高まる巨大地震への不安と患者協働
2021年は、例年になく日本列島の揺れが頻発しました。10月7日夜に発生した千葉県北西部を震源とした地震により、関東地方の広い範囲で震度5弱から5強が観測されました。12月には富士五湖を震源とする最大震度5弱、そしてその3時間後には、和歌山県紀伊水道を震源とした最大震度5弱の揺れがありました。頻発するこのような地震は、南海トラフ巨大地震の到来を連想させるのに十分であり、偶然にも10月から12 月にかけて放映されたテレビドラマ『日本沈没―希望のひと―』(TBS テレビ)は、さらに緊張感を高める役割を果たしたのではないかと思えます。このドラマは国や省庁、科学者がそれぞれの立場で葛藤し、沈没する列島から国民の命を救うというストーリーですが、国民一人ひとりの生活者目線で描かれる場面が少ない分、他人事のように思った人は少なくないのではないかと考えます。
医療施設における災害対策は、診療の継続と早期復旧を目指して策定されます。しかし、透析医療においては施設側の対策のみならず、決められた曜日と時間で通院しなければならない透析患者の視点から対策を講じ、災害対策マニュアルに記載することが必須です。そのためには、患者自身が他人事ではない「自分事」として強く認識できるよう透析医療従事者が指導しなくてはなりません。すでに多くの透析施設において災害対策マニュアルが整備されていますが、患者が自分事として積極的に協力するよう災害に対する患者教育プログラムを災害対策マニュアルに組み込む必要があります。このような教育は、災害への意識が高まっているいまがチャンスといえます。
患者の災害意識を理解する
筆者が勤務する神奈川工科大学地域連携災害ケア研究センターでは、昨年(2021年)8月に「シンポジウム:コロナ禍における災害対策~要配慮者に対するケアを中心に~」とした市民公開講座を開催しました。演者の一人である元大学教授の透析患者からは、「大災害が発生した際に必要な患者移送に伴う透析体制は、事前のシミュレーションとともに国、透析医療関連団体、全国腎臓病協議会などの連携による事前型の対応措置を制度化する必要がある」と主張されました。さらに、「当事者は待てない!」と迅速な対応を強く求められました(図1)1)。
患者の立場からすれば、大きな不安によって「遅い対策では待っていられない」というのが本音であり、災害対策を主導する側は患者の意思をくみ取り、策定を急がなければなりません。
患者協働に必須の患者情報
透析患者の多くは、在宅で生活していることから災害時におけるインフラ停止による透析不可能な状況、通院のための交通機能停止になると、生命に直結した危機が発生します。そこで患者の安全を確保するためには、災害時における透析施設や患者の被災状況を迅速に共有し、医療者側が適切な指示を出すことで患者みずからが行動できるように事前の準備が必要です。
災害時においては、他院での透析を余儀なくされる場合を想定し、あらかじめ患者自身の情報を「患者情報カード」(図 2)2) に書き込んで携帯することが勧められます。この場合、記載された情報を最新の情報にアップデートしておくことが必要であり、毎回の透析終了時に更新すべき項目がないかどうかについて、スタッフが確認することをルールにしておくことが有用と思われます。患者情報カードに盛り込む内容では、氏名、年齢、住所、本人連絡先(電話番号)、本人以外の緊急連絡先と間柄、血液型、アレルギー物質、ドライウエイト、最大許容除水量などを必須とします。
なお、参考情報として、「埼玉県透析患者防災の手引:災害が起きた場合の3ステップ」(https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/173930/tousekikannja.pdf)では、非常時の連絡方法や災害用伝言板の使い方なども紹介されているので、ぜひ参照してください。
【引用・参考文献】
1) 神奈川工科大学地域連携災害ケア研究センター.シンポジウム「コロナ禍における災害対策:要配慮者に対するケアを中心に」報告書,(https://kait-ccd.jp/wp-content/uploads/2021/10/2021-8-4symposium.pdf,2022 年2月閲覧).
2) 東京都福祉保健局.災害時透析患者カード,(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/saigai_touseki.files/saigai_touseki-card0108.pdf,2022 年2月閲覧).
神奈川工科大学 健康医療科学部臨床工学科教授/地域連携災害ケア研究センター長
神奈川工科大学 健康医療科学部臨床工学科/地域連携災害ケア研究センター
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