みなさんこんにちは!

前回に引き続き特殊なバルーンについてお話しします。
今回ご紹介するバルーンはDCBと呼ばれるバルーンです。

DCBはDrug Coated Balloon (ドラッグコーティッドバルーン)といって、通称DCB(ディーシービー)。薬剤コーティングバルーンです。
ここでは冠動脈の治療に使われるDCBをもとにご説明します。

DCBはどんなバルーン?

DCBが登場するときの代表格がステント内再狭窄(in STENT restenosis ISR:通称リステ または アイエスアールと呼ばれます)のときです。

ステントの中が狭窄するのは、金属の部分に覆い被さろうと新しい組織が築きあげられるからです。それを新生内膜といいます。この新生内膜は、生体のものでない金属を覆ってくれるので、血栓形成を防ぐためにはある程度は必要なものです。しかし、それが過剰に作られて、その新生内膜によって血管内腔が狭くなってしまいます。それを新生内膜の過剰増殖と表現します。これがISRの原因です。

そんなときには、まずは前回(#045)紹介したスコアリングバルーンで、新生内膜をぶった切ります。そして内腔が得られて狭窄が解除されたら登場するのがDCBです。

DCBは、バルーンの表面に薬剤と放出基盤と呼ばれるものがコーティングされています。薬剤には抗がん剤が使われています(図1)。抗がん剤はがん細胞を死滅させる効果があります。ステント内に増殖しているのも細胞組織なので、その細胞を同じように死滅させるのが狙いです。薬剤を塗ったバルーンを目的の病変に持っていき、バルーンを拡張させて、薬剤を塗りつけます。これによって新たな組織の過剰増殖を抑えるのです。

でも、抗がん剤をバルーンに塗っただけでは、血液によってすぐに洗い流されてしまいます。そのため、放出基盤と呼ばれるものが混ぜ込まれています。

放出基盤には造影剤でも使われる薬剤が使われます。造影剤のネチョネチョの粘稠度を利用して、すぐに洗い流されないように工夫されているのです。それでも、もともとバルーンについた薬剤の約15%しか血管壁に塗りつけることができず、組織に吸収されるのが約5.5%くらいだといわれています。

カテーテルに挿入されてからは、なるべく迅速に病変まで持っていき、すみやかに拡張部位を決めて拡張することが、薬剤をより多く組織に届けるポイントです。DCBを使うときには周りのスタッフも手技を途中で止めないように配慮する必要がありますね。

拡張は30秒以上する必要があります。長い時間拡張するため、患者さんの症状やバイタルの変動に注意が必要です。DCBの効果を十分に発揮するためにも、なるべく30秒以上拡張できるようにサポートしましょう。

DCBの登場により、非生体物であるSTENT(ステント)を留置しない治療に期待されています。動脈硬化を削り取る治療などをした後に、DCBを塗布して終えることにより、異物を入れずに治療を完了することができるのです。これは、治療後の内服薬の減量などが期待でき、患者さんにとってメリットの大きい治療になるかもしれません。


今回はDCBについてお話ししました。
PCIはどんどん進化していって、より良い治療が提供できるようになっています。

では、今回はここまで。
また次回もお付き合いお願いします。

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プロフィール:野崎暢仁
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人

メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。