書籍『予防のためのせん妄ケア』(詳しくはこちら)の著者が、臨床で役立つせん妄の基礎知識をクイズ形式で出題・解説します。
Q
血液内科病棟で、ステロイドパルス療法が開始された高齢患者さんに、気分高揚と不眠がみられました。
受け持ち看護師として適切な対応を1つ選んでください。
A:不眠時の準備があるので安心するよう患者に説明した
B:ステロイド性精神病のリスクを予測し、チームで共有しリエゾンチーム介入の検討を主治医に相談した
正解はこちら
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[ B ]
【解説】
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)を短期間大量投与するステロイドパルス療法は、さまざまな疾患で広く使われています。ステロイドは効果も高いですが、せん妄をはじめとする精神症状も誘発するといわれています。
ステロイドによる精神症状は、うつ、躁などの気分障害と、せん妄、幻覚などの精神病様症状や、 認知・記憶障害の3タイプがあります。気分障害や精神病様症状が軽度や中等度の場合は、不穏、不安、散漫、恐怖、軽躁、無関心、不眠、過敏性、無気力、変化しやすい気分、切迫した話し方、落ち着きのなさ、涙もろさなどみられます1)。
1日40mg以上の投与で、ステロイド精神病を起こす頻度が上昇するいわれています。しかし、投与量は副作用の発生に直接関係しますが、これらのタイミング、重症度、持続期間とは関係はない2)とする報告もあれば、曝露期間が短いほどせん妄発症のリスクは低くなるという報告もあります3、4)。また高齢者の場合は、40mg/日よりも少量であっても長期投与されていると発症するという事例報告もあります5)。つまり、個人差が大きい高齢者がステロイドを服用している場合は、せん妄リスクを予測することは大切といえます。
【参考文献】
1)田平武.ステロイド治療に伴う精神・神経症状とその対策.老年精神薬学雑誌.9(6),1998,650-3.
2)Warrington,TP.et la.Psychiatric adverse effects of corticosteroid.Mayo Clinic proceedings.81(10),2006,1361–7.https://doi.org/10.4065/81.10.1361
3)Lewis,DA.et al.Steroid-induced psychiatric syndromes:A report of 14 cases and a review of the literature.J Affect Disord.5(4),1983,319-32.
4)高橋葵ほか.ステロイドパルス実施中におけるせん妄発症のリスク因子に関する予備的検討。医療薬学.46(8),2020,460-5.
5)馬場美華ほか.ベタメタゾンからプレドニゾロンへ変更後3日目より精神症状が改善した1 症例:POMSを用いた評価.Palliative Care Research.5(2),2010,332-7.
【執筆】
関西医科大学総合医療センター 精神看護専門看護師
書籍の案内
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サイズ : B5判 168頁
ISBN-10 : 4-8404-8522-4
ISBN-13 : 978-4-8404-8522-7

目次
・はじめに
・執筆者一覧
【第1章 せん妄はなぜ予防が大切なのか】
■1 知っておきたいせん妄の基礎知識
■2 せん妄はなぜ予防が大切なのか
【第2章 今日からできる予防の取り組み】
■1 予防のための薬剤の知識
不眠時に使用する薬剤と問題点
ベンゾジアゼピン系薬剤
オレキシン受容体拮抗薬
抗うつ薬
処方薬の整理
■2 知識を実践につなげる
せん妄の診断基準の観察ポイントを押さえる
注意と意識
変動性
認知
意識と昏睡
複数の病因
■3 外来からはじめるせん妄予防プログラム
なぜ外来からせん妄予防をはじめるのか
外来でのアプローチ
入院当日に行う評価
観察と看護計画立案
せん妄ケア
【第3章 起こってしまったせん妄への対応】
■1 明日からできるせん妄の治療
抗精神病薬を知ろう
補助療法を検討しよう
せん妄のリスクがあれば、ためらわずに薬剤を使おう
■2 せん妄のときの効果的な申し送り
不眠と不穏を見分ける
それぞれのときに使用する薬剤
治療的な申し送りで伝えること
■3 多職種で取り組む効果的な対策
精神科リエゾンチームの実際
薬剤師の役割
臨床心理士/公認心理師の役割
作業療法士の役割
医療ソーシャルワーカーの役割
【第4章 明日から使える高齢者ケアのヒント】
■1 明日からできる高齢者ケア
認知症患者さんへのかかわり
かかわるときにできる工夫
■2 地域につなぐための高齢患者のケアの見直し
高齢者を地域につなぐ
フレイルの基礎知識
フレイルを悪化させないためのケア
①睡眠
②痛み
③BPSDとの鑑別
④社会機能のリカバリ
■3 「病棟別・疾患別」の家族も含めたせん妄ケア
ICUせん妄編
一般病棟編
アルコール離脱せん妄編
緩和ケア編
【第5章 社会的な視点からみたせん妄対応】
■1 拘束・抑制と患者さんの権利擁護
一般病棟と精神科病棟の比較
身体的拘束の定義
身体的拘束の法的根拠
■2 高齢者のQOL向上のためにできること
健康寿命を延ばす取り組み
退院後のQOL低下を防ぐために
患者さんの自己効力感を高める
地域への橋わたし
引用・参考文献
索引
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