みなさん、こんにちは。
今日は、目に見えない「距離感」のお話をしていきます。

病院という組織のなかでは、白衣やナースステーションという物理的な仕切りが、無意識に私たちの境界線(バウンダリー)を守ってくれていました。
しかし、訪問看護は利用者さんの生活圏内、いわば相手の敷地にお邪魔します。
病院出身のベテラン看護師もが最初に戸惑うのは、看護師である前に、一人の人間として向き合わされるという剥き出しの感覚ではないでしょうか。

境界線が揺らぐ3つのサイン

対話が苦手、あるいは沈黙が怖いと感じる看護師ほど、手近な親切でその場を埋めようとしてしまいます。以下のような行動に心当たりはありませんか?

•私的介入の誘惑
「お茶飲んでいって」「これ、あまっているから持って帰って」という厚意を断れず、毎回もらい物をしてしまう。
•過剰な自己開示
利用者さんの沈黙を埋めるために、聞かれてもいない自分の家族の話やプライベートな悩みを話しすぎてしまう。
•救済者への変貌
勤務時間外なのに利用者さんのことが気になって連絡したくなったり、ケアの範囲を超えた家事手伝い(電球交換や庭掃除など)を「ついでだから」と引き受けてしまう。

これらは一見、よい看護に見えますが、実は利用者さんの自立を妨げたり、看護師自身の燃え尽きを招いたりする境界線の侵食の始まりです。

プロの距離を保つための3つのアセスメント

冷たい看護師になりたいわけじゃない。でも友だちになってはいけない。その間にある正解を見つけるための、社本流チェックポイントです。

① その行動に「看護の目的」はあるか?
たとえば、お茶を一杯をいただくにしても、かたくなに断って関係を壊さないためなのか、ただ断るのが気まずいからなのか。
確認方法
自分の行動の後に、心のなかで「なぜなら、〇〇という看護的意図があるから」と理由を添えられるか確認してみてください。理由が言えないなら、それは踏み込みすぎかもしれません。

② 沈黙を境界線に置き換えてみる
沈黙が続いたとき、何かを喋って場を盛り上げるのは看護師の安心のためかもしれません。あえて沈黙を共有するのは利用者さんのためだと思います。
考え方
境界線とは利用者さんが、自分自身でいられるスペースを確保するためのものと考え、あえて踏み込まない勇気を持ちましょう。

③ 「一人で抱えない」——訪問後のデブリーフィング
訪問は一人で行きますが、判断はチームで行いましょう。
コツ
「今日、お菓子をもらって断れなかった」「自分の家族の話を少ししすぎたかも」という微かな違和感を、ステーションに戻ってから「これってどう思います?」と仲間にさらけ出すことが大切。それが境界線を修復するいちばんの近道です。

「看護師として」というセリフを使おう

利用者さんから境界線を揺さぶるような要求(私的な連絡先の交換や、過度な依存)があったとき、
「〇〇さんのことは本当に大切に思っています。だからこそ、これからも『看護師として』長くかかわらせていただきたいんです」などとお答えできます。
この「看護師として」という一言は、相手を拒絶する言葉ではなく、あなたと利用者さんとの安全な関係を守るための約束の言葉なのです。

まとめ

現場では境界線が揺らぐ3つのサインを確認しよう。

〇その行為は「看護」なのか?

〇沈黙を境界線に置き換えてみる。

〇一人で抱え込まない。

☆「看護師として」というセリフを使ってみよう。

適切な境界線を守り、自分の気持ちも守って長くこの仕事をやっていってほしいと願ってやみません。





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。

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