ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。

ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。



ゲスト:宮秋まどか
2024年1月より集中治療看護の情報を発信していくVtuberとして活動開始。中の人は大学病院で10年以上にわたりICUで勤務。看護師として8年目のころに集中ケア認定看護師の資格を取得。重症患者のケアに従事しながら執筆業や若手教育にも携わる。
https://www.youtube.com/channel/UCgC51zCYS1aDEMbaqGvI9Xg

インタビュアー:白石弓夏
小児科4年、整形外科・泌尿器科・内科系の混合病棟3年、その後、派遣で1年ほどクリニックや施設、ツアーナース、保育園などさまざまなフィールドで勤務。現在は整形外科病棟で非常勤をしながらライターとして活動して5年以上経つ。最近の楽しみは、仕事終わりのお酒と推しとまんが、それと美味しいごはんを食べること。

「食いっぱぐれないだろう」看護師への現実的な一歩

白石:
はじめまして!今回は看護師Vtuberでもある宮秋まどかさん……の中の人にお話を聞くという、不思議な感覚のインタビューなんですが(笑)、V推しとしてとっても楽しみにしていました!まずはこれまでどういったところで働かれていたのかについてお聞きしたいです。

宮秋:
ありがとうございます、めっちゃ緊張します(笑)。看護師としては、同じ大学病院で10年以上働いているんです。ジェネラルICUで異動とかもなく、学校を卒業してからはずっと同じところですね。それまでは全然違う仕事をしていました。高校卒業後、通信設備系の仕事をしていました。電話の配線とか、作業着を着て工具を持ち、電線を切ったりはんだ付けをしたり。いわゆる技術職でしたね。高校ではプログラミングなどパソコン系の学科で、システム系の仕事がしたくて就職したんですが、配属先が技術職の部署でした。大きな企業内に常駐して5年ほど働きましたが、高卒だったこともあり給料は今の半分ぐらいだったんですよね……。

そこから体調を崩してクリニックにかかったとき、たまたま担当の看護師さんと話をしていくなかで「私も一般の仕事をしていたけど、辞めて専門学校へ行って看護師になりました」という話を聞いたんです。そんな道もあるんだと思って驚きました。ちょうどそのころ、介護ブームのような動きもあったんですよ。高齢社会で介護士の需要が増えていた時期で、介護系の仕事もいいかなと思っていたんですけど、どうせならもっと仕事の範囲の広い看護師のほうが楽しそうだと。それと、「食いっぱぐれないだろう」という現実的な理由もありました。特別、看護師への憧れがあったわけではなかったですね。

白石:
看護師になる前にはまったく別の仕事をされていたんですね。ガラッと環境が変わって、看護学校での生活はどうでしたか。

宮秋:
わりと楽しかったですよ。公立の学校だったので、シングルマザーや30代前後の方など、社会人経験のある方が半分くらいいました。学費も月1万円しないくらいだったので、お稽古ごとに3年間通ったら看護師になれたようなものです。当時の私は23~24歳くらいでした。周りは必死に資格を取って稼がなきゃという雰囲気のなかで、正直、私はあまり勉強していなかったんです。解剖学と生理学だけは最初の1年目にしっかりやって、それ以降は興味のある授業だけ聞いていたような学生でしたね。

もともとプログラマー志望だったこともあり、生体反応の仕組みとかはプログラミングみたいだと思ったんです。血圧が下がったら心拍数を上げなさい、血管を収縮させなさいとか、そういう処理が「プログラムと同じだな」と思って、理系的な考え方が身についていたので、そこはすんなり頭に入りやすかったですね。だから、ICUはバチッと合ったんだろうなって思います。医療機器への抵抗もなかったし、今でもYouTubeでは解剖生理ベースで、現場で必要なことを多く発信していますから。

「看護の手で患者さんが変わることを、毎日見ている人」尊敬する先輩との出会い

白石:
看護師になられてからは、最初からICUを希望されたんですか。

宮秋:
希望でした。当時って、『救命病棟24時』などのドラマやテレビの特番の影響もあって救急かっこいいなぁと思っていたんですが、冷静に考えると私は外傷や熱傷が苦手で見ていられない。怖くて。でも、かっこいい場所で働きたかったので、似たようなICUにいこうって決めたんです(笑)。幸いなことに、うちの大学病院では救急とは別系統だったので、外傷や熱傷があまり来ないICUに配属されました。それがジェネラルICU(GICU)ですね。

白石:
ジェネラルICUというと、院内の心外や脳外などの重症患者さんが多く入るイメージですか。

宮秋:
そうですね。院外の急患も来ますが、外傷や熱傷、オーバードーズは来ない。それ以外は新生児や小児も含めてほぼなんでも来るところです。

白石:
10年以上同じICUで働き続けているというのはすごいですね。部署異動や転職という選択肢はなかったんですか。

宮秋:
うちの病院は希望する領域で極めてもらう方針で、定期的な異動があまりないんです。看護部長が現場たたき上げの人だったので「何年ごとに異動」という考え方がなかったみたいですね。また、私自身も人見知りで人間関係を新たに作るのが苦手で、異動したいと思いませんでした。集中治療看護にはまだやり切れていないことが多く、「もういいや」となるタイミングがなかった。今でもまだまだやれることがあるなと思っているんです。集中治療には奥深さがあって、シンプルに楽しいんですよ。

白石:
それって新人のころからもそう感じられていたんでしょうか。ギャップや苦労はありませんでした?

宮秋:
いやぁ、1年目はきつかったです。当時は教育体制が古臭く、気合いと根性みたいなところがありました。私は学校でもノートをあまり作らず、必要なところだけメモするタイプでしたが、それが良しとされず、分厚いノートを作るのが勉強している証拠という風潮で、「勉強していない子」と思われていました。勉強内容自体はガイドラインがあってレールが敷かれていたのでよかったんですけど、勉強方法を揃えなければいけないのがつらかったです。メモを取っても見る習慣がなく忘れてしまうので、必要な分だけやっていましたね。

ベッドサイドにそれほど抵抗がなかったのは、初めて目にした看護師の働く現場がICUだったからかもしれません。当時の教育担当は認定看護師で、私の尊敬する先輩なんですが、しゃべりが下手で考え方に癖のある私の話をしっかり聞いて、汲み取り、見捨てずに最後まで丁寧に見てくれたことも大きかったです。その先輩のおかげで今があると思っています。

白石:
見捨てずにいてくれたっていうのは、たとえばどんな。

宮秋:
1年目のころは毎朝「今日1日なにをするか」というミーティングをしていましたが、その先輩は1日の終わりに「今日どうだった?」と看護の評価を聞いてくれました。「患者さんがどう変化したか」を受け止めてくれたんです。看護の手で患者さんが変わることを、毎日見ている人なんだと教えられました。

これが今の私の教育スタンスになっていて、そのとき「看護って面白い」と初めて思いました。知識がないと患者さんへのケアの選択肢が減ってしまう。知っていれば良くできたのに、知らなかったために介入できなかったことが悔しくて、そこで真面目に勉強する意味を見いだしました。知識確認だけでなく看護視点でフィードバックをくれる先輩に救われたと思います。

「そこであきらめちゃうくらいならその程度の想いしかない」試された覚悟

白石:
集中ケア認定看護師を目指したきっかけはその先輩の影響も大きいんですか。

宮秋:
そうです。1年目からその認定看護師の先輩に憧れていました。当時のICUには認定看護師や専門看護師が数人いて、スペシャリストのロールモデルがたくさんいました。「この人のここがいい、あの人のここがいい」と自分のなかで組み合わせながら、とくに教えてくれた先輩をモデルにしていました。

看護師5年の経験で認定看護師の条件を満たせますが、病院から「まだ早い」と止められたこともありました。そこで、職場の別の認定看護師の先輩に相談すると、「そこであきらめるくらいならその程度の想いしかない、それなら行かないほうがいい」と言われ、「いや、そんなことないです」と食い下がりましたね(笑)。その先輩は普段からおっかない人だったんですけど、部署を締めるためにあえて厳しい姿を見せていると聞き、それもひとつの役割だと気づきました。

それから、スペシャリストはやりたくなくてもやるべきこともあるし、マネジメント経験も必要だと気づき、3年ほど待ちました。看護師5年目くらいからリーダーを取り、教育チームリーダーとして新人や若手看護師を育て、病棟運営や組織的な考え方を学んでから、8年目に認定看護師の学校に行きましたね。

白石:
集中ケアの分野にしたのは、なにか理由があるんですか。

宮秋:
ICUなので集中ケア認定看護師が多いこともありますが、集中治療はなんでも屋さんで後々どこにでも行けると思いました。目の前の患者さんをなんとかしたい、そのなかで起こる出来事はすべて理解してより良くしたいという気持ちから、一点集中より幅広く知って細かい取りこぼしを拾うのが自分に合っていると思いました。

白石:
もともとは人見知りでコミュニケーションが苦手という話もありましたが、認定看護師として避けられない部分ですよね。

宮秋:
形から入るタイプなので、認定看護師のバッジをつけた時点で「もうやらなければいけない」と思ったんです。臨床に戻ってきたときに、「認定看護師の宮秋さん」という存在になる。「認定さんが言っていたから」という言葉が力を持つようになり、一挙手一投足が見られるようになりました。その覚悟から、病院の名札を変え、名前をひらがなで大きく書いて患者さんや家族が見やすくしました。これは自己紹介のためであり、なにかあったときに名指しされる戒めでもありました。

それから、認定看護師の実習で家族看護のケースレポートを書いたとき、人が苦手な私が家族と話さなければならないというプレッシャーのなかで、専門看護師さんのアドバイスを受けながら人と話すスキルやさまざまな理論を学び実践し、だいぶ話せるようになりました。今でも職場では「人見知り」とは信じてもらえませんが、家族との面談などは今でも気合いを入れて理論で武装し、準備してから臨んでいます(笑)。

Vtuberとしての活動、新しいかたちの情報発信

白石:
宮秋さんはVtuberとしても活動されていますけど、配信内容がマニアックなところ突いていますよね。一般的なVtuberだとゲームとか歌ってみたみたいなエンタメ系が多いと思うんですけど。

宮秋:
もともと認定看護師として原稿執筆の仕事を受けていましたが、年々減ってきたことや、依頼テーマ以外でも伝えていきたいと思い、YouTubeを始めました。本名を出すと病院や執筆の仕事に迷惑をかけるかもしれないので、バーチャルの姿で新しい活動として始めたんです。

白石:
秋宮さん(の中の人)が書かれたその書籍、ICUで働いたことがない私でも知っています(笑)。これは驚きです……!

宮秋:
ありがとうございます。おかげさまでけっこう売れました。その書籍は世に出てある程度普及したので、それ以外のところを自分で好きに発信していこうと思ったんです。リニューアルやブラッシュアップが必要な部分は自分で出せばいいやと。

あとは一般の方向けに集中治療室の看護の実際やACP、健康管理の話をしています。「高血圧や糖尿病がICUに来るきっかけになる」ことや終末期医療についてなど。また認定看護師を目指す人や中堅看護師向けにマニアックな情報も発信しています。若手向けコンテンツはすでに多いので、4~5年目の「なにを勉強していいかわからない」中堅層や認定看護師の卵たちに向けて、倫理調整や人工呼吸器設定・グラフィック解釈などのマニアックなコンテンツを発信したいと思っています。

白石:
ゆるふわなキャラからは想像つかない、中身ガッチガチのギャップが好きです(笑)。宮秋さんの発信は、マニアックななかでもやっぱり看護師向けとか看護について語られているものが多いのは特徴的ですよね。

宮秋:
医療機器の勉強会でも臨床工学技士さんは機器の構造や生体反応を説明しますが、最後に看護の話が入ってこないんです。私はYouTubeでも書籍や講演でも、看護が主眼で看護師目線であることを絶対に忘れません。コンテンツ作りで意識していることですね。

「看護師の役割が見えにくくなる」多職種のなかでの看護の専門性

宮秋:
集中治療ではさまざまな専門職がかかわるので、看護師の役割が見えにくくなることがあります。ICUの看護師は「ミニドクター」になりがちなんです。理学療法士がリハビリ、臨床工学技士が医療機器管理、医師が治療方針を決めるなかで「看護師はなにをする人?」という問いが生まれます。

白石:
とくにICUはいろんな職種が密にかかわるので、看護師の専門性って?と思いますね。

宮秋:
私は看護師としてなにができるのかを常に考えています。たとえば、リハビリで「ショック状態でも指先を動かすことはできる」といった細かなことに目を向け、患者さんの未来のために最善のケアを提供したいと思っています。さらに言えば、患者さんは単なる病気や症状ではなく、1人の人間としての人生や背景があります。

「心筋梗塞を起こしたAさん」ではなく、「大衆食堂の料理長だったAさん」というように、その人のキャラクター性を先に考えるようにしています。ICUでは「死ななくてよかった」「とりあえず自宅に退院」というゴールに設定されがちで、どうしたってそこまでしか到達できなくなっちゃうんですよ。やっぱりそこは欲張ってほしい。

患者さんが3カ月後どうなっていてほしいか、生きがいはなにか、どんな人生を送ってきたのかを考え続け、それに向けたケアを提供したい。飲食店の店長さんだった患者さんには「お客さんみんな待ってるね、また厨房に立ちたいよね」と声をかけると、頑張る気持ちが湧いてくる。そういった「その人らしさ」を大切にすることで、看護をより楽しめると思います。

白石:
患者さんも看護師も、なにを目的として頑張っているか見えないなかで頑張り続けるのはしんどいですよね。

宮秋:
スペシャリストになるほど一見してわからない小さなことばかりやっているんです。看護必要度では絶対に測れない世界です。人工呼吸器をつけている患者さんの離床で歩かせるなど、基本知識があれば正直誰でもできます。でも「ベッドアップ30°で血圧が40~50mmHg台まで下がるからリハビリできない」というケースでも、指先を動かすだけでショックになるのか、首や頭の向きや位置を少し変えることもできないのか。そういう小さなことでもできることはあるんです。ICUの1対2の看護体制だからこそできることがあります。

私は患者さんの手を握ることが好きなんです。とくに、夜間に不安になる患者さんや、せん妄になりそうな患者さんの手を握ると、落ち着いて眠れることが多いんです。これって薬を使いましょうってロジカルに考えることもできるんですけど、シンプルにICUって怖い環境でもあると思うんですよ。周りは真っ白な壁に囲まれ、白衣を着た見知らぬ人たちが覗き込んでくる。無影灯の下でベッドに寝かされている状態は、とても威圧感があります。そんななかで、少しでも安心感を与えられるように、手を握って、攻撃する意図がないことを伝える。そこに心を込めると、興奮している患者さんの表情がガラッと変わることがあります。イメージとしては、風の谷のナウシカに出てくるキツネリスのテトに噛まれるときのような、ね。「怖くない、怖くない」って。

あるとき、終末期の患者さんが「寝たら目が覚めないんじゃないか」と不安がっていて。そんなときに「そんなことはない」とは言えない状況で、ただ「そっか」と一言だけ言って手を握っていたことがありました。必要なケアはしつつも、答えを提供するのではなく、「なにもできないけど横にいるから安心して」ということだけを伝えようとしたんです。その患者さんは少しほっとしたように眠ることができました。看護師の手の温かさは、時に薬よりも強い力を持つことがあります。もちろん感染対策で手袋をつけることもありますが、人の手で触れることの力は大きいと感じています。看護の魔法はあると思っています。

「人生のクリティカルな局面にたまたま立ち会う存在」看護師の責任と覚悟

白石:
それでは、こちらに質問カードを用意しました。好きなものを選んでいただけますか。

宮秋:
真ん中あたりのこれでいいですか。

白石:
「もし過去・未来に行けるとしたらどうしますか」ですね。

宮秋:
え~過去については、高校生くらいのときに戻ってもいいかなと思うことはあります。高校デビューみたいな。でも、過去はすべて自分の糧だと思っているので、あのときのチョイスが間違っていたとか、後悔はあまりないですね。結果的に今の自分にまあまあ満足しています。

だから、行けるとしたら未来なのかなぁ。あ、看護の世界がどうなっているかは見てみたいですね。もう看護人生は折り返し地点に近づいてきているので、この先の看護教育や看護体制、日本人の健康観、病院にかかる考え方などがどう変わっていくのか興味があります。もしかしたらデストピアになっているかも(笑)。

AIの普及で奪われる職業って話はよくありますけど、看護師は残っていてほしいですよね。たとえば、ボトムラインをキープするための標準看護が、これさえやっておけばOKみたいな風潮もあって、それを懸念しています。標準化って本来、工業製品とかから流れてきた言葉だと思うんですけど、対象が誰ひとり同じではないなかで、患者さん1人ひとりの「らしさ」がなくなり、AIに取って代わられる仕事になってしまうんじゃないかと。

白石:
たしかに。それは20年、30年後くらいには起こりうるかもですね。

宮秋:
案外20~30年後には「昔は経験と勘で、手で患者さんに触れて、手をさすって大丈夫だよって言って落ち着いたものだけどね」とおばあちゃんになって昔話をしているかもしれません。でも、それはなんだか嫌なんです。今の標準看護を考えている人たちは個別性や看護師らしさを知っている人たちですが、標準看護で育ってきた人たちが10~15年後にどこまで個別性のあるユニークな看護をつくれるのか、ちょっとモヤモヤしていますよね。それに、個人的には看護師の基礎教育が短すぎる、ゴールが低すぎると思っていて、もっと臨床力を高める教育が必要じゃないかと思いますけどね。年々、基礎教育から臨床へのギャップが増えていると実感もあるので。

白石:
なるほど。未来のこと知りたいような、知りたくないような気持ちになりますね。 それでは最後の質問になります。「後輩の看護師に伝えたいことはなんですか」です。

宮秋:
患者さん1人ひとりの未来を守るために貪欲に頑張ってほしいです。集中治療の看護師は、患者さんの人生のクリティカルな局面にたまたま立ち会う存在です。長い人生の一部分でしかかかわれないけれど、そのときのかかわりで患者さんや家族の人生を変えることができる。その自覚を持ってほしいと思います。良くしたいという気持ちから、かかわりやケアをより良いものにすることに終わりはありません。これだけやっておけば完璧ということはないと思っています。寝ても覚めてもとは言いませんが、少なくともベッドサイドにいるときは一生懸命考え続けてほしいですね。

白石:
その自覚が持てなくなってしまっている要因……ってなんなんでしょうね。

宮秋:
若い看護師さんが業務に追われて、そこまで考える余裕がないのはわかります。でも患者さんから見れば、若いベテランに関係なく、横にいる人は同じ看護師なんです。そういう意識はいつか持ってほしい。忙しさというか、その原因はなにかと聞かれれば、やはり経験不足なんだと思います。経験を積むことで少しずつ余裕が生まれてくるので、あきらめずに続けることが大切ですね。

看護師の仕事に慣れるまでは大変かもしれませんが、その先には看護師らしさや、いわゆる「白衣の天使」のような存在になれるときが来ます。心にゆとりができた先に。とくに白衣の天使に憧れて看護師になった人は、理想とのギャップが大きくてドロップアウトしやすいですが、その気持ちを持って入ってきた人には看護師の素質があると思うので、下積み時代というか、その準備段階はまだ続いているということを伝えたいですね。

そして、最後に、SNSのネガティブキャンペーンには乗らないでほしいです。看護は本当に楽しいんです。だからこそ、私はいつも「看護は楽しい」ということをさまざまな場所で伝え続けていきたいと思っています。

白石:
いいですね……宮秋イズムをビシバシと感じました!本日は素敵なお話をありがとうございました!

インタビュアー・白石弓夏さんの著書



Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~

Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー


今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。

目次


◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏

発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
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