こんにちわ。
今回も引き続き急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome)についてお話しをしていきます。
ACSのなかでも、特に迅速な対応が必要となるのが「STEMI(ステミ)」と呼ばれる「ST上昇型心筋梗塞」です。
ST上昇型?! そう! STとはP-Q-R-S-T-Uでお馴染みの心電図のこと。心電図のSTの部分が上昇しているっていうこと。この現象が認められたら、とにかく急いで対応しなさい! さもないと患者さんの命が危ないよ! って言われています。
どのくらい急がなくてはならないのか?
カテーテル治療ができる施設には、医療従事者との最初の接触(救急隊含む)からカテーテル治療までの時間が90分以内であることが求められています。
これは、保険算定にも関わってきます。来院からバルーンカテーテルによる責任病変の再開通までの時間が90分以内であれば、算定できる手技料は「急性心筋梗塞に対するもの」として34,380点が算定できます。しかし、90分を超えた場合には24,380点になります(※2021年5月現在)。10,000点も差がつくのです。これは、急ぐことはお金のため(だけ)ではありません。大切なのは、それほどまでに患者さんの救命のために、いち早く治療することは重要であるということだと思います。
ちなみに、病院到着(Door)から(to)治療(balloon)の時間(Time)のことを、Door to balloon time(ドア・トゥー・バルーン・タイム)といいます。
このDoor to balloon timeをいかに短くするか、救急セクションから心カテセクション、はたまた事務セクションも含めて、関連するすべてのセクションが協働していく必要があるのです。ちなみに、私の働く施設の現状では、Door to balloon timeは約54分となっています。この時間が早いか遅いかが問題ではなく、これ以上Door to balloon timeの時間を低減することはできないか? と常にチーム全体で考えていくことが重要となってくるでしょう。
ACS患者さんをいかに早くカテ室に搬入するか
こんなデータもあります。1)
病院到着前に12誘導心電図が記録され、それが受け入れる病院に通知された場合、通知されなかった場合に比べて、30日後の死亡率が32%も減少したというのです。
救急隊などによって12誘導心電図が記録されて、その心電図によって「ST上昇」などのACSが強く疑われる場合、その心電図を受け取った病院は、患者さんの到着を待たずに、すぐに治療の体制を整えます。人を集め、カテ室を準備したころに患者さんが到着すれば、必要処置・手続きが済めば、すぐに治療に移ることができるでしょう。こうすることによって、患者さんの死亡率をグンと低減させることができるのです。
病院到着前に12誘導心電図を送ってもらうことは、難しい現状もあります。Door to balloon timeを短縮することは、12誘導心電図を病院到着前に送ってもらうことだけではありません。いま、私たちにできること。私たちの施設でできること。ACS患者さんの救急室での滞在時間をいかに短縮し、病院到着後すぐにカテ室に搬入するか、それが大切になってきます。
ACSが強く疑われる場合には、とにもかくにも迅速な対応が必要です。なぜならば、患者さんの命がかかっているから。そのために必要なのはチーム医療。地域の救急隊から救急室、そしてカテ室がいかに円滑なチームワークを発揮するか。それが、患者さんの命を守ります。
今回はここまで。
次回は、いよいよ、、、多くのみなさんが苦手?! 心電図のお話をしていきたいと思います。
今回もお付き合いありがとうございました。
【参考文献】
1)Welsford M, Nikolaou NI, Beygui F, et al. Acute Coronary Syndrome Chapter Collaborators. Part 5:Acute Coronary Syndromes:2015 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations. Circulation. 2015, 132 suppl.
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人
メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。