透析患者の情報共有
透析療法は、ほかの多くの疾患と異なり、服薬治療や注射のみで完結する治療ではありません。このため、平時から災害が起こったときに透析療法をどのように受けるかなど、災害時の対策を共有しておく必要があります。さらに、有事の際にも、透析療法の可否や、患者・治療情報を共有できるようにすることが求められます。
血液透析(hemodialysis;HD)
平時からの対策■ 施設との情報共有の手段
災害時には、電話がつながりにくくなるなど、情報伝達手段が限られる可能性があります。このため、ふだんから患者と透析施設とのあいだで連絡がとれる方法を共有しておく必要があります。伝言ダイヤルも有効な連絡手段となりますが、一つの連絡手段が利用不可能な場合に備え、複数の連絡手段をもっておくことが大切です。
■ 治療情報の共有
災害時にほかの施設で治療を行う場合だけではなく、自施設で透析を行う場合にも、電子カルテが利用できなくなることを想定し、患者情報・治療情報をまとめておくことが重要です。詳細な治療条件も重要ではありますが、災害時には物資・薬品の不足などで必ずしも同じ治療が受けられるとは限りません。しかし、透析療法を安全に行うために、最低限必要なこと(表)は、かならず患者自身にも理解してもらうこと、あるいは医療者から確認されたときに示せるようなカードを持っておくことも必要です。

患者にも、災害時には、平時と異なる治療条件になる可能性があること(時間、ダイアライザ、抗凝固薬の投与量など)を理解してもらう必要があります。
透析中に災害が発生した場合には、帰宅までのあいだに、次の透析をどうするかの情報提供をすることが大切です。災害時は、いったん離院してしまうと情報伝達が困難となる可能性があるからです。
透析を行っていないときに災害が発生した場合には、透析が可能か、可能ではない場合にはどのような対応をとればよいかを知らせる必要があります。ふだんから、連絡手段とその使い方を患者と共有し、訓練を定期的に行うことが重要です。
腹膜透析(peritoneal dialysis;PD)
PDを受けている人の場合には、自宅・避難所が治療場所となります。このため、「自宅で治療が受けられるのかどうか」が重要です。とくに、透析液や医療器具・機材の在庫がどの程度あるのか、水・電気といったインフラの確保が可能なのか、安全に治療を行うスペースが確保できるかが重要です。
自宅で透析ができるかどうかといった情報を、通院先の医療機関やPDのメーカーと共有します。また、PDのメーカーとは、透析液や医療機材の在庫がどの程度あるのか、また不足する場合にはどのように各患者の自宅に配送するかを情報共有する必要があります。
一方、自宅が被災して、避難所に避難する必要がある場合には、透析を行う場所の確保、資材を保管する場所の確保が重要です。HDと同様に、避難所では、まずは管理者に自身がPDを行っていることを伝える必要があります。また、PDのメーカーに、避難所の場所を伝えておきます。実際の配送にあたっては、避難所の管理者と相談する必要があります。
東京女子医科大学 血液浄化療法科 准教授
「透析ケア」2022年29巻6号より再掲
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