ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。

ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。



ゲスト:ゆうすけ
大学看護学部卒業後、同大学医学部附属病院の消化器外科・耳鼻科病棟で3年間勤務。その後、休職して修士課程を修了し、消化器内科で5年間勤務後、管理職に。2021年から2年間、厚生労働省医政局看護課看護サービス推進室に出向し、看護職員の資質向上や業務効率化などを担当。現在は大学医学部附属病院の全診療科含む混合病棟で管理職として勤務。肝炎医療コーディネーター資格あり。

インタビュアー:白石弓夏
小児科4年、整形外科・泌尿器科・内科系の混合病棟3年、その後、派遣で1年ほどクリニックや施設、ツアーナース、保育園などさまざまなフィールドで勤務。現在は整形外科病棟で非常勤をしながらライターとして活動して5年以上経つ。最近の楽しみは、仕事終わりのお酒と推しとまんが、それと美味しいごはんを食べること。

「なんとなく」の選択が重なって、気づけば看護の道へ

白石:
今回は、厚労省への出向経験をお持ちのゆうすけさんにお話を伺います。普段のインタビューでは臨床で働いている看護師さんが多いんですが、国の規模で働いている看護師さんの話をぜひ聞きたいと思っていました。まず、これまでのご経歴について教えてください。

ゆうすけ:
私は埼玉の県立高校(男子校)に通っていまして、全然看護とは接点のない暮らしをしていました。ただ、親の仕事の都合で県外に引っ越すことが決まっていて、それがきっかけで大学の看護学部を選んだんです。強い看護への動機があったわけではなく、なんとなく受験したというのが正直なところです。

白石:
いろいろな大学や学部がある中で、最終的な決め手となったものはなにかありますか。

ゆうすけ:
これも少し後ろ向きな理由なんですが、当時理系コースにいたものの、物理や化学が本当に苦手で、生物を選択していました。漠然と人とかかわる職業に就きたいという思いはあったんですが、文系と理系のちょうど狭間のような位置にいて。選択肢としては教育学部か医療保健福祉系に絞られてきました。ただ、教育学部は受験要項を見ると文系科目を2つ必要としていて、そこまでの講義を受けていなかったため、必然的に受けられるところが看護学部ぐらいしかなかったんです。

実験室にこもっているよりは、人と会話しながらなにかつくるほうが向いているなと思って。とりあえず飛び込んでみようという感覚で入学しました。その後も流れで附属の病院に就職し、診療科も希望なく、外科病棟と書いたらたまたま消化器外科と耳鼻科が入る病棟に配属になって、3年間病棟スタッフとして働いていました。

白石:
その3年間働かれた後、大学院に進学されたんですよね。そのきっかけは。

ゆうすけ:
本当にこれもなんとなくで、ふと大学院に行ってみようかなと思い立ちました。元々それほど看護師になりたいという強い動機がなかったからこそ、臨床だけでなく他のことも経験しておこうと思ったのかもしれません。どの分野にも応用が効きそうなところがいいなと考え、看護学研究科で修士課程を修了しました。同級生には、明確な動機を持っている人が多かったんですが、私はそこまで強い思いがなかったので、ある意味どこでも行けるというのが、こういう選択をしたきっかけだと思います。

白石:
大学院の2年間で、この業界でやっていってもいいかなと思えるような学びや経験はありましたか。

ゆうすけ:
いろいろありましたが、一番大きな出来事は、工学部との国際プロジェクトに参加する機会を得たことです。年間を通じたプロジェクトで、夏に1ヶ月半ほどスペインに行きました。大学の工学部建築学科がソーラー住宅を作る国際コンペに参加することになり、現地で早朝から深夜まで交代制勤務で家を建てるため、健康管理を担える人を出してほしいというオファーがあったんです。看護の大学院生は臨床経験があり、交代制勤務にも慣れていたため、私が行くことになりました。

工事現場で働き、熱中症の対応をしたり、他国の学生が怪我をして病院に付き添ったりして、看護師は本当になんでもできるなという経験をさせてもらいました。看護の本質というのか、健康という視点で人の生活を支援するということは、どんなシチュエーションでも、どんな状況でもできるとすごく実感しました。この業界でやっていくにしても、見識を広げておこうと思って進学した大学院で、看護の業界に入って一つ得たものを見つけた感じでしたね。看護以外のフィールドに、快く送り出してくれた指導教官には、本当に感謝しています。

消化器内科で出会った肝炎医療コーディネーターという資格

白石:
大学院修了後は、また病院に戻られたんですよね。

ゆうすけ:
2014年に戻るタイミングで部署異動となり、今度は消化器内科に異動して5年間働き、そのまま管理職に昇進しました。この頃、肝炎医療コーディネーターという資格も取得しています。厚生労働省が推進している公的資格で、肝がん・肝硬変への移行を減らすため、肝炎医療や支援を受けられるよう、様々な関係者間の橋渡しをする力が身につきます。

当時は厚労省が推進している資格とは知らなかったのですが、外来看護師に、たまたま「こういう資格があるよ」と教えてもらって取得しました。自治体にもよりますが、1~2日ほど研修を受ければ取得でき、都道府県知事が認定する公的な資格なので、履歴書にも記載できます。

白石:
実際にその資格が活きるタイミングは、たとえばどんなときですか。

ゆうすけ:
消化器の患者さんもそうですが、今混合病棟にいる中で実感するのは、肝炎のウイルスは消化器の患者さんだけが持っているわけではないということです。慢性疾患なので、ウイルスを持っている人はたくさんいます。持っていることを知らない人もいれば、たまたま入院して採血したらわかるという場合もあります。

実は肝炎ウイルスが見つかる患者さんで多いのが、整形外科の患者さん、眼科の患者さん、妊婦さんです。そもそも患者数が多いこともあり、整形外科や眼科では手術のために採血しますし、妊婦さんも必ず健診で採血します。このときに初めて自分がウイルスを持っていることを知る人が多いんです。ただ全く症状がないため、消化器内科を受診しようとは思いません。だから、そのときに整形外科や眼科、産科の看護師や助産師、あるいはそこの事務の人がこのコーディネーター資格を持っているだけで、将来の肝硬変・肝がん予防の可能性が変わってくるんです。各都道府県で養成をしているので、この記事を見ている方にもぜひ取得してもらいたいですね。 

突然の呼び出し、「厚労省に行ってみない?」

白石:
そうして消化器内科で働かれていた中で、ある日、厚労省への出向の話が来たんですね。

ゆうすけ:
本当に突然でした。病棟でカンファレンスをしていたら部長が突然入ってこられて、師長を通じて呼ばれたんです。なにか身に覚えのない、とんでもないインシデントを起こしたのではないかと思って、すごく嫌な汗をかいて部屋に行ったら、「ちょっと厚労省に行ってみない?」と言われました。驚きながらも、「じゃあ行きます」と答えて行くことになったという感じです。

白石:
本当に突然ですね(笑)。そのときのお気持ちはどうでしたか。

ゆうすけ:
不安半分、期待半分という感じでしたが、これを逃したらもう次はないだろうというのが一番強かったです。今断ったとして、また同じようなオファーがあるかというと、もうないだろうと思ったので、それが決め手だったと。また、そのときの自分の環境としては、消化器内科の病棟に7年いたため、もうさすがに異動のタイミングで、いつ異動してもおかしくないと思っていました。異動のようなイメージで、また戻ってくるという任期もちゃんとあったので、いいタイミングだったと思います。

新人研修から国会対応まで、あらゆることをやっていた2年間

白石:
実際に厚労省ではどんなお仕事をされていたのでしょうか。

ゆうすけ:
医政局の看護課看護サービス推進室で、大きく2つ、看護職員の全般的な資質向上と、良質かつ効率的な看護サービス提供の推進にかかわる仕事をしていました。1つめは、新人から管理職まで、全国にいるあらゆる看護職員の質をどう上げていくのか、新人教育をはじめ、生涯を通じてどのようなキャリア形成を育んでいくかといったことがらです。ちょうどコロナも流行していた時期だったので、コロナ対応もやりました。

大小あわせて数十の案件がありましたが、大きなものだとちょうど2023年に、人確法(看護師等の人材確保の促進に関する法律)の指針が30年ぶりぐらいに改正されたのですが、私はその改正にかかわり、資質の向上や業務の改善の部分を一緒に検討しました。また、これも厚労省に行って初めて知ったのですが、消費税10パーセントに上がった際、その増額分の一部は「地域医療介護総合確保基金」という、医療・介護に使われる予算となっていました。この予算は、各都道府県の研修や教育関係の設備導入などに使えるようになっているもので、私は基金がどのように活用されているのか調査をして、良い内容については、多くの都道府県で実施してもらえるように情報共有・発信をしていました。

また、2つめの良質かつ効率的なサービス提供の推進ということで、看護をどのように評価し、どうやって働きやすくするか。ちょうど働き方改革の真っただ中でもあったので、タスク・シフト/シェアなどについても取り組んでいました。一番有名なのは看護業務の好事例を集めて、全国周知や取り組みの支援をした事業ですね。ユニフォームの2色制って聞いたことありますか。夜勤と日勤のユニフォームを変えるもので、残業も減り働きやすくなったという事例です。他にも エコーを使った排泄の評価や、看護記録の音声入力など、生産性が高く、質も担保された看護サービスを集めて発信することで、全国の現場がマネしたくなる、よりよくなるような事業を行っていました。

そしてなによりも大切な仕事は、国会対応です。印象に残っているのは参議院の厚生労働委員会で、大臣・副大臣・政務官、その他の国会議員が並んでいる場に、陪席をしたことです。陪席とは、国会における議論において、資料等が必要になった際に即座に答弁者にわたせるように待機することなのですが、国の未来を形作る最前線を経験させていただきました。1年前は病棟でカンファレンスをやっている時間に、こんなところに座っているとは全く思っていませんでした(笑)。

白石:
国会対応では、具体的にはどんなことをされるんですか。

ゆうすけ:
大まかな業務としては、国民の代表である国会議員が議論する国会の場において、限られた時間で有意義な議論ができるように、事前に質問する内容が通告されます。場合によっては、質問の意図や問題意識などを確認することもあります。その後、通告内容等を踏まえ、回答案を作成し、答弁者と質問者の問題意識等を共有し、最終的な答弁内容を決定します。

三権分立というのがありますよね。厚労省は行政機関ですが、その行政を監督する立場にあるのが国会議員なんです。国会議員が「国はなにをしているのか」と質問したり意見を述べたりするときに答えるのが、大臣をはじめとする行政側です。

ただ、国会議員は国政全般を担っているため、個々の行政実務の細部まで把握することは難しい。そこで、行政の担当者が「今国としてはこういう施策を進めています」という内容を大臣に説明し、大臣がそれをもとに国会で答弁する仕組みになっています。

よく国会中継で答弁書を見ながら答えている場面を見かけますよね。あれは官僚が事前に「今国としてはこういう施策を取っているので、この質問に対してはこういう答弁になります」と状況を共有し、大臣が最終的な判断をして議論の場に臨んでいます。

国会議員は国民の代表として選ばれているので、国会対応が何より優先されます。ある意味、国民の声を代弁する場だからこそ、その対応が最も重要なんです。そして出向の一番の目的は、現場の声を政策に反映させることです。中央だけで考えるのではなく、日本全国で今リアルタイムで起きていることを把握し、それを還元していく。だから、どの省庁も最前線で働いている人たちの考えや意見、やり方を常に取り入れるということを大切にしています。

「国民のために」へ視点が変わり、いろいろな「目」を得て戻ってきた

白石:
臨床から国の規模の仕事になって、視点が大きく変わったと思うのですが。

ゆうすけ:
今までは自分の職場の看護職がどうとか、目の前の患者さんに対してどうするかということを考えていました。しかし、厚労省に行ってから「国民のためになにをしなければいけないか」「国全体が良くなるためにはどうしたらいいか」という視点に大きく変わったと思います。恥ずかしながら、増税した消費税の一部が、まさか自分たちのために使われているなんて思いもよりませんでしたので、少しでもよい医療を提供するために身が引き締まる思いでした。

国や世界の大きな動きがどうなっているかということもわかるようになりました。たとえば最近(※取材時)では、日本看護協会が2040年に向けてビジョンと看護提供のあり方を公開したり、ICN(国際看護師協会)が看護と看護師の定義を改訂したりしています。そういった情報は、臨床で働いているだけだと、おそらく知らないことが多いですよね。だけど、そういう情報を取り入れて、現場の看護師に「今こういうトレンドになっているから、あなたのやっていることはとても素晴らしいことで、時代を先取っているんだよ」という話を自分の言葉でできるというのは大きな強みだと思います。

白石:
なるほど。反対に2年間の出向から現場に戻られて、考え方の切り替えはどうでしたか。

ゆうすけ:
パワーアップして戻ってきたという表現のほうが正しいかもしれません。鳥の目、虫の目、魚の目というのがありますよね。今までは虫の目で、近いところしか見ていなかったのが、鳥の目のように俯瞰的に見ることもできるし、魚の目という流れ、今までこうなっているから次はこうなってくるというところがすごく見えるようになったと感じます。

特に全体のバランスを見るようになったというのはあるかもしれません。そのときその場所でベストなことでも、他のところにとってはすごくネガティブなことかもしれないので。全体のバランスを取って、ベストなことはなにかを考え、選ぶようにしています。

少し極端な話かもしれませんが、たとえば医療資源は限られているので、患者さんが「欲しい」と言ったからといって、全ての物品を提供することはできません。ある程度自己負担をしていただき、「この部分は医療で提供できますが、ここから先は自費で用意していただきたい」といった対応をします。それは個別の患者さんにだけそうすればいいということではなく、全体のバランスを見たときに、対応をどの看護職でもできるようにする必要があります。医療職に対しても、患者さん・家族に対しても、それを動かす組織に関しても、その視点を持って日々の現場に対応しているという感じです。

白石:
もし、看護師で厚労省の仕事に興味がある人がいたら、どうすればいいでしょうか。

ゆうすけ:
厚労省の人はフットワークがすごく軽いんですよ。とにかく現場の声を聞きたいというのがあるので、インターンシップもやっていますし、サイトにもいろいろな募集があります。そういうところはかなり柔軟に対応してくれるので、興味があれば踏み込んでみるのはすごくいいと思います。

また、日本看護管理学会で、毎年技官がインフォメーションエクスチェンジというブースを立てていて、厚労省の技官に話を聞いてみようという機会があります。毎年8月に開催されていて、2026年は東京の国際フォーラムであるので、そういう場で直接話を聞いてみるのもおすすめです。

看護師の課題「看護に囚われすぎている」

白石:
今こうしてお話を伺ってきて、当時現場で見えていなかったけれど、今の立場になって見えるようになった看護師の課題のようなものはなにかありますか。

ゆうすけ:
一番は、看護に囚われすぎているということでしょうか。看護のことだけ突き詰めていればいいという考えです。もちろん専門職である以上、エキスパートとして突き詰めてやるべきだとは思います。なにかを選択することはなにかを捨てることでもあり、それが専門職たる所以だと思うんです。ただ、それにあまりはまりすぎると、周りが見えなくなってしまう。看護の仕事は看護だけで成り立っているものではないので、やはり周囲の業界や世界ときちんと交流しなければいけませんし、そういったところとの意見交換もやはり必要だと思います。

私が普段気になっているのが、「看護師さんはなにをやっている人ですか」と聞かれたときに、「看護です」という人がとても多いことです。でも、それは説明になっていないと思うんです。薬剤師さんは薬のことを、栄養士さんは食事や栄養バランスのことを、医師は診断と治療ですよね。では看護師はなにをやっているか、私は「生活支援」という言葉で言い換えていて、看護師は「どんな時でも、どんな場所でも、どんな環境でも、生活支援をできる人」だと説明しています。

他の業界の人にもきちんと説明できるようにしないといけないと思うので、自分たちの世界だけでやっていると、ジリ貧になってしまうのではないかと思っています。大学院時代、建築の現場で働いた経験や、国会議員をはじめ全く業界の違う方、事務の方などと看護の話をする中で得た考え方だと思います。

こだわりがないのがこだわり、相手を受け止める力

白石:
それではこちらから質問のカードを選んでいただけますか。

ゆうすけ:
右から6番目にします。

白石:
「なんでもいいので、あなたのこだわりを教えてください」ですね。

ゆうすけ:
難しいですね。今日はこだわりがないという話ばかりしていたので。でも、こだわりがないのがこだわりでもありますよね。

白石:
それはご自身でも思われることですか。

ゆうすけ:
自分でもそう思いますし、職場の人に「受け止め力がすごい」と言われたことがあります。基本的に私は、誰かがいろいろな相談や話をしてくれたときに、まず否定せずに相手の主張や考えを聞くということをしています。特別心がけていたわけではないんですが、そういうことがけっこう多くて、それってすごいねと職場の人に言われて、そうなのかなと。より意識するようになったのは管理職になってからだと思います。ただ、確実に厚労省での経験は影響していると思います。

白石:
厚労省での経験というと、具体的にはどんなことが影響していると思いますか。

ゆうすけ:
たとえば「問取り」という業務があります。議員やその秘書などから、「こういうことを聞きたい」という連絡が来るのですが、そのときにその意図や趣旨を聞きに行く業務です。文面だけではニュアンスがわからないので、実際に出向いて、なにが一番の問題意識なのか、なにを意図しているのかをきちんと確認する作業があるんです。

また、私は看護技官として来ていましたが、それ以外は全く看護師や医療職ではない人たちですよね。その人たちと話をするときに、同じ言葉でも認識しているイメージが全く違うので、これはこういうイメージで、この表現だったらこれで合っていますよねということをすごくすり合わせたり調整したりしていました。

だから現場でいろいろな人から話しかけられたときに、まずは否定せずに、その人の言いたいことをきちんと確認する。つまりこういうことですか、ここに書いてある文章はこういうことですか、ということを常にやっていて、それが結果的に、話をきちんと聞いてくれる人、受け止めてくれる人という評価になったのかなと思います。

白石:
相手のニーズを探るということですね。でも、それは日頃患者さんに対してもしていることで、訴えがあってもどういう背景でそういう訴えに至ったのかをやり取りすることと、とても近いように感じます。

ゆうすけ:
そうですね。だからそういう意味では、行政だから、技官だから、看護師だからということではなく、人として基本的なことだとも思います。看護という枠組みだけを使って対応するのではなく、どんな業界でも基本的に必要とされる対応を、医療業界でできるのは自分の強みかなと思います。

目の前のきっかけに興味を持つ、片足をホームに置いて世界に踏み出す

白石:
それではみなさんに共通して聞いている最後の質問です。「あなたが後輩の看護師に伝えたいことはなんですか」

ゆうすけ:
チャレンジという言葉はあまり使いたくないんですが、「気になったら少しだけ飛び込んでみたり、少しだけ経験してみたりするといいよ」と言いたいですね。自分でハードルを上げてなにか新しいことに挑戦するというのは、おそらく誰しもできることではないと思っているんです。それよりも、たまたま環境があって自分が触れたものに、少しだけ一歩踏み出すぐらいのほうが私はいいなと思っていて、自分もそういう風に過ごしてきました。

なんの前触れもないところからいきなり看護技官になろう、大学病院に勤めよう、外科に行こうなんて人はそうそういないし、そういう風に思える人は、すでに自分のキャリアを切り開いていると思うんです。でも、多くの人はおそらくそんなことは思っていなくて、たまたまそこで触れたものの中で生活していて、そこで少し触れたものに影響されながら過ごしているのだろうと思います。自分の目の前に来たものに少し興味を持ってみるとか、本当にそういうレベルですね。試食だと思って食べてみるくらいの気持ちでよいと思います。

そういえばこの前、4~5年目の看護師と面談したときに、彼女が「私これあまり興味ないです」と言われたことがありました。少し申し訳なさそうにしてたので、私はその発言を肯定的にフォローしたんですが、自分が興味のないことを知るというのはとても大事だなと思うんです。常に興味のあるものだけを選んでいくのではなく、除外診断のようなイメージですよね。これとこれとこれは興味がないからと、残ったもので選んでみるというのもいいんじゃないかと思っています。

白石:
やりたいことよりも、やりたくないことを知るほうがわかりやすいかもしれませんね。

ゆうすけ:
今はいろいろな情報もありますし、選択肢が多すぎて決められないという人がたくさんいるだろうと思います。逆に言うと、興味のないことをどんどんたくさん選んでいけば、必然的に残ったものが少し興味のあることなのではないかと思うんです。人生において、やりたいことが見つかる人は、おそらくそうそういないと思うんですよ。「悪くはないかな」ぐらいですかね。そのぐらいでいたほうが、看護職や看護業界の道を長く過ごせるのではないかと思っています。

白石:
若手の看護師さんとそういう話をされるんですね。

ゆうすけ:
よく職場の2年目から5年目ぐらいの人たちには、片足をホームに置いて、もう片足で他の世界に踏み出してみるといいよという話をしています。自分自身のキャリアもそういう感じだったので。大学院進学したときも休職で行ったため、戻れる保証があり、片足を自分のホームに置いた状態で行きました。今回の出向もそうです。

今いる環境でできることは実はたくさんあって、見えていないだけなんです。「やりたいことがわからない」と言われたら、院内にこういう研修がたくさんあるので、今いる環境で受けてみたらどうかと伝えます。今いる場所でしかこういう研修を受けられないし、他の病院に転職したら自分でお金を払って行かなければいけませんから。今いるうちにいろいろ試してみたらと話しています。その研修で「私これ興味ないな」となったら、それはそれで収穫で、無料で自分の向き不向きがわかるので、そういう話をしています。

白石:
いいですね。ゆうすけさんご自身は、今後こういう世界に足を踏み入れたいとか、興味を持っていることはありますか。

ゆうすけ:
ありますね。具体的にというよりは、看護×〇〇というのはおそらく無限にあると思っています。たとえばメディカ出版さんは、看護×出版、看護×広報のような世界ですよね。看護×工学は本当に今注目されていますし、DXもそうです。看護×金融、看護×農業、看護×漁業などもあると思います。そういう可能性をいろいろ模索したいですね。

生活支援がベースにあるからこそ、人の生活にかかわることであれば看護はなんでもできるだろうと思っています。今回のナース100人のストーリー企画もいろいろ拝見しましたが、介護関連のピクトグラムで起業されている方もいらっしゃいましたよね。素敵な企画です。白石さんのようなキャリアや、いろいろなキャリアがあるんだということに触れる機会は、本当に大きいだろうと思います。今日はありがとうございました。

白石:
ありがとうございます。この企画を通して、いろんな看護師のキャリアに少し触れられる疑似体験ができればと思っています。今日は本当に初めて聞くお話ばかりでした。貴重なお時間をありがとうございました!

インタビュアー・白石弓夏さんの著書



Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~

Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー


今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。

目次


◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏

発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
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