はじめに
近年、日本ではさまざまな災害が発生しており、そのなかでも医療者や多くの方々のご尽力により、私たち透析患者は命を支えていただいています。当地広島県でも、近年2回の豪雨災害に見舞われました。
本稿では、被災された方々から直接話を聞くなどしてまとめた、「透析患者が災害対策として準備しておくべきもの」と、医療者の方々に「患者の考えかたとして知っておいてほしいこと」を紹介します。
災害対策:情報の準備
現在、各地の市町村では、ハザードマップの更新が行われています。なかには、1年に1回程度を目安に、患者本人や家族の災害対策としてハザードマップの確認をよびかけるとともに、被災時の避難所の場所もしくは避難する親類縁者の連絡先を透析施設側に申告してもらい、データ化する取り組みを行っている施設もあります。
高齢独居の患者増加も見込まれる状況で、被災時に患者がどこに避難したのかが不明となり、透析施設が所在確認に時間や労力を割かれてしまうという事例も報告されています。
透析施設側と患者で共有すべき情報として、居住地で指定されている避難場所や被災時に支援してくれるキーパーソンになりうる人の情報登録を行うことで、被災時に対応がしやすくなるだけでなく、平時でも、患者の急変や問題発生時の窓口を把握しやすいという利点もあります。
すべての災害対策の立案や指導を、自施設のスタッフで行うのではなく、日本透析医会や全国腎臓病協議会などが作成している災害マニュアルやパンフレットを活用しながら、自施設の立地や患者層のデータなどの必要な部分をつけ加えて、指導を行うのがよいのではないかと思います。
災害対策:物品の準備
透析患者に必要な準備品
わが国では、南海トラフ地震が今後50年以内に発生すると予測されています。また最近では、地震だけではなく、ゲリラ豪雨が各地で起こり、床下浸水の発生など大小さまざまな災害が頻発しています。
透析患者は、その疾病の特殊性や食事制限などの要因から、従来は非常用持ち出し袋を用意して、そのなかに当座の食料やカリウム抑制薬などの必要なものを準備しておき、災害時にはそれを持って避難するといった避難方法が推奨されていました。しかし、透析患者の平均年齢が69.67歳1)という現況で、高齢患者が重いリュックサックやカバンを抱え、避難行動を起こすことは容易ではありません。
患者やその家族が1分1秒でも早く身軽に避難できるように、必要なものをリストアップし、必要最低限の物品を用意しておく必要があります。また今後は、避難時の行動、連絡方法や避難時の食事を簡潔にする方法などの知識が必要になると思われます。
物品の準備と患者の意識づけ
ハンドバッグサイズのものに、透析を受けるうえで必要な情報(患者情報や特定疾病療養受療証など)や避難生活の維持に必要なものを準備します(表)。患者本人と相談のうえ、どうしても必要な物品をリストアップして、用意するべきものは少なめにしておくのがよいと思います。

しかし実際には、透析施設側から紙媒体に印刷した「災害対策の準備品リスト」などを用意して患者に提供するなどしないと、患者側としては「日々の透析だけでも大変なのに、災害対策といわれても何をどう用意したらよいのかわからない」と考えてしまうでしょうし、何もしなくても、透析施設側や公共団体などが何とかしてくれるだろうという、人任せな考えになりがちなので注意が必要です。
「自助」「共助」「公助」という考えかたもあるので、「まずは自分自身を助けるためにも、わかるかたちで自分自身の災害対策を考えてみませんか?」といった、お任せ意識を変えてもらう方法が有効ではないかと思います。透析施設側もリストを配るだけではなく、年1回の連絡先を更新する際などに、患者や家族にリストに基づいた準備品の確認として、スマートフォンなどで撮影した物品の画像を提出してもらうといった機会をつくることも、患者と医療者のコミュニケーション向上のきっかけになるのではないでしょうか。
災害対策:ツールの利用
被災時の医療やケアなど、生命維持に必要な情報を記載して、つねに持ち歩けるように手帳形式でまとめているものが患者団体や地方公共団体で製作されています。すべてを透析施設側だけで準備するより、このようなツールを紹介するだけでも、患者への意識づけの第一歩として活用しやすいのではないでしょうか。広島県では、県と難病団体連絡協議会とが共同で編へん纂さんした、『難病患者・長期療養疾病患者 災害時支援手帳』を、災害時に支援が必要と思われる難病患者や透析患者を含めた希望者に配布しています(図)2)。

災害は起こらないほうがよいのは当たり前ですが、起こってしまう前に患者・医療者を含めて、多くの方々で災害対策を考えて行っていくことは医療者と患者の協働のきっかけになるのではないでしょうか。
【引用・参考文献】
1) 日本透析医学会.わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在).日本透析医学会雑誌.55(12),2022,665—723.
2) 広島県庁.災害支援(難病の患者さま,ご家族の皆さまへ).https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/57/nannbyousaigaishienn.html(2023年5月閲覧).
特定非営利活動法人広島県腎友会 青年部担当理事
「透析ケア」2022年29巻8号より再掲
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