この連載も、おかげさまで10回目となりました。
毎回たくさんのみなさまにお付き合いいだき、ありがとうございます。これからも心臓を身近に感じてもらえるように、連載を続けていきたいと思います。よろしくお願いします。
さて、今回からは救急室でのお話をしていきたいと思います。
前回「#009狭心症と心筋梗塞その③~どこが?!心筋梗塞?~」でもお話しした急性心筋梗塞。これを確定診断するには? 他の疾患との鑑別診断をするには?
# 救急患者さんを迎えるにあたって知っておくべきこと ⇒ 救急スタッフ
# 循環器病棟に限らず病棟での急変のときに知っておくべきこと ⇒ 病棟スタッフ
# 緊急カテに対応するために知っておくべきこと ⇒ カテスタッフ
# 緊急カテ後の患者さんを迎えるにあたって知っておくべきこと ⇒ 集中治療室スタッフ
各セクションのみなさん必読です。今回は患者さんが感じる症状についてフォーカスを当てます。
ACSの痛みの特徴を知っておくことの重要性
急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome)とは、不安定狭心症(UAP:Unstable Angina Pectoris)から急性心筋梗塞まで、突然冠動脈の閉塞や狭窄が発生したために心筋が虚血状態となった状態のことで、多くの場合「胸痛」を訴えます。持続する痛みは急性心筋梗塞(AMI:Acute Myocardial Infarction)が疑われ、症状が治ることがあれば不安定狭心症が疑われます。
胸痛!って言っても、人によって感じかたは違うみたいです。
圧迫感(押されるような)、絞扼感(締めつけられるように)、重苦しい、息がつまる、焼けつくような……、など訴えはさまざまです。
逆に訴えとして、刺されるようなチクチクする痛み、触って痛みが増強する、呼吸や咳で痛みが増強する、体位を変えると痛みが増強する、などの症状はACSではないことが多い印象です。
また、「背中が痛い」「引き裂かれるような痛み」や「移動する痛み」「足にも違和感が」などの症状を、尋常じゃなく強い痛みとして訴える場合、ACSの症例をいくつか経験された方は痛みの訴えかたの印象を覚えておいてください。その痛みの様子よりもめちゃくちゃ痛がっていると感じたときは要注意です。
これらはACSではなく急性大動脈解離の可能性を疑う症状です。このときは取り急ぎ、四肢の血圧をそれぞれ測ってみましょう。左右上肢そして下肢に15mmHg以上の血圧差があった場合は、さらに強く急性大動脈解離を疑います。
また、息苦しいなどの呼吸系の訴えが強い場合、SpO2が低値、頸静脈の怒張(横首をみると静脈がプクッと浮き出ている)などを認めた場合は、肺塞栓症を疑います。
ACSと大動脈解離、肺塞栓症は、胸痛を訴えられることも多いですが、訴えに惑わされず、それぞれの疾患の特徴を知り、この後も続く検査でしっかり鑑別していきます。何よりこの3つの疾患は、特に急いで診断をつけて治療につなげましょう。
疾患、病態への理解が確実な鑑別診断につながる
ACSと大動脈解離の関係でもう一つ。大動脈解離は、大動脈の上行大動脈から弓部大動脈、さらには下行大動脈、そして足の動脈まで内膜が解離してしまう疾患ですが、上行大動脈の心臓の近くが裂けていても、ほとんどの場合はバルサルバ洞より上部から裂けている場合が多いのですが、約5%の症例でバルサルバ洞から出ている右冠動脈まで解離が及んでいることがあります。これによって右冠動脈の血流が滞り、心筋梗塞も併発します。
このときは、急性心筋梗塞を示すバイタルサインの変化が認められることによって大動脈解離を見逃し、心筋梗塞の治療のために緊急心カテに進んでしまうことも考えられます。救急(急変時)では、とにかく急いで診断をつけなくてはという意識がはたらき、大切な情報を見逃す可能性があります。思い込みで動くことは命に関わる重大な事態を招くこともあります。
やっぱり、鑑別診断はとても大切です。特に救命のためにとにかく処置を急ぐ疾患の確定診断・鑑別診断は、より確実に、効率よく情報収集する必要がありますね。そのためには、疾患・病態を知り、変化するバイタルサイン・変化しないバイタルサインを知っておく必要があります。
今回は、症状について考えていきました。
この後もう少しACSについてお話を続けていきたいと思います。
次回もよろしくお願いします。
では、また!
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人
メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。