堀 耕大
セカンドラボ株式会社
URL:https://www.2ndlabo.co.jp/
2022年4月よりセカンドラボ株式会社に入社。主に介護施設を中心に医療介護向け求人メディア「コメディカルドットコム」の営業・採用課題のサポートを行う。




「精神科で働いてみたいけどどんな職場かイメージが湧かない…」「自分に精神科は向いてるのかな?」と考えている方も多いのではないでしょうか。

今回は看護師が働く診療科の中で「精神科」に特化して紹介します。仕事内容はもちろん、どんな人が向いているか、体験談に沿ってやりがいや苦労など、働くイメージが持てるよう詳しくお話していきます。

1.精神科看護師の役割・仕事内容

まずは精神科看護師の役割や仕事内容について見ていきましょう。

精神科看護師は、うつ病や依存症、統合失調症などの精神疾患を持っている患者さんの心身の健康を回復させるために、専門知識や技術を用いたケアを行います。細かく精神科の看護師の役割・仕事内容を見ていくと、以下の6点が挙げられます。

●患者の診療介助
●患者の心のケア
●患者の状態観察や評価
●セルフケアのサポート
●服薬管理
●患者の社会復帰支援

■患者の診療介助


精神科の医師と同席し、患者の状態観察や今後の治療方針の決定を行います。他の診療科と大きく異なる点として医療的な処置があまり多くないことが挙げられます。ただ、点滴や採血、血圧・脈拍などのバイタルチェックを行う機会はあるため、基本的な看護師のスキルは一通り習得しておくことが望ましいです。

■患者の心のケア


精神科の患者は怪我や病気ではなく「心の病」を患っています。他の診療科の患者以上に精神面でのケアが必要であり、しっかりコミュニケーションをとって患者との信頼関係を築いていく必要があります。

「心の病」はストレスによるところが大きいため、日々のコミュニケーションを通じてストレスを緩和させることも看護師の役割の一つと言えます。

■患者の状態観察や評価


患者を観察し、今患者がどのような状態なのか評価することも大きな役割です。他の診療科の患者であれば検査結果などから状態を評価することは可能ですが、精神疾患の場合は検査から読み取れないような変化に気づくことが、適切なケアの実施につながります。

自分の状態をうまく言葉で説明できない患者も多いでしょう。そのため日頃から患者の状態を細かく観察しておくことが重要です。

■セルフケアのサポート


食事・トイレ・入浴・睡眠など患者のセルフケアのサポートを行うことも精神科看護師の役割に含まれます。精神疾患をお持ちの方は、身体を動かすこと自体が億劫になってしまう方もいます。そういう患者がしっかりセルフケアを行えるよう、極力自分自身で実施できるよう最小限のサポートを行います。

ただ、セルフケアのサポートは病院などでは看護助手が実施するケースが多いようです。

■服薬管理


患者の症状に合わせた服薬管理も重要な業務です。他の診療科に比べて薬の量が多く、患者によっては服薬を拒否する方もいるため、きちんと適量服薬できているか管理しておかなければなりません。

■患者の社会復帰支援


精神科の看護師は患者の社会復帰を支援するという役割も担っています。精神科は「治療が終わったから」「退院したから」終わりというわけではありません。その先の患者の社会復帰を目指して、医師や社会福祉士、精神保健福祉士といった他職種や患者のご家族と連携・支援します。

2.精神科看護師の給料

続いて、精神科看護師の給料を見ていきましょう。

看護師の給料について、残念ながら診療科ごとに細かく公表されているデータがないので、看護師全体の給料例を参考にしました。厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」を見ると、男女別の看護師の平均年収・月収・賞与額は以下の通りです。

▼看護師の平均給与

出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」


男女ともに平均年収は450万円、平均月収は30万円を上回る金額となっています。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると令和3年の全産業の平均年収は約443万円となっているので、看護師の場合、全産業平均よりは高い給与を得ていると言えるでしょう。
出典:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」

ただし精神科の場合は、日勤のみで夜勤手当がつかないことや残業が少ない傾向にあるので、看護師の平均給与額を下回っている可能性があります。もちろん地域差もあるでしょう。精神科の看護師の給料が気になる場合は、転職サイトなどを閲覧してある程度の相場を知っておくことが大切です。

3.精神科看護師のやりがいと苦労

精神科で働く看護師にはどのようなやりがいがあり、またどのような苦労があるのでしょうか。実際に働く看護師がどう感じているか見てみましょう。

■やりがい


▼体験談1 「先生には言えないんだけど…」
私にとっての一番のやりがいは、患者とかけがえのない信頼関係を育んでいけることです。精神科では医療行為や介助を行うことが少ない分、患者と対話する機会が多く、患者との信頼関係も深まりやすいんです。

そのため精神科の看護師は、先生には少し言いづらい悩みなども相談されることがよくあります。たとえば「薬を減らしてほしい」といった切実なものから、「ご飯を大盛にしたい」といった雑談のようなものまで。

そんなとき私たちは、患者が自分自身で医師に相談できるよう背中を押すことを心がけています。ただ相談相手として頼りにされるだけでも喜ばしいですが、自分の声かけによって患者の気持ちが前向きになったり、患者と医師との関係が前進したりしたときはいっそうやりがいを感じますね。
(国立病院 看護師6年目 27歳 女性)

■苦労


▼体験談2 「精神的に不安定な方のケア」
やはり精神的に不安定な方をケアするお仕事なので、特にコミュニケーションなどで苦労することも多くあります。

例えば認知症の患者からは「知らない人」として不審がられることが多いです。それだけならまだよいのですが、泥棒と勘違いされて大きな声を出されてしまうことなどもあり、初めは少しショックを受けました。また患者のネガティブな発言を毎日聞いていることで自分まで心を病んでしまった、という同僚もいました。

精神的な問題だけならまだしも、なかには暴力をふるってしまう患者もいらっしゃるので、ケガなどに対する恐怖心もつきまとうことになります。暴れてしまう患者に対してはチューブの抜去防止などのために身体抑制を行うことがあり、その光景も慣れるまでは胸が痛かったです。
(民間病院 看護師10年目 32歳 女性)

4.精神科看護師に向いている人

精神科勤務に向いている人はどんな人なのでしょうか。自分の性格や志向に当てはまるか考えながら見ていきましょう。

■精神的にタフな人


精神的に不安定な方と向き合う精神科では、自らが精神的に強いことも必要な適性の1つです。患者の中には暴言を吐いてくる人や、暴力をふるってしまう人もいます。 こうした状況では、心ない言葉に傷つかない鈍感さや、ショックを引きずらない切り替えの早さが必要とされます。

■観察力や洞察力がある人


精神科看護の現場では、観察力や洞察力は特に重宝されます。 精神科には自分の症状や心情をうまく言葉にできない患者も多いため、言葉以外の部分から情報を察知して患者を理解する能力が役に立ちます。精神科では退院後の生活まで見据えたケアも行うため、患者への理解が特に重要です。

■根気強く患者と向き合える人


根気強く患者と向き合える人に精神科看護師は向いています。心因性の疾患は回復の判断が難しく、治療が長期化することも珍しくありません。 また、社会的入院といって、入院の必要がない患者が慢性的に入院を続けてしまうという精神科特有の問題もあります。なかなか寛解に向かわない、退院したいのにできない、といった患者を根気強くケアし続けるのも精神科看護師の仕事です。

5.精神科看護師に向いていない人

続いて、精神科での勤務に向いていない方の特徴を紹介します。

■看護の技術を磨きたい人


精神科の看護師は医療行為や介助行為を行うことが他の診療科に比べると少ないため、看護の技術面でのスキルアップがしにくいというデメリットがあります。いろいろな機器や処置に触れ、様々な経験を積んでいきたいという方にとっては、精神科での看護は物足りないかもしれません。

■コミュニケーションが苦手な人


精神科の看護師は、患者とコミュニケーションをとる機会が他の診療科に比べると多くあります。そのため、コミュニケーションに苦手意識のある方にとってはストレスを感じてしまうかもしれません。 また、看護師の一言がきっかけで症状が悪化したり、逆上したりしてしまう患者もいるため、患者を刺激しないという意味でも一定のコミュニケーションスキルが求められます。

■繊細な人


精神科では患者に心ない言葉をぶつけられたり、暴力をふるわれたりといったショックな出来事に遭遇してしまうことが少なくありません。そのたびに傷ついたり、あるいは患者への同情から胸を痛めたりということを繰り返していると、最終的には自らが心を壊してしまうという事態にも繋がりかねません。 患者の心情を細やかに汲みとり、寄り添えることは立派な長所ですが、同時に自分の首を絞める可能性があることも留意しましょう。

6.精神科看護師の将来性

精神科で働く看護師の将来性について、気になる方もいると思います。結論から話すと、今後も精神科における看護師のニーズは高まっていくと考えられます。理由としては以下の2点が挙げられます。

■精神疾患患者は増加している


厚生労働省発表の資料によると、精神疾患を有する総患者数は平成29年時点で約419.3万人(入院:約30.2万人、外来:約389.1万人)とされており、年々増加傾向にあります。高齢化や社会の変化によるストレスの増加などが原因と考えられており、今後も患者数は増加していくものと見られています。
出典:厚生労働省「第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会ー参考資料」

■精神疾患に対する理解の向上


精神疾患に対する理解も近年、向上しています。これは、メディアやインターネットで精神疾患に関する情報が広く流通したことや、精神疾患患者が自ら発信する活動が増えたことなどによると考えられます。

7.まとめ

いかがでしたか?医療スキルを駆使して患者の看護を行う他の診療科とは異なり、精神科の看護師は患者と信頼関係を築き、心のケアをじっくりしていく少し毛色の違うお仕事です。ただ患者が元気になっていく姿に大きなやりがいを感じる方もいるでしょう。

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