからです。その結果、利用者を守ることになります。

見るポイント

「成育歴をもとに、なにを観察するか」ですが、見るポイントは、

「信頼関係を築くペース」
「人(看護師)との距離の取り方、詰め方」
「自己開示のペース、程度」
「揺さぶる行動の有無」


などです。多くの精神科看護師が、これらに陰性感情を抱くことがあります。私も病棟勤務のときは、自分を守るために距離をとってしまっていました(前回で書いた私自身の問題も影響しています)。しかし訪問看護師になった今、距離をとらずに、仕事としてきちんとアセスメントしたいので、しっかりと確認します。利用者さんの揺さぶりや、そこから生じる陰性感情に振り回されないためには、きっと経験が必要なんだろうと思います。私ももっと経験を積みたい部分であります。

疾患の理解の先

教科書的な疾患の理解はもちろん必要なのですが、訪問看護師として、在宅ケアでの展開について学んでいくことが大切なのは、みなさんもご理解いただけると思います。つまり、疾患の理解の先に「その人の生活の場」が見えるかどうかということです。

たとえばうつ状態の人が、自宅でこもって生活されているとします。「ああ、自宅にこもって生活されているのは、うつ病の疾患の症状のせいなのだな」と考えることができますよね。

この場合の必要なケアには、どんなことがあるでしょうか? 家族と同居しているので、食事や清潔は問題なさそうだな。薬は? 飲めているな。困っていることを確認しても、「大丈夫です……」と言って、具体的に困っていることは話をされないな……。こういう場合、訪問看護師として、どう支援に入ったらよいのでしょうか?

うつ状態の人は思考がまわりにくく(思考がにぶく?)なっており、本当は困っているのに「困っていることがわからない」ということもあります。根気よく静かにそばにいて、叱咤激励せずに、見守りながら探っていることが大事な支援となります。

うつ状態の人は、抑うつと同時にイライラや怒りを抱えていることも多いので、「イライラすることはありませんか?」という声かけで、「ああ、理解してくれている」と思ってくれるかもしれません。イライラの反芻思考で、リラックスできずに不眠があることがわかるかもしれません。それに対して、たとえば、いっしょにゆっくり散歩をすることで発散されるかもしれませんし、軽く歩くことで睡眠がとれるようになるという結果につながることも期待できます。また、うつ状態の場合には、絶望感や希死念慮にも注意が必要です。それをきちんと観察しているか、気持ちを理解できているかは、疾患の理解の先の感性だと思います。

疾患の理解と在宅看護をつなげるという「基本的なこと」を丁寧にするためには、その人の生活や全体像を観察して、感性を磨きながらじっくりと支援することに尽きます





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。