みなさん、こんにちは。この連載もなんと20回目を迎えました。もう20回目なんですね。なんと早いのでしょうか。自分自身でも驚いています。

今回は、「依存症の利用者さん」について考えていきたいと思います。

依存症って?

みなさんの事業所でも、なんらかの「依存症」の利用者さんがおられると思います。アルコール、薬物、買い物、ギャンブル、ゲームなど、多くの事やものに依存してしまう人は少なくありません。

依存症とは「やめたくてもやめられない、自分でコントロールできない状態」をいいます。家族や親しい人たちは心配し、やめてほしいと願います。でも、依存症の人はその気持ちに応じることができる状態ではなく、隠れてその行為を続けるようになってしまいます。

どんな人がなりやすいのか?

アルコール依存症にどんなイメージを持っているでしょうか。たとえば、朝からお酒を飲んでしまう、仕事に行かずに飲み続けている、家族に暴言を吐いている、といった姿を思い浮かべるかもしれません。仕事にも行かずにお酒を飲んでいるなんて、なんていい加減な人だと思うかもしれません。

しかし、依存に陥る人は「まじめな人」が多いといわれています。最初からアルコールに依存していたわけではありません。多くの場合、「きっかけ」があります。私の知っているケースでも、もともとは仕事をして、家族がいた人がほとんどです。そんな人が、大事な家族が亡くなったり、会社をクビになったり、友人に大金を貸して返ってこなかったりといった悲しい出来事などをきっかけに、依存が始まります。

まじめな人は、そうした悲しみから大きなダメージを受けたとき、まじめだからこそ、ほかの人に心配かけまいと、迷惑をかけまいと、自分ひとりでなんとかしようとします。しかし、世の中にはなんともできないこともあります。そんな、精神的につらいときにお酒を飲んでみたら、「ぼーっとして酔っぱらって、イヤな気持を紛らわせてくれた」という体験をする。そうです。ここからだんだんとアルコールを手放せなくなるのです。

アルコールや薬物、ギャンブルなどは「イヤな状況からの回避」のための手段なのです。相談できる相手がいたり、適切に依存できる人は、物質や行為に依存しにくいといわれています。

訪問看護の場面ではどう支援できるか

訪問看護師が介入したからといって、「お酒をやめます」とはなりません。そんな簡単なものではありません。その人がお酒を飲み始めてからの年数と同じくらい、または、それ以上は伴走が必要でしょう。

「お酒やめましょうよ、体に悪いですよ」なんて言葉はタブーです。私が心がけているのは、「お酒があったからこそ、ここまで生きてこられた」という思いで接することです。アルコール依存の人は、もしお酒がなかったら、別のものに依存していたでしょう。なにかにすがらないと生きていることができなかった、困難な状況だったのです。

利用者さんには、「あなたがだらしないからこうなった」のではなく、「この状況は脳の病気なんだ」と何度もお伝えします。そして専門の医師やコメデイカルとともに、訪問看護師も二人三脚で治療に関与していくとお話しします。最近は、依存症対策のプログラムをしている医療機関や、家族支援の場が増えてきました。そういうところにつながっていない人には、ぜひ紹介してください。

仲間つくりが治療のキー

同じような状況にある人たちとの出会いは、とても大事なことです。自分と同じような状況だった人がどのように回復していったのか、その過程を聞くだけで、ずいぶん勇気がわくものです。地域ごとに断酒会や各依存症グループが活動しているので、そこに参加するとよいでしょう。

ハームリダクション

「あなたは1人ではない」というメッセージを訪問看護師が伝えることも大切で、「私たちはあなたの味方である」というスタンスで、繰り返し訪問します。お酒はすぐにはやめられませんが、減らしていくことを目指すというハームリダクションの考え方で支援に入るとよいと実感しています。

訪問看護師として燃え尽きないために

依存症の方の支援をしていて思うのは、すぐに変化があることは無いということ。
せっかく訪問看護として入ったのだから、少しでもお酒が減ったらよいなあと思うことは自然です。しかし長年飲んできたライフスタイルがすぐに変わることは、皆無です。私が訪問するときに心がけていることは「お酒の変わりに少し頼ってほしい」というくらいなものです。それもこちらのエゴかもしれません。そんな長くゆるーい関係性が利用者さんを救うこともあると思うのです。そして私たちも燃え尽きないために、気持ちを楽にもっていきたいですよね。

まとめ

〇各依存症に陥る人はいい加減な人というよりは「まじめな人」が多い。

〇やめましょうと説教はNG、この物質があったからこの人は今まで生きてこられたと考える。

〇長い目で見ていく。すぐにやめることは困難。減らしていくようにサポートする。

〇仲間つくりがポイント。

〇長くゆるくつながっていける関係性作り。

昨年末、NPO法人「ASK」の依存症予防教育アドバイザーの研修に参加し、資格を取得することができました。全国にはこの資格をお持ちの、依存症の元当事者が多くおられ待て、出前研修会もしてくださいます。
依存症に悩む当事者、家族など多くの方に、ASKのことが広まるとよいなあと考えています。
ASKホームページ:https://www.ask.or.jp/article/117





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。