災害に備える意識を高める
災害サイクルには「その発生を起点に緊急対応、復旧・復興し、災害に備えるという一連の流れ」1)があります。
災害に備える準備期では、過去の災害訓練を活かし、災害によるインパクトを減らすことを目的として、災害対策マニュアルの策定や災害シミュレーション、防災訓練を実施します2)。この準備期に透析室看護師は、医師や臨床工学技士、関係機関・職種とともに、災害時を想定した訓練や準備をします。その際は患者を主体として、定期的に行うことが大切です。
当院は地区唯一の災害拠点病院であり、毎年防災訓練を行っています。また、この時期を目安に、人工透析室の災害対策マニュアル(患者用)の見直しや災害に備えた患者指導、災害訓練の計画などを立て、実践しています。
ベッドサイド訓練と患者指導
透析療法中に地震が発生した場合、患者は自分自身の身を守る行動が必要になります。揺れが収まるまでは穿刺針が抜けないように血液回路をしっかりと握りながら、ベッド柵につかまり、振り落とされないようにします。また、落下物でけがをしないように、頭から布団をかぶります。
ベッドサイド訓練では、患者にこれらの一連の流れを説明したあと、実際に実践してもらいます。できなかった場合は、実践できるようになるまでくり返し指導します。災害対策強化週間を数週間ほど設けて、日を変えて最低3回程度は取り組むとよいでしょう。実践状態を評価し、実践することがむずかしい患者の場合は、スタッフ側で対策を検討します。
また、災害時の緊急離脱では、離脱に必要な物品が手元にあることが重要です。「人は忘れる」「ふだんできないことはできない」という経験則の視点も踏まえ、日常の1コマに防災対策を組み込む3)必要があります。
当院は緊急離脱手段として抜針法を取り入れていますが、抜針後に使用する止血ベルトとタオルは、毎回かならず持参するよう説明し、適宜チェックと声かけを行います。ベッドサイド訓練の実施をとおして、スタッフと患者の防災意識を高める機会にもなっています。透析用監視装置のキャスターロック解除、ベッドのキャスターロック、血液回路の状態、履き物の位置など、ベッドサイドの環境状態についても確認するよう努めています。
DVD視聴で災害のイメージ化を図る
災害に備える心構えでもっとも大事なのは、「災害は起こるものである」という認識をもつことです。災害について知ろうとすることが、減災を可能にする2)といわれていますが、患者指導では、災害時には施設や住居がどのような状況になるのか、過去の写真や体験談を聞き「災害のイメージ化」が図れる取り組みが必要です。
当院では、災害をイメージしてもらう目的から、災害訓練の一つにDVD視聴を取り入れています。放映日時を患者に案内し、透析中に各ベッドで視聴してもらい、スタッフは閲覧状況を見守ります。新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019;COVID—19)が流行する前は、待合室で放映することもあり、患者同士が防災や災害について話す機会をもつことができていました。コロナ禍の現在では、そのような機会をもつことはむずかしいですが、感染対策をしながら、災害に備える意識を高める機会を積極的につくっていくことが大切だと思います。
患者参加の災害訓練の実施
災害時を想定した訓練では、条件を設定し、課題を見つけて解決法を探るなど、つねに緊張感をもたせて実施する工夫が大切である2)ことが示されています。また、困難な状況を体験しておくことにより実際に現場で活かされ、スムーズに避難することができた2)という報告もあります。避難時の命令・指揮系統および各職種の担う役割について、患者にも具体的に説明しておき、スタッフに従い行動できるよう備えておく必要があると考えます。
当院では、「透析療法中に直下型地震が発生」などと想定し、医師、臨床工学技士、看護師、看護補助者、患者の合同参加による災害訓練を年1回実施しています(図1)。訓練時には、病院長や看護管理者、災害看護専門看護師など、他部署の医療者を招くことで、ほどよい緊張感のなか、訓練に臨むことができています。患者は自分自身の身を守る行動、すなわちベッドサイド訓練で指導した「血液回路を握る、布団をかぶる、ベッド柵につかまる」を実践します。

緊急離脱後は、「自立した患者から避難し、搬送患者を最後に避難させる」4)を実際に行います。避難誘導では、各患者がスタッフに従い行動できているかをチェックしています。訓練後のアンケートでは、患者から「自分のすべきことがわかった」「避難する流れがわかった」「本格的に行うといろいろな不安が出てきた」という声が聞かれました。災害訓練の評価から、さらなる災害の備えにつなげるよう努めていきたいと思っています。
災害対策マニュアル(患者用)の見直し
災害対策マニュアルは、災害の備えとして患者が平時に何をしておくのか、また、災害が発生した際に被害を最小限にするための行動指針などを記載しています。そのため、実際にマニュアルに即して行動・活用することができるよう、理解しやすく、知識として身につけられる内容を目指して作成する必要があります。また、患者に知りたいことを聞き取り、患者のニーズを取り入れることが必要だと考えています。
患者や患者家族には、災害対策マニュアルを渡したときにひととおり説明をしていますが、災害に備える意識をもってもらうには、指導を継続することが重要です。自宅で被災した場合には、連絡が困難になることが想定されるため、どう行動するのかをマニュアルを通じて共有します。また、患者指導内容に関するチェック表(表、図2)を用いて、患者の理解を確認していきます。患者の理解度の状況から、マニュアルや指導に対する評価を行い、改善点を明らかにすることも必要だと思います。当院では現在、COVID—19流行に伴い、感染対策を含めた災害対策マニュアルの改訂に取り組んでいます。


column ~患者の通院方法についても確認しておくことが大切~
毎年、気象庁の寒候期予報が発表されると、透析室フロアでも、大雪、積雪への不安、愚痴、豪雪の体験談などの会話が多くなります。私は長年透析室に従事していることもあり、患者から「雪がひどいので、透析を休もうと思います」「バスが雪で運休になった」「なかなかタクシーが来ない」といった内容の電話を受け、その対応に四苦八苦したことを思い出します。
当院では大雪警報が発令されると、公共交通機関で通院している患者や独居の高齢患者に対し、レスパイト入院の体制を取ります。あらかじめ患者の希望を確認し、状況によっては入院を促す声かけを行います。
このような通院に関する困りごとの対応は、冬季の積雪だけに限りません。遠方からバス通院をしていたAさんは、独居で周りに家族や親戚もいませんでした。なんと、ある治療日の当日の朝に「バスが運休やったわ」と連絡があったのです。最終的には、たまたま当院方面に出向く用事があった近所の方がおられ、親切にも送ってもらえ、無事に透析を受けることができました。
透析患者の通院手段の確認や、通院に対する支援は、重要かつ継続課題だと思います。自己運転で通院している患者には、運転ができない場合、できなくなった場合にはどうすればよいのか、公共交通機関を利用し通院している患者には、利用ができない場合、できなくなった場合にはどうすればよいのか、災害時も含めた想定を提示し、前もって準備していく必要があると考えています。
【引用・参考文献】
1) 小原真理子ほか監修.“災害と災害看護に関する基礎知識”.災害看護:心得ておきたい基本的な知識.改訂2版.東京,南山堂,2012,29—31.
2) 小原真理子ほか監修.“災害に備えた病院防災”.前掲書1).224—40.
3) 小原真理子ほか監修.“災害サイクル別の看護活動”.災害看護:心得ておきたい基本的な知識.改訂3 版.東京,南山堂,2019,156.
4) 小原真理子ほか監修.“災害サイクル別の看護活動”.前掲書3).182—3.
5) 磯見知恵.“腎機能に障害がある患者への支援と看護”.ナーシング・グラフィカ 看護の統合と実践③:災害看護.第5 版.酒井明子ほか編.大阪,メディカ出版,2022,204—5.
6) 川口淳.“教育・啓発活動(人的マネジメント)”.前掲書5).250—1.
7) 酒井明子ほか編.“対象別にみた災害看護の実践”.災害看護:看護の専門知識を統合して実践につなげる.改訂第3版.東京,南江堂,2018,299—303.
8) 相澤裕.“災害対策”.「セルフケアができる!」を支える 透析室の患者指導ポイントブック:明日から活かせるアイデアが満載!透析ケア2014 年冬季増刊.岡山ミサ子ほか編.大阪,メディカ出版,2014,213—6.
公益社団法人地域医療振興協会公立丹南病院 人工透析室 主任看護師/透析看護認定看護師
「透析ケア」2022年29巻4号より再掲
▶最新号の特集・目次はこちら
患者説明や新人指導、個人学習に使える特集テーマが大充実!
透析室で行う「食事指導」や「運動療法」、透析患者の「病態生理」や「セルフケア」など、すぐに知っておきたい内容を毎号お届け。最新トピックスやガイドラインに関する最新情報もいち早くキャッチし、ベテランナースの知識欲にも応えます。
ダウンロード可能な患者説明シートやWEB動画など、臨床現場ですぐに使えるツールも満載! 院内の勉強会資料としても活用できるため資料作成の手間を省き、透析室での業務に集中できます。
スタッフの技術・知識が向上・変化することで、患者指導の質が向上し、患者・スタッフ双方が安心して透析を行い、良好な関係を保ちながら、透析室スタッフとして長期にわたり活躍できます。