書籍『予防のためのせん妄ケア』(詳しくはこちら)の著者が、臨床で役立つせん妄の基礎知識をクイズ形式で出題・解説します。
Q
アルコール性肝硬変の患者さんが入院してきました。
次のアルコールに関する質問はすべて必要な情報ですが、入院時に優先すべき確認事項はなんでしょうか。2つ選んでください。
A:いつも何をのんでいるか(アルコールの種類)
B:いつもどれだけのんでいるか(アルコールの量)
C:最後はいつのんだか(最終飲酒日・時刻)
D:アルコールが原因でケガやケンカをしたことがあるか?
E:のまないほうがいいとまわり人から言われたことがあるか?
F:アルコールをのんでいないときに、手がふるえたり、せん妄を起こしたりしたことがあるか?
正解はこちら
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[ C ] [ F ]
【解説】
アルコール離脱せん妄は、入院3~10日程度に出現する可能性があります。このため最後に飲酒したのはいつか、何をどれだけ飲酒したかといった、最終摂取日と飲酒内容を確認すること、そしてアルコールをやめたときに離脱症状のような自覚があるかを確認が重要です。離脱症状やせん妄歴があれば、ほぼ必発すると予測して情報を多職種で共有し対策に備えましょう。離脱症状とは、自律神経症状(手指振戦・発汗・頻脈・血圧上昇・発熱・皮膚紅潮など)・消化器症状(嘔気・嘔吐など)・精神症状(不眠・不安・イライラ・集中力低下など)など多彩に出現します。
検査データからは、とくに低カリウムや低マグネシウムをチェックします。ビタミンB1やニコチン酸の欠乏を含む栄養状態をチェックしてください1)。これは、ウェルニッケ脳症やペラグラ脳症を見逃さないようにするためです。アルコールを解毒するために多くのビタミンを消費しますが、とくにビタミンB1(チアミン)の不足から、ウェルニッケ脳症とその後遺症であるコルサコフ症候群の発症リスクがあります。発症直後にチアミンを大量に点滴すれば回復することができますが、実際には見逃されることが多く、死亡率も10~17%、死亡例以外でも56~84%が記銘力障害や失見当識、作話を特徴とするコルサコフ症候群へ移行していきます1)。
ペラグラ脳症ニコチン酸の欠乏によって発症し、ペラグラ(pellagra)の語源はイタリア語でpell agra(荒れた肌)が由来にあるように、皮膚症状(dermatitis)、消化器症状(diarrhea)、精神・神経症状(dementia)をあわせた 疾患2)といわれています。
【参考文献】
1)松下幸生ほか.アルコール依存症に併存する認知症.精神神経学雑誌.112(8),2010,774-9.
2)野中繁雄.“ペラグラ”.動物性皮膚症:環境因子による皮膚障害.玉置邦彦編.東京,中山書店,2003,286-7,(最新皮膚科学大系,16).
【執筆】
関西医科大学総合医療センター 精神看護専門看護師
書籍の案内
勉強会でもそのまま使えるスライド形式!
「せん妄予防でするべきことなんて、耳タコだよ! やっても効果がないから困ってるんじゃない!」と疲れ切っているあなた。「するべきこと」を効果的に行えるポイントを教えます。「火消し」は消すのが仕事じゃない!火を出さないことがかっこいいんだ!
サイズ : B5判 168頁
ISBN-10 : 4-8404-8522-4
ISBN-13 : 978-4-8404-8522-7
目次
・はじめに
・執筆者一覧
【第1章 せん妄はなぜ予防が大切なのか】
■1 知っておきたいせん妄の基礎知識
■2 せん妄はなぜ予防が大切なのか
【第2章 今日からできる予防の取り組み】
■1 予防のための薬剤の知識
不眠時に使用する薬剤と問題点
ベンゾジアゼピン系薬剤
オレキシン受容体拮抗薬
抗うつ薬
処方薬の整理
■2 知識を実践につなげる
せん妄の診断基準の観察ポイントを押さえる
注意と意識
変動性
認知
意識と昏睡
複数の病因
■3 外来からはじめるせん妄予防プログラム
なぜ外来からせん妄予防をはじめるのか
外来でのアプローチ
入院当日に行う評価
観察と看護計画立案
せん妄ケア
【第3章 起こってしまったせん妄への対応】
■1 明日からできるせん妄の治療
抗精神病薬を知ろう
補助療法を検討しよう
せん妄のリスクがあれば、ためらわずに薬剤を使おう
■2 せん妄のときの効果的な申し送り
不眠と不穏を見分ける
それぞれのときに使用する薬剤
治療的な申し送りで伝えること
■3 多職種で取り組む効果的な対策
精神科リエゾンチームの実際
薬剤師の役割
臨床心理士/公認心理師の役割
作業療法士の役割
医療ソーシャルワーカーの役割
【第4章 明日から使える高齢者ケアのヒント】
■1 明日からできる高齢者ケア
認知症患者さんへのかかわり
かかわるときにできる工夫
■2 地域につなぐための高齢患者のケアの見直し
高齢者を地域につなぐ
フレイルの基礎知識
フレイルを悪化させないためのケア
①睡眠
②痛み
③BPSDとの鑑別
④社会機能のリカバリ
■3 「病棟別・疾患別」の家族も含めたせん妄ケア
ICUせん妄編
一般病棟編
アルコール離脱せん妄編
緩和ケア編
【第5章 社会的な視点からみたせん妄対応】
■1 拘束・抑制と患者さんの権利擁護
一般病棟と精神科病棟の比較
身体的拘束の定義
身体的拘束の法的根拠
■2 高齢者のQOL向上のためにできること
健康寿命を延ばす取り組み
退院後のQOL低下を防ぐために
患者さんの自己効力感を高める
地域への橋わたし
引用・参考文献
索引
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