さて今回から新章「利用者さんと信頼関係を築くために まずやってほしい5個の基本」となります。今までは訪問看護以前に気を付けたいことを取り上げましたが、ここでは利用者さんと信頼関係を築くための心構えなどについて、取り上げていきたいと考えています。

今回は、利用者さんの言動に集中し、五感を使って、全力で気持ちの矢印を目の前の利用者さんに向けていくことについて、解説します。

視覚でわからなければ聴覚を使う

私がなぜ五感を大切にしているかを、お話したいと思います。

ある利用者さんはいつも悩みが多く、訪問時、毎回、小さな悩みや困ったことを、時間いっぱい話されます。私はまっすぐにその方を見てお話を聞くのですが、その方はずっと閉眼したまま話されます。私にアドバイスを求めるわけでもなく、時間いっぱいご自分の対人関係の悩みについて、ぽつりぽつりと、ずっと話をされるのです。

私はしっかりと相手を見て聞いていたのですが、何回か訪問してお話をうかがっているうちに、自分も目を閉じて話を聞いてみようと思うようになりました。この方の気持ちが少しわかるのではないかと感じたからです。そしてあるとき、閉眼してじっと聞いてみました。

すると目を開けてみていたときより、明らかに声の感じがリアルに感じられました。話の内容は今までと同じようご自身の悩みごとなのですが、やや楽しそうにうれしそうに話をされていることがわかり、アセスメントをするときに非常に役に立ちました。

自分のさまざまな感覚を通して利用者さんを理解しようとすることで、利用者さんを一方だけから見るのを防ぐことになり、さらに多くの情報がわかってくることが実感できました。

全力で矢印を向けてみると

それから私は、五感を研ぎ澄まし、五感をさまざまに使って利用者さんに向き合うようになりました。そうすると、利用者さんのその日の調子などももちろんそうですが、看護師への信頼関係がぐっと深まることを実感できました。看護師の向き合う姿勢が変わると、利用者さんとの関係性が変わります。利用者さんとの関係に悩まれている方、今までと変わってくると思いますよ。

矢印を向けていく準備

人は、真剣に話を聞いてくれる人に好意を抱くといわれています。ほかのことを考えながら自分の話を聞く人を、あなたは信頼できますか? 私たちも、自分にしっかりと向き合って全力で聞いてもらったことで、安心できた経験があると思います。

ただ、目の前の相手に全力で矢印を向けることは、意識して行わないとできません。そうでないと、つい外の車やテレビの音などが気になり、ほかのことを考えてしまったりします。看護師が自分に悩みごとがあったり、体調が悪かったりしたらどうでしょうか? 利用者さんに向けて意識を集中できますか? 自分自身が万全の体調や精神状態でないと、集中して相手を観察するのはなかなかむずしいですよね。

だからまずは準備段階として、みなさんも日々、気をつけておられると思いますが、自分自身の体調やメンタルの管理がとても大切です。そのためには休息、気分転換など気持ちの解放がとても有効だと思います。

みなさんは体調管理やメンタルの安定に向けて、行っていることはありますか? 仲間で話し合って、よい方法をシェアできるとよいと思います。

私もスタッフと、「なにが楽しい? なにが趣味?」など、移動中に話をしています。ときにヒントをもらって試しています。ちなみに私は登山ですね。休みの日に山に登って身も心もリフレッシュしています。

訪問看護の場面で、五感を使って矢印を全力で利用者さんに向けてみる。ぜひやってみてください。利用者さんについて、いままで気が付かなかったことがわかってくるはずです。きっと関係性も変化していくと思います。





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。