ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。
ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。
大学卒業後、都内の総合病院の内科病棟で5年間勤務。大学院で公衆衛生学を専攻。修了後、聖路加国際病院で経営企画やTQM部門を経験し、現在はハイズ株式会社で医療コンサルタントとして病院の業務改善に携わり6年目を迎える。
小児科4年、整形外科・泌尿器科・内科系の混合病棟3年、その後、派遣で1年ほどクリニックや施設、ツアーナース、保育園などさまざまなフィールドで勤務。現在は整形外科病棟で非常勤をしながらライターとして活動して5年以上経つ。最近の楽しみは、仕事終わりのお酒と推しとまんが、それと美味しいごはんを食べること。
病院の"当たり前"に疑問を持ち続けて
白石:
お久しぶりです。のだみさんとは以前、ヘルスケア分野の方々が集まる飲み会でお会いして、経営改善やコンサルタントの仕事をしている看護師さんと会うのが初めてだったので、とても印象に残っています。今日は仕事の話も含めていろいろお聞きしたいです。まずご経歴についてお伺いできますか。
小野田:
ありがとうございます。私は大学卒業後、都内の総合病院の内科病棟で5年勤めました。そこでは腎臓病や透析、糖尿病、消化器疾患など、内科全般の患者さんを担当していました。血液内科の患者さんもいらっしゃいましたし、化学療法も経験しました。隣が泌尿器科だったので、泌尿器科や眼科の患者さんもときどき担当していましたね。
その後、九州大学の公衆衛生学の大学院に2年間通いました。大学院修了後は、看護師として働くか、どうしようか迷ったんですけど、聖路加国際病院で経営企画やTQM(Total Quality Management)部門を経験し、現在の会社であるハイズ株式会社に転職して今年で6年目になります。じつは今の会社が、社会人としての経験のなかで一番長くなりました。
白石:
もうそんなになるんですね。最初の病院から大学院に進学されたきっかけはなんだったんですか。
小野田:
すごく言い方が難しいのですが、日常業務に飽きた……と言ったらいいのかな、それと仕事をするなかで、全然制度のこととか知らないんだなって思い始めたのがきっかけです。患者さんと接するのは楽しかったですし、同期の人たちもみんないい人でした。でも、朝に出勤して、担当の患者さんについて、時間で処置をして……という感じで、これがずっと続くのかと思うと、自分でなにか刺激を持たないと続かないなと感じるようなことがありました。
それに、制度のことがよくわからないことが多かったんです。たとえば、DPC(診断群分類包括評価)で包括になっているのに、なぜコストを漏れなく入力しろと言われるのか。クリニカルパスがあるのに、なぜこの患者さんには使われていないのか。経験を積むにつれて、そういったことが気になり始めました。じつは私が、かなりめんどくさがりなのも影響していると思います。「これは本当に必要なのか」「必要じゃないなら、やらなくても済む方法はないのか」とよく考えていました。そういったことの意味を理解することは、当時の私にとってとても重要でした。
それでそういったことを勉強できそうだなと思ったのが、公衆衛生や医療経営、マネジメントに関するところで、大学院に行こうって。
白石:
私も同じくめんどくさがりなんですけど、ちょっとタイプが違いますね。私はもう考えるのもめんどくさいってなっちゃいそうだなって。
小野田:
そうですよね。私の場合は、当時から病棟内で使うフォーマットを変えたり、二重に書かなければいけない設定になっているものを見直したり。同期にも似たような感覚の人が多くて、よく話し合っていました。たしか私が入職したのは7対1看護体制で看護師の大量採用があった時期で、病棟の職員が半分くらい入れ替わったんです。先輩方は大変だったと思いますが、同期が多かったので、いろいろな意見を出し合えました。ほかの病院から転職してきた経験のある同期もいて、「前の病院ではこうしていた」という話を聞いて、「それいいね、じゃあみんなでそうしよう」といった会話もよくしていました。当時やっていたことは、案外今でも似たようなことをやっていて、そんなに筋違いではなかったんだなって思いますね。
病院の経営や業務改善コンサルタントとしての仕事
白石:
それから聖路加国際病院に入職されて、これは看護師としてではなく、ですよね?
小野田:
そうなんです。聖路加では事務職として採用されたんです。看護部ではなく、総務や人事がある病院事務のほうでの採用でした。上司は事務の方で、面接のときも隣の受験者は22歳の私立大学の法学部や経済学部を卒業したばかりの方でした。同じ病院でも、看護師として働いていたときとはまったく違う世界でしたね。
白石:
実際どんな仕事をしていたんですか?全然想像がつかなくて。
小野田:
企画のときは委員会運営も含めて担当していました。たとえば救命救急センターの運営を考える委員会の事務局をしながら、院内で解決が必要な課題について救急部の先生と話し合って調整したり……。現場の看護師さんというよりは、師長さんや他職種の方々との調整が多かったですね。
TQM部門では医療安全を担当し、インシデント報告の仕組みづくりやJCI(国際医療評価機構)の認証なども手がけました。病院によってオペレーションは違うので、重要なポイントを見極めることを意識していました。
白石:
それで、今の会社にはどんなきっかけで転職をして、どんな仕事をしているんですか。
小野田:
聖路加で一緒に仕事をしていた上司が先に転職していた今の会社に、少し遅れて縁故採用のような形で入社を決めました。今の仕事は、聖路加でやっていた仕事の延長線上にあると思います。立ち位置が内部か外部かの違いはありますが、仕事自体はこの10年くらい似たようなことをしています。
白石:
ちなみに本当に素人的な質問なんですが、そもそもどうやって、どこから仕事がスタートするんですか。
小野田:
依頼は基本的に院長先生などの経営層や自治体から来ます。最近は医師の働き方改革に関連して、タスクシフトや人件費の相談が多いなかで、まずは業務整理と業務改善による業務のスリム化をおすすめすることが多いです。
白石:
そうなんですね。それってのだみさんがひとりで1~2年と長いスパンで担当するんですか。
小野田:
仕事は基本的にチームで行いますが、2~3名程度の小規模なチームです。1つの案件は半年から1年くらいが理想的な期間ですね。最初の数ヶ月は現状把握と分析に時間をかけます。目標設定をして、効果検証までを見据えた流れで進めていきます。現場の方々とお話ししたりヒアリングしたりしながら、具体的な提案を作っていって、最後に目標に対する効果検証を行います。こうした一連の流れで1年、もしくは更新して2年とみていきます。うちの会社ではオペレーション改善が得意なメンバーと、病院内の教育事業を得意とするメンバーがおり、私はオペレーションのほうを担当していますね。
人を動かすコツは"押しつけない" 現場との向き合い方
白石:
看護師や病院の組織の風潮として、外部からの改革は抵抗もありそうですよね。電子カルテが導入されるとかでも、また新しいことを覚えなきゃとか業務が増えるって愚痴が増えそうだなって。
小野田:
警戒されることは確かにありますね。でも、我々はその仕事でお金をいただいているので、「ここまで」という目標値や成果の設定を最初にすり合わせます。そこに向けて、抵抗感を示される方ももちろんいらっしゃいますが、それが仕事なので頑張って調整します。
白石:
なにかコツとかあるんでしょうか。
小野田:
コロナの時期はとくに大変でしたが、できるだけ現場に足を運ぶようにしています。実際に伺うと、皆さんよく話してくださいます。あと、「絶対こうしたほうがいい」というような言い方はしません。そちらのほうがいいんじゃないかと思ってもらえるように話すことを心がけています。やっぱり当事者の方々に「やってみよう」と思ってもらわないと続かないですよね。もちろんアドバイスや提案は持っていきますが、「これをしなければならない」というような言い方は避けています。基本的には目線を合わせていきたいと思っていますし、私たちの提案の背景も含めて理解してもらえると、お話を聞いてもらいやすいと感じています。
白石:
なるほど、そのために実際に足を運んでお話しする機会をつくっているんですね。
小野田:
そうですね。実際にカルテを見せていただいて「こんなに書かなければいけないんですか、大変ですね」という話から始めて、「もうちょっとうまいやり方ありますよ」というような提案をすることもあります。そうすると「こんなに苦労しなくてもいいんだ」と思っていただけて、やってみようという気持ちになっていただけたりします。
最近は記録をチェック形式でしているところも多いので、「書かないほうが逆にデータも取れるからいいんですよ」とお伝えするとけっこう驚かれることもあります。面白いのは、病院の方々は「やらなくていい」と言われても不安になってしまう傾向があることです。一般社会だと「やらなくていい」と言われたらやらない人のほうが多いと思うのですが、病院は逆なんですよね。看護師は本当に真面目なんだと思います。だから、「1回やってみてください」ってよく言いますね。これは時代が変わってきているなかでも、ずっと同じように感じています。「もう少し楽になったらいいのに」といつも思いながら、「こういう根拠があってやらなくていいんです」と根気強くお伝えするようにしています。
白石:
実際にのだみさんがコンサルに入られて、現場からの反応ってあるものなんですか。
小野田:
ちょうど2年ほどかかわった病院さんがあるんですけど、副看護部長さんから「最初はやれないと思っていたんだけど、自分たちでもやってみたら変われるんだと、変わったという実感がありました」というようなお話をいただいてそれはすごくうれしかったです。うちの会社は当事者意識を持っていただきながら一緒に伴走するというスタイルなので、本当によかったなって思いますね。
白石:
これは個人的に気なることでもあるんですけど、コンサルで入るなかで、これは必要ないなってよく思うものってたとえばどんな業務があるんでしょうか。
小野田:
今だと電子カルテを入れているのに、いまだに紙の運用がめちゃくちゃ多いことですかね。けっこう大きな病院でもそうです。紙だと自由に書けちゃうんですよね。連携している診療所や病院に電子カルテが入っていないこともあるので、必要なところはもちろんあるんですけど。それでもデータは電子で集約する、電子カルテを前提に業務を組み立てたほうがいいと思いますね。今一番どうにかしたいのは、ペーパーレスの推進かもしれないです。業界全体で、一番改善の余地があります。
仕事に活きる、諦めない気持ち
白石:
それではここで、ちょっと質問カードを引いていただけますか。
小野田:
右から3番目で。
白石:
「あなたのおすすめの本をプレゼンしてください」ですね。
小野田:
これって漫画でもいいですか。私は元々バスケットボール部で、今でも試合を観に行ったりするんですが、やっぱり『SLAM DUNK』をおすすめしたいです。本当にあの漫画は名作だと思います。
白石:
おお!私たちはちょうど世代ですよね、映画も観に行きました!のだみさんが好きなシーンやこういう読み方しているとかあるんですか。
小野田:
ありきたりかもしれませんが、安西先生の「あきらめたらそこで試合終了ですよ」という言葉は、今でも心に残っています。私自身、あまりあきらめたくないタイプで、もしかしたら時代錯誤かもしれませんが、なにかをするときに、精神的にもうダメだなと思うときでも、最後までやり切ろうと思います。ここまではやろうと決めたら、その言葉をたまに思い返すことがあります。
白石:
ちなみに、のだみさんが最初に漫画を読まれたのはいつごろなんですか。大人になった今読み返すと、また違った見方ができたりするなぁとも思うんですけど。
小野田:
小学生のころから読んでいて、とくにミニバスと中学校でバスケをやっていた時期にぴったり重なっていました。大人になった今、読み方も少し変わってきましたね。たとえば、眼鏡くん……木暮先輩のような、スタメンではない選手たちの描写の見え方が変わりました。一緒に練習しているチームメイトたちが、スポットで出場して活躍するシーンがあるんですよ。リョウタの友だちのヤス(安田)とかもそう。子どものころはあまり気にしていなかったそういう部分も、今ではけっこう細かく見るようになりました。
白石:
あ~わかります!私も昔は湘北スタメンの三井が大好きで、そればっかりだったんですけど、映画を観て、漫画も読み返したときには山王工業の堂本監督目線でいましたね(笑)。
小野田:
(笑)そうですよね。湘北スタメンの流川とかは変わらずかっこいいんですが、あまり心情がはっきりと見えない描き方ですよね。昔は描かれているもの、表に出ているものしか見なかった気がするけど、今はこのときはどんなことを考えていたんだろうとか、そういうところも気になるようになりましたね。
白石:
のだみさんが仕事でもあきらめたくない、やり遂げたいという気持ちになるのって、どんな場面なんですか。私は最近あまりそういう気持ちになったことがない……かもなぁと思って。
小野田:
いや、そんな大層なものじゃないんですよ(笑)。最近だととくに冬は年度末の締めが多くて、業務量のコントロールが難しい時期があります。そういうときに心が折れそうになることもあるんですが、「やる、やる、やる」「頑張れ、頑張れ、頑張れ自分」という根性論で、とりあえずやり切るという……すごく陳腐な話なんですが(笑)。
白石:
でも、のだみさんのお仕事だとけっこう長いスパンのお仕事も多いと思うんですよね。だから、どこかで息切れしないのかなぁって思っちゃいます。私がめっちゃ短距離走タイプだからかもしれないですけど。
小野田:
そうですね。だいたい1年で区切りになるので、1~2年のお付き合いになることが多いです。でも、そのなかで時期によって目標設定したり効果検証したりとステップが違うので、なんとかなっている。なんとかなるかなって思っているので、やってみようと思っているのかもしれないです。とりあえずやってみたらなんとかなるってマインドなのかな。
「自分事」として伝える、経験から学んだアドバイスの形
白石:
仕事の話じゃなくてもいいんですけど、のだみさんがちょっと自信がないようなことでも、なんとかなるか、やってみようかなと思ってやってみたことで、すごく大きく変化があったものとかってあるんですか。
小野田:
あまり最初から無理とは言わないようにしている、言わないタイプかもしれないです。ちょっとやってみて、興味が湧かないってことはあります。昔だったら、それこそ根性論でやっていたかもしれないですけど、今はそこに対して仕事の場合ならちょっと自分とは違う分野だから、得意な人や好きな人がいるならその人にお願いしたほうがいいなとか、そういう風に考えるようになったと思います。好奇心はあるほうなんで、やったことないことはやってみてもいいかなって思うタイプなのかな。
白石:
そうなんですね。なんか私がよく相談される内容で、話の行き着くところって、「それやってみたらいいじゃん」みたいになることがわりとあるなと思っていて。私はそのファーストステップをあまりハードル高く感じないタイプなのかもしれないんですけど。そういう人にアドバイスできるとしたら、なにかありますか。
小野田:
アドバイスねぇ……女性は多いかもしれないですけど、あまりアドバイスを求めていないというか、自分ではもう決めているから同意してくれたらいいというか、共感してくれたらいいみたいなことありますよね。だから、私の場合だったら、「私だったらこうするわ」っていう言い方をする気がします。最近はとくにその人のことを思ってみたいな言い方はしないようになりましたね。
白石:
その話、なんかのだみさんの仕事ともめっちゃ通ずる気がしますね。コンサルで入るときに、「絶対こうしたらいいですよ」みたいな言い方はしないって言ってましたよね。
小野田:
あぁ、そうかもしれないですね。仕事で変わったのかもしれない。あとは、もうひとつ思い出したことがあって、昔一緒に働いていた後輩看護師の話で、私が転職するときに、「病院を辞めるとか、違うところを探すときには、マイナスな感情で選ばないほうがいい」みたいなことを言ったらしいんですよ。10年くらい前に。それで、その子が数年前に転職したんですけど、当時の話を覚えていて、職場がけっこうつらかったんだけど、これはマイナスなことになるからと思って頑張っていたという話を聞いて、申し訳なくなっちゃって……。私が思っていることは別に嘘ではないんですけど、最近のご時世だとまた転職の状況とかも変わって来るし、なんか申し訳なかったなって。私のひとことでその人にこれだけ影響を与えてしまったのは、どうなんだろうと思うことがあって、そこで学んだというか。自分ごととして自分の意見を伝えてみようかなと、そういうスタンスに変わったんだと思います。
白石:
なるほど……私、めっちゃお節介おばちゃんみたいになりそうなときあるんで、肝に銘じます……。
看護師という職業のよさ、視野を広げ、外の世界を知ってほしい
白石:
それでは最後の質問です。「あなたが後輩の看護師に伝えたいことはなんですか」です。
小野田:
アドバイスというより、私だったらこうするという視点でなんですけど、2ついいですか。1つは、看護師という職業はすごくいい職業だということ。もう1つは、それを理解したうえで、外の世界も多少見る努力をしたほうがいいということです。これ病院で働いているときから思っていたんですけど、看護師は「ありがとう」と言われる仕事で、そういう仕事は世の中にそんなに多くないと思うんです。社会インフラにかかわる仕事として、社会貢献度も高くて。給与や待遇面では日本ではまだ課題があるかもしれませんが、患者さんから「ありがとう」と言っていただける仕事は本当に貴重だとあらためて思います。
一方で、医療界はあまりに変化が遅い、変わらない業界でもあります。今の社会の変化を考えると、医療業界も変わらざるを得ない時期が来ると思います。たとえば、以前はパソコンができなくても大丈夫な看護師さんもいましたが、もうそういう時代ではなくなっていきますよね。そのため、社会の中の医療という視点で、若いときには特に視野を広く持って、そういう情報を自分から取って行くくらいの姿勢があったほうがいいのかなと思います。そうすると、看護師という仕事がより素晴らしく思えるか、病院があまりにも閉鎖的だと感じるか、2つに分かれるんじゃないのかなって。でも、それはそれでいいと思います。外にも目を向けられる、外からの視点がある人材も看護業界には必要だと思うので、若いうちからいろんな世界を見ていってほしいですね。
白石:
外の世界を知るって、簡単なようで難しいような気もしていて。今だとSNSでは極端な意見が目立ったり、怪しいセミナーとかコミュニティ、詐欺まがいなことが謳われていたりすることも少なからずあるじゃないですか。
小野田:
私が人見知りであまりコミュニティとかには参加していないんですが、高校の友だちや、違う病院で働いている大学の友だちのように職場や家族以外の知り合いと話すことでも、違う考え方や視点に触れることができると思います。必ずしも業界の「外」を意識する必要はなく、同じ時間を共有していない知り合いとの交流でも十分だと思います。
白石:
看護師はカモられやすいですからね……だからどんどん外に出て行けってちょっと言いにくいなって。さっき、病院の変化の遅さについてお話がありましたけど、外に出て行って仕事をしているのだみさんから見て、具体的にはどういった点を特にそう感じますか。
小野田:
人の要素で言うと、看護部は昔から軍隊のような指示命令系統がはっきりとした場所ですよね。先輩の言うことが正しいとされ、その教育を受けた人がまた管理職になって同じことを踏襲する。いわゆる「屋根瓦式」のシステムが続いているんです。また、環境やテクノロジーの要素で言うと、医療安全や質の話では「今のやり方でいいから」「新しいものを取り入れて大丈夫なんですか」という不安や拒否の声が多くなります。医療機器は進化していますが、オペレーションについては「今までので保たれているから変えないほうがいい」という考えが強いです。一般社会から見ると、病院は10年、いや20年くらい後ろを歩いているんじゃないでしょうか。10年以上前の私の急性期病院での経験と今聞く話があまり変わっていないなと思うこともあるくらいです。
白石:
そんなに違いますか……。
小野田:
診療報酬改定で事務作業は増え、地域連携の形も変わっているのに、病棟看護師の業務はほとんど変わっていない。そこにひずみが出てくるのは当然です。以前から『これでやってきたから』と言われ、信じて疑わずに若い子たちもそうやり続けている現状があります。そういうところで、私たちが変えるお手伝いができたらと思いますね。
白石:
今日のだみさんが話してくれたことは、5年、10年後に「そういうことだったのか」とつながってくることが多いかもしれないですね。ありがとうございました!
インタビュアー・白石弓夏さんの著書

私もエールをもらった10人のストーリー
今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。
さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。
目次
◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏
発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
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