ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。

ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。



ゲスト:みなと
10代のころから体の不調を抱えながらも、看護師として就職。不調の原因がわからないまま仕事を続け、休職や転職を経験。26歳のときに脳脊髄液減少症と診断を受け、病気とうまく付き合いながら働く方法を目指し、クリニックへのコンサルタント業務(以下、コンサル)や医療ライターの道へ。2022年出版された『気象病ハンドブック』に執筆協力をしている。

インタビュアー:東恵理
総合病院にて手術室、外科病棟を経験。子育てと仕事の両立に悩み、夜勤のない小規模多機能型居宅介護施設に転職。施設在職中にケアマネジャーの資格を取得したことをきっかけに在宅看護に興味を持ち、訪問看護の道へ。現在は非常勤で訪問看護をしながら、看護学校非常勤講師やライターとして活動している。趣味は釣り、山登り、推し活。



原因不明の病気を抱えながらも看護師を続ける

東:
今日はよろしくお願いします。みなとさんとは、ある看護師コミュニティを通じて知り合いました。一緒に参加したライター講座では、みなとさんが先輩で私が後輩という立場にあたりますね。今日は楽しみにしていました。では最初に、今までの経歴についてお話を聞かせてください。

みなと:
今は看護師の資格や経験を活かして、クリニックのコンサルや医療ライターの仕事をしています。元々、大学を卒業してからは大きな病院の血液内科に配属されて働いていたんですが、3か月で退職しました。それでも看護師の仕事をしたいという気持ちが強かったので、いろいろご縁があって、中途採用のアルバイトとして県立のがんセンターに転職し、正職員になりました。ただ、ちょうど1年ぐらい働いたところで、働くのが厳しい状況となって休職してしまいました。それから、看護師の資格や経験を活かして在宅でライターの仕事をしたり、お世話になったクリニック医師の秘書業のようなことをお手伝いしたりしながら、現在はクリニックの広報や経営コンサルティング、ブランディングの相談を受けるような仕事をしています。

東:
みなとさんは、若いころから原因不明の体調不良に悩まされていたんですよね。病院を退職、休職したのはそれらが関係しているのでしょうか。

みなと:
そうですね。私は高校3年生ぐらいのときに、急に運動部のみんなについていくのがしんどくなるような身体の違和感があったんです。「なんだかおかしい」と、そのころからいくつもの病院を受診しましたが、はっきりと原因がわかりませんでした。年齢的にホルモンバランスの変化なども影響してか、具合はどんどん悪くなる一方で……。例えば、自分が普通に元気な状態で過ごしていたころを100%としたら、当時は10%や5%くらいのエネルギーしか出せないような状況で、なんとか頑張って100%に上げて過ごしているような感覚でした。はたから見れば、学校にも行けるし部活もしている状態だったので、周りの人はあまり気づいていなかったかもしれません。

だけど、病気のことはあまり気にせず、看護師になるために大学に進学しました。そのまま就職して、はじめて自分の病状は思っていたよりも深刻だったと気づきました。就職してすぐに体調を崩してしまったんです。例えば、起立不耐症という症状がありました。血圧調整がうまくいかずに立っているだけでもつらく、頑張っていないと臥位以外ができません。とくに、午前中は立つと気分が悪くなって吐いてしまうんです。自律神経失調症の症状が重いような感じで、頭痛やめまい、ふらつきがつねにつきまとっていました。それで、気分が悪くなって食事もとれなくなってしまって……。こうした症状があって病院に受診しても心療内科しか紹介してもらえないんです。たしかに見た目にはわかりにくいので、周りからは「何が悪いの?」と思われることも多かったです。こうして看護師になってからは、この症状の原因がわからないまま、周りにも体調不良を理解されないまま過ごしていました。何度も受診をして、入院もして、ようやく脳脊髄液減少症と診断がついたのは2020年のことでした※。

東:
診断がついたのはまだ最近のことだったんですね。

みなと:
そうなんです。本当にわからないことが多い病気です。それでもブラッドパッチ(硬膜外自家血注入療法)という治療があるんですけど、それをやったら私は症状が悪化してしまって。今は点滴とリハビリの治療を受けながら過ごしています。脳脊髄液減少症は症状が多いんです。私がよくあるのは目がかすんだり、眩しかったりして、目を開けていられなくてパソコンの画面が見にくいことです。頑張りすぎると動悸や息切れが止まらなくなりますからね。そうしたことから、看護師として働くことはもう無理なんだと思って、在宅でもできるライターに転向しました。今は直接患者さんとかかわる仕事はしていないですが、看護師の資格や経験が活きてくるような仕事をしています。

患者にすらなれなかったことが自分と向き合うきっかけに

東:
先ほど、看護師の仕事をしたいという気持ちが強くあったと話されていましたが、それはどういう思いからでしょうか。

みなと:
大学で恩師と出会ったことが大きいかもしれません。人に興味・関心を持って、「この人の本当のニーズはなんだろう」と探求心を持って考え続ける看護の面白さを、大学で学びました。これは患者さんに対してもそうですし、看護とは、自分とは……と向き合って考えていく、「内省」というものに対してもそうです。この言葉もこの恩師から教わりました。また、論文を書く過程で言語化することの難しさ、言葉1つひとつの重さや大切さもこのときに学び、今のライターの仕事にもつながっています。

元々、看護師になったのは家族に医療従事者が多く医療が身近にあったこと、人とかかわることが好きだったからです。看護師の仕事は生活も含めてその人を全体的にみる職業で、そこに面白みを感じました。学生時代は友だちから「看護オタク」と言われるほどだったので、看護が大好きだったんでしょうね。そういう理想を持って生きてきて、大学で看護の面白さを知ったので、看護師になりたいという気持ちがずっと強くあったんだと思います。

東:
病気を抱えながらの仕事は本当に大変だったと思います。看護師になりたいという強い気持ちはありながらも、現実としては看護師の仕事はうまくいかない…どうやって仕事や自分と向き合っていたのでしょうか。

みなと:
当時は、「何で私はこんなに具合が悪いんだろう」「自分の気持ちが弱いんだ」ということばかり考えていたこともありました。だけど、本当になりたかった仕事だったので、自分のなかでは看護師を辞めるという考えはなく、もうそれは必死で、根性でなんとか食らいついていました。薬や治療で何とかなると思っていたのもありますね。だけど、結局はどこに行っても患者にすらなれなくて、どうすればいいのかわからなくなる時期もありました。でも、立ち止まっていても仕方ないし、看護師として働くこと以外を自分で行動して探していこうって。私の人生、本当に独特すぎて、レールから外れてしまったら、自分で道を作るしかないと思って、なんとか手探りで今のコンサルやライターの仕事に行きつきました。

患者として生きてきた自身の経験が看護の仕事につながっている

東:
それでは本題に進んでいきたいと思います。今回の企画ではいくつか質問を準備しているので、このカードの中から選んでもらっていいでしょうか。

みなと:
じゃあ、左から3番目で。

東:
「看護師の仕事をひとことで表すなら」ですね。

みなと:
なんだろう。私にとってひとことで表すなら……“自分と向き合う仕事”ですね。患者さんとのかかわりをとおして、そう感じるようになったと思います。患者さんの反応は、看護師として自分が行ったことが、そのまま返ってくるように感じるので。

例えば、患者さんのなかには命がけで、過酷な人生を歩みながら治療している人もいると思うんですけど、その人生の一部に私が看護師としてかかわるわけじゃないですか。だけど、実際のところは、自分が命の危険にさらされる経験をしたことがある看護師って、多くはないですよね。そうすると、こちらが良かれと思った対応が相手にとっては違っていることがあると思うんです。それは患者さんと看護師で考えや認識がずれているからで、それが患者さんの反応になって表れますよね。患者さんからいい反応が返ってくることもあれば、そうではない反応が返ってくることもあります。看護師である自分が考えてかかわった結果が患者さんの反応でかえってくる。だから自分と向き合う仕事だなと思います。

東:
なるほど。そのように考えるきっかけは何かあったのですか。

みなと:
きっかけは、大学の看護実習ですね。看護師の仕事は「患者さんに寄り添う仕事」といわれることに、昔から疑問を持っていたんです。生や死とつねに隣り合わせで生きている患者さんに、元気な私がどうやって寄り添うんだろうって。だから、真に患者さんのことを理解して寄り添うことはできないかもしれない前提で、それでも寄り添うために歩み寄り続けること、歩み寄ることをあきらめないのが大事なのかなと考えるようになったんです。とくに私自身が病気の症状で苦しんでいたときに、自分に関心を持ってくれたり、一緒に考えたりしてくれた看護師さんがいました。私はそういう人たちに支えられて、救われた経験があるので。寄り添うって難しいですけど、看護ってそういうものなんじゃないかなって、自分なりの経験をもとにそう思っています。

意識的ではなく習慣として自然にやっていること

東:
自分と向き合うって、本当に人それぞれいろんなやり方があるかと思うのですが、みなとさんは自分と向き合うって、具体的にどんな風にやっているんでしょうか。

みなと:
そうですね……。患者さんとかかわった後に、振り返る感じですね。何か時間や場所を設けるわけではなく、仕事の帰り道にふと考えたりすることが多いと思います。

例えば、私が以前勤めていた血液内科では病状が芳しくない方もいたので、患者さんから「もうつらくて死にたい」と言われたことがあるんです。実際にこう言われると、なんて返していいかわからないですよね。その場では、自分なりに考えてできる対応はするんですけど、だけどモヤモヤした気持ちはちょっと残っていて。その気持ちはそのままにせず、後から自分でも振り返って考えるようにしたんです。「あのときなんて返したらよかっただろう」「本当は患者さん、何を考えていたんだろう」「私の対応でどんな影響を与えたんだろう」と。大学で実習していたころからこうした内省や自己分析をするのが癖だったので、こうやって自分と向き合うことを繰り返しています。それがまわりまわって、全部自分に返ってくると思うんです。

東:
自然と日ごろから振り返ることをしているんですね。そこで考えたことは、書き出したりするんですか。

みなと:
あえて書き出すことはないですね。だけど、あまりにも気になるときは本を読みます。本を読むのは好きなので、持っている本で気になるものや、本屋さんに並んだタイトルで目を惹いたものを手に取って、自分のなかに落とし込むのが習慣ですね。看護哲学や精神看護などのジャンルが好きなので、そうした本をパラパラ読んでヒントにしています。

あとは、職場の同僚や大学の同期とか、周りにしっかりした考えを持っている人がいるので、ディスカッションのように話をして、新しい視点を持ち帰ったり、自分のなかで思考を整理したりすることもあります。私のタイプ的に、アドバイスをもらってそれに影響を受けて流されちゃうよりは、「私はこう考える」と自己完結することもあるので、最終的には自分で考えることを大事にしていますね。というのも、過去に私の病気に関することで、人からいろいろ言われて流された結果、失敗した経験をたくさんしてきたんです。失敗しても自分で責任を取れるように、自分で考えて自分で行動しようと、そう思うようになりました。

患者さんの言葉が笑いとユーモアを大事にするきっかけに

東:
では、2つ目の質問にいきたいと思います。

みなと:
えっと、左から5番目で。

東:
「患者さんから言われたひとことで印象に残っている言葉」ですね。

みなと:
そうですね…「あなたみたいな人は初めてみた」って言われたことですね。しかも、最初の病院でも転職後の病院でも言われたのですごく印象に残っています。どれも何気なく世間話をしているタイミングで、患者さんと私で大笑いをしていたときに「こんなに話を聞いてくれて、話をしてくれる人は初めてみた」と言われました。私がいたところではターミナルの患者さんが多くいました。病気が進行して症状もあって、つらいことのほうが多いかもしれないですけど、そういう患者さんから出てきた言葉だったので、すごく印象に残っています。そして、「最後はやっぱりユーモアとか笑いだから。そういうのを大事にしたいよね」と話してくれていたんです。

東:
ユーモアや笑いは、日ごろから意識して患者さんとかかわっていたんですか。

みなと:
元々、私の性格は明るいところがあるので、笑顔は大事にしていたかもしれません。ただ、特別にユーモアや笑いを意識してかかわっていたわけではないですね。患者さんには笑顔が通用しないかなと思っていたこともあったんです。患者さんにとって元気な人が笑っているのを見ても、逆にエネルギーを吸い取られちゃうんじゃないかなって。だけど、そんな時期にある患者さんから「最後は笑顔だよ」「あなたも笑顔を大事にしなさいね」と言われたので、自分の考えは少し間違っていたのかもしれないと気づかされました。

あと、ユーモアと笑いを意識していたわけではないですけど、新人のころは看護師としての知識やスキルもないし、何もできないからこそ、患者さんとかかわる時間を大事にしようと思っていました。短時間でも何気ない会話をしたり、ほんの一瞬、ひとことでも声をかけたりして。例えば、ごはんの話とか季節柄の話とか、そういうたわいもない話から、患者さんが好きなもの、関心があるものを知ることができるので。こうしたやりとりのなかで「ふふっ」と笑い合えるようなことはないかなって、仕事をしながら探していましたね。

私は仕事がしんどいときに病室に逃げ込むことがあったんです。そのときに患者さんが、「みなとさんが来るとすごく楽しい」「みなとさんは看護師が天職だと思うから、辞めないでね」と優しく接してくれて、そのかかわりに本当に救われて、癒やされて……。そのまま初心を忘れずに変わらないでねと言ってもらえた気がしました。それが、私にとって看護師を続けていくひとつのモチベーションにもなっていたと思います。

楽しいこともつらいことも1つひとつが糧になる、自分らしくいられる場所はきっとみつかる

東:
じゃあ、最後の質問になります。「あなたが後輩の看護師に伝えたいことはなんですか」です。

みなと:
そうですね、適材適所という言葉があるように、自分らしくいられる場所はきっと見つかるということですね。看護師だからといってそれが看護師の仕事とは限らないかもしれません。私は病気もあって、転職をして失敗を繰り返してきましたが、いつかは自分に合った場所や働き方が見つかると信じていました。自分の居場所や輝く場所って、見つけるまでにある程度、行動力やエネルギーが必要ですよね。そのエネルギーが尽きないように、看護師として大事にしたいこと、自分の人生として大事にしたいことを一番に考える。自分のことを知っておいたほうが、回り道せずに見つけることができるのかなと思います。私はとどまっていると落ちていく一方なので、行動して現状を変えたいという気持ちが強かったのかもしれません。

東:
自分らしくいられる場所は見つかると信じてやってこられたのは、何か気持ちを支えるものがあったのでしょうか。

みなと:
本当に私はうまくいかないことが多かったので、「1つひとつが糧になるから」という恩師の言葉で頑張ることができたと思います。もちろん、うれしいことも楽しいことも、しんどいことも全部が自分の糧になる、自分の財産になるって思ったら、ちょっと頑張れるんじゃないかなって。今、しんどいことや大変なことがある人はそういう気持ちを忘れないようにして、看護の仕事を楽しむことができている人は、そのまま自分の人生も生活も楽しんで、自分らしくいられることが大事だなと思います。

東:
やはり、恩師の先生の存在は大きかったのですね。

みなと:
そうですね。あとは、自分の症状の原因を探るためにいろんな病院に行ったので、そこで出会った医師や看護師、患者さんとの出会いも大きかったと思います。そういう人たちと話をしたり励ましてもらったり、いろんな人とのかかわりや言葉が私の身になっています。

東:
自分らしくいられる場所はきっと見つかる。病気を抱えながらも、患者さんだけでなくつねに自分と向き合ってきたみなとさんだからこそ言える言葉なのかな……。なんだか今までの話につながっているような気がしました。みなとさん、ありがとうございました。

みなと:
こちらこそ、ありがとうございました。

※症状は個人差があります。今回の記事で掲載した症状はあくまで個人の体験に基づくものです。

インタビュアー・白石弓夏さんの著書



Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~

Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー


今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。

目次


◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏

発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
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