はじめに

災害発生時には、自分自身の安全を確保したうえで助け合う、「自助」「共助」「公助」という考え方が重要です(1)

透析医療機関での災害発生時には、医療者は自分自身の安全を確保したうえで、患者への対応を開始します。そのため、患者も発災直後は、自分自身の身の安全確保を最重要項目として動く必要があります。

内閣府の防災白書によると、「阪神・淡路大震災では、家族も含む『自助』や近隣住民等の『共助』により約8割が救出されており、『公助』である救助隊による救出は約2割程度に過ぎなかった」2)という調査結果があります。

平時とは違い、災害発生時は、医療者が患者に対してできる支援には限りがあります。災害発生時に患者自身の自助努力が発揮できるよう、透析医療スタッフは日ごろから災害時に備えた患者指導を行うことが重要です。

患者指導(自助)

1. 血液透析患者が 透析療法中に発災した場合
血液透析(hemodialysis;HD)中の災害では、発災直後の対応や避難について、患者自身が落ち着いて行動できることが重要です。平時から地震発生時は、①HD回路をつかんで抜針を予防する、②落下物から身を守るために頭から布団をかぶる、③ベッド柵をつかんで転落を予防する、④避難経路を確認する、など患者がみずからを守るための行動について指導をします。

2. 血液透析患者が 非透析日に発災した場合
非透析日に被災した際は、患者や家族がみずから通院している透析医療機関へ連絡ができるように、平時から「災害用伝言ダイヤル(171)」を使用した訓練を行うことが大切です。また、自宅や職場から近い一時避難所や広域避難所を確認しておくことも必要です。
避難所や医療救護所では、医療者に「透析患者であること」をかならず伝えるように指導します。その際、自身の透析条件を伝える、もしくは、透析条件が記載されたカードを提示できるように併せて指導します。避難する際は、お薬手帳、透析条件カード、内服薬、インスリン製剤などを3日分程度は携帯する指導も必要です。

3.腹膜透析患者の場合
災害時に腹膜透析(peritoneal dialysis;PD)が継続できるように、内服薬やPD液、交換キット類などを災害用として常備しておくように指導します。災害発生時は、バッグ交換機が停電によって使用できなくなることを想定し、日ごろから充電をしておくように指導します。
また避難所では、管理者に電源の使用について相談することを説明しておきます。自動腹膜透析(automated peritoneal dialysis;APD)の場合、避難所ではAPDができないことが想定されます。そのため、ツインバッグを用いた連続携行式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis;CAPD)の方法を平時より指導しておくことも大切です。また、PDカテーテルや回路などが破損した際の対応方法や、緊急離脱の方法についても指導します。

災害発生時における 患者-医療者間の情報共有

東京都では、大規模災害などの発生時における透析医療を確保するため、「災害時における透析医療活動マニュアル」を作成しています3)。 マニュアルには、災害発生時に、医療者→患者、患者→医療者が連絡を取り合うべき内容が記されています。各自対応できるよう日ごろからはたらきかけていくことが重要です。

1.透析医療機関の対応3)
透析医療機関は、災害発生時に、透析療法の可否などについて、自施設の透析患者・家族に連絡します。透析療法が可能な場合、透析療法の実施日時や場所などについて患者に連絡します。透析療法が不可能な場合には、個々の医療機関との協力協定や災害時透析医療ネットワークなどからの情報に基づき、受入先医療機関を患者に紹介し、受診方法などを指示します。

2.透析患者の対応3)
透析患者は、できる限り通院している透析医療機関に自身の状況を報告し、必要な情報を得ます。 通院先の透析医療機関が透析不可能な場合は、受入先透析医療機関や受診方法などの指示を受けます。通院先の透析医療機関と連絡がとれない場合には、「災害用伝言ダイヤル(117)」を利用します。

3.患者情報の定期的な確認
透析医療機関では、災害発生時に自施設の透析患者や家族に連絡をする場合に備えて、患者の緊急連絡先をまとめてファイリングしておき、緊急連絡先の変更がないかなど、定期的に患者や家族へ再確認することが重要です。

column ~「災害時透析患者カード」の活用~

「災害時透析患者カード」は、ふだん通院している透析医療機関でのHDが災害によって受けられなくなった場合に、ほかの透析医療機関でHDを実施するために必要な患者情報をまとめたカードです。
ふだんの透析で使用している薬品や、医療器材などの記載も含まれることが多いです。実際に災害が発生した際は、限られた薬品、医療器材でHDを行うことになるため、ふだんどおりのHDが行えなくなることについて、日ごろから患者に説明しておくことが重要です。
近年では、地震以外にも大雨や洪水などによる水害など、さまざまな災害が起こっており、災害対策として「災害時透析患者カード」を作成し、患者へ渡している透析医療機関も多いと思います。しかし、作成した時点から情報が更新されず、実際の災害発生時には情報が活用できなかったという報告も多くあります。各透析医療機関では、情報の更新を習慣化できるような体制づくりの確立も必要だと考えます。
ほかにも、家庭での血圧や体重、排便、尿量などを日常的に記載する「透析患者手帳」などがあれば、そのような手帳も併せて日ごろから携行する習慣をつけることで、災害時の患者情報の充実につながると考えます。

【引用・参考文献】
1) 総務省消防庁.「自助」「共助」「公助」:東日本大震災.防災・危機管理eカレッジ.(https://www.fdma.go.jp/relocation/e-college/cat63/cat39/cat22/4.html,2023年2月閲覧)
2) 内閣府.国民の防災意識の向上:我が国の災害対策の取組の状況等.令和3年版 防災白書.(https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r03/honbun/index.html,2025年2月閲覧)
3) 東京都福祉保健局.災害時における透析医療活動マニュアル(令和3年5月改訂版).(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kenkou/kenkou/saigai_touseki,2025年2月閲覧)


▼PDFをダウンロードして見る




吉盛友子・今井早良・上田聰美・高梨未央・松岡由美子
東京都災害時透析看護の会

「透析ケア」2022年29巻5号より再掲

透析と移植の医療・看護専門誌

『透析ケア』
▶最新号の特集・目次はこちら
患者説明や新人指導、個人学習に使える特集テーマが大充実!
透析室で行う「食事指導」や「運動療法」、透析患者の「病態生理」や「セルフケア」など、すぐに知っておきたい内容を毎号お届け。最新トピックスやガイドラインに関する最新情報もいち早くキャッチし、ベテランナースの知識欲にも応えます。
ダウンロード可能な患者説明シートやWEB動画など、臨床現場ですぐに使えるツールも満載! 院内の勉強会資料としても活用できるため資料作成の手間を省き、透析室での業務に集中できます。
スタッフの技術・知識が向上・変化することで、患者指導の質が向上し、患者・スタッフ双方が安心して透析を行い、良好な関係を保ちながら、透析室スタッフとして長期にわたり活躍できます。

▼透析室スタッフにオススメのその他の書籍はこちらから