第一線で活躍する医師や看護師、医療従事者などが講師として登場し、わかりやすく解説する「メディカのセミナー」。今回は「メンタルヘルス不調・精神疾患の理解と助産師ができるメンタルケア」小児期逆境体験の解説チャプターをメディカLIBRARYだけで特別配信します。

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講師
清野 仁美
兵庫医科大学 精神科神経科学講座 講師

<どんなセミナー?>
「様子見か、精神科につなぐか」の判断軸が持てる:緊急性の判断が難しいときの見きわめポイントと、精神科につなぐ基準がわかる
助産師外来・健診での「見るべきところ」が具体的にわかる:スクリーニングのポイントを、母親脳やホルモンの変化という切り口から理解できる
一歩進んだ連携・支援スキルが身につく:精神科医に連携するときのポイントや、父親のメンタルヘルスやトラウマを抱えた人への支援など、アドバンスな知識が身につく


配信|小児期逆境体験



メンタルヘルス不調・精神疾患の理解と助産師ができるメンタルケア01

ACEs(エース)=小児期逆境的体験をもつ妊産婦さんは、社会的資源につながることが重要です。助産師ができる「知って、支える」ケアについてお話ししたいと思います。


メンタルヘルス不調・精神疾患の理解と助産師ができるメンタルケア02

模擬症例です。

幼少期に両親が離婚し、祖母と母親のもとで暮らしていましたが、日常的にほったらかしにされ、ネグレクトされていたり、心理的暴力を受けていたりした方でした。

中学生ごろより、嫌なことがあると、その嫌なことを忘れるためにリストカットや過食嘔吐がみられていました。死ぬためではなくつらい気持ちを忘れるためのリストカットですが、やはり繰り返していると傷が深くなり、自殺に至るおそれもあります。ここも要注意です。

専門学校卒業後、就職して実家を離れましたが、職場不適応となって退職。経済的に困窮して、性風俗業で生計を立てておられました。

アプリで知り合った男性との間で妊娠が判明し、妊娠継続をご本人は望みましたが、相手からは中絶を提案され、その後は連絡が取れなくなっています。

お母さんに相談することもできないまま、妊娠16週で産科を受診されました。このまま妊娠を継続すると性風俗業の仕事ができなくなる、1人で育てていくこともできなくなってしまうという経済的な不安があり、その不安をやわらげるために、リストカットはしていないものの、飲酒や市販薬の乱用をしている状態です。まさに社会的に非常に心配のある妊婦さんとなっていました。


メンタルヘルス不調・精神疾患の理解と助産師ができるメンタルケア03

このように、患者さんのメンタルの不調から、その背景にある社会的問題が明らかになることがあります。その人がこれまで受けてきた虐待的環境、社会的に孤立している環境、経済的な困難さ、DV、上の子がうまく育てられていないことなどがわかる場合もあります。

周産期だからこそ、医療機関や母子保健など、この人が困っている状況に応じた支援につなぐことができます。メンタルが心配な妊産婦さんをうまく拾って、社会的資源につなげていただきたいと思います。


メンタルヘルス不調・精神疾患の理解と助産師ができるメンタルケア04

小児期逆境体験は、ACE(エース)・ACEs(エーシズ)といわれていますが、虐待や家庭内暴力だけでなく、親が精神疾患をもつケースなども含まれています。

これらを子どものころに体験していると、大人になってからも精神、行動、身体、そして発達に影響を及ぼすといわれています。

発達障害ではないかと思われている女性が、じつは過去にこういった逆境体験を経験していて、愛着がうまく形成されていなかったり、対人関係が不安定であったり、注意力が散漫だったり、最後まで物事をやり遂げることが難しかったりと、ACEsの影響でこういった状態になっていることもあるのです。


メンタルヘルス不調・精神疾患の理解と助産師ができるメンタルケア05

このACEsが妊娠に与える影響もわかっています。

もともと自己肯定感が非常に低いので、お母さんになっていくうえで、うまくやれないのではないかと不安やうつを抱えやすくなります。

そしてセルフネグレクトがあります。予期せぬ妊娠や若年妊娠も、その1つといわれています。まさに自分を大事にすることができない、自分をケアすることができない、飲酒してしまう、喫煙してしまう、これもこういった過去の体験が影響して起こっています。

ですから、あまり責めないであげていただきたいと思います。対人関係も非常に不安定で、妊娠・出産に伴う対人関係、つまりはパートナーや家族との関係性がうまく保てなくて孤立していることがあります。

それから、自分自身が適切な養育を受けていないので、赤ちゃんをどう育てていけばよいかわからない。母親役割についても、自分の母親が非常にネガティブな印象だったので、自分がお母さんになっていくことを拒否していたりします。

逆に、先日出会った若い妊婦さんはこうおっしゃっていました。「自分の母親が私に暴力を振るっていたので、非常に悪い母親像として自分のなかに残っている。だからこそ絶対あんなふうになりたくない。自分は赤ちゃんを絶対大事にするんだ」と、今から意気込んでいるのですね。その彼女の強い思いも心配でした。頑張りすぎてバーンアウトしてしまうのではないか、うまくできないことで自分を責めてしまうのではないか、こういった過剰適応も心配です。まさに過去のACEsが、その妊娠、出産、産後の育児に大きな影響を与えています。

また、適切な養育を受けていないので、親としてどう振る舞ってよいのかがわからないというところもあります。

それから、育児をするなかで、自分はこんなふうにしてもらえなかったなという過去のつらい体験、トラウマがよみがえってくることもあります。

親に対する恐怖や怒りが、自分や自分の子どもと重なり合ったりして、子どもに対して非常に複雑な気持ちを持ってしまい、子どもの要求に対しても、さまざまな思いがこみ上げてきたりします。


メンタルヘルス不調・精神疾患の理解と助産師ができるメンタルケア06

じつは、ACEsは育児に大きな影響を与えることがわかっています。

相手の気持ちを汲み取るのが苦手なので、赤ちゃんの気持ちがわからないことがあります。カーッとなってしまっても、うまく感情を調整して赤ちゃんをなだめることができればよいのですが、その制御が難しい。

最後まで忍耐をもってやり遂げることも苦手です。学習もあまりしていませんし、注意力や記憶力も低下しています。ですから、育児がやりかけでほったらかしになっていたり、家事もうまくマルチタスクができなかったりします。計画的に最後までやり遂げることができない、まさにADHDといわれるような状態と似た状態になるのです。

それから、不安定な愛着スタイルを持っているので、だれかにすごく依存的になったり、助産師さんの顔色をうかがって、うまくやれていると思われているかどうかをすごく気にしたりします。

一方で、不信感がすごく強くて、距離を縮められない、親密になれない、そんな方々もいます。こういったACEsの体験は、再び養育困難になったり、残念ながら虐待が連鎖していってしまったりと、リスクの増加につながることがわかっています。


メンタルヘルス不調・精神疾患の理解と助産師ができるメンタルケア07

ぜひ、こういった妊産婦さんを支援するときには、「この方々は大事にされてこなかった過去があるのだ」「だから今この困難さが生まれているのだ」ということを理解してあげてください。

そして、われわれのもつ常識、「妊娠中はお酒を飲まない」「タバコを吸わない」といった価値観をいったん置いて、まずその人が関係性を作ることが苦手な人だとわかったうえで、その人自身が大事にされる体験を提供するための関係性作りをお願いします。

非常に拒絶的な方々、警戒している方々もいます。そういった方々には、まずとっかかりとして、生活上困っていることを解消することを優先しましょう。保健師さんにつないで生活保護の取得であったり、住居を確保したり、出産施設を確保してあげたり、家事支援につないでいったり、私がよく行うのは、保育所に入るための診断書を書くことですね。

こういった「この人は自分を助けてくれる人なんだろうな」ということをわかってもらったうえで、関係性を作っていくのが大事かなと思っています。

そして、信頼関係ができてからはメンタルヘルスのケアになります。ケアも非常に距離感が難しくて、丸抱えで行く場合もあります。

訪問看護や産後ケア事業のサービスの方々は、お家に入って手伝いに行くと丸抱え状態になることもあるのですが、そこから一歩引いて、やって見せる、困ったときに相談してねというような距離感にする、そっと見守るという、このほどよい加減の関係性をどう作るかということがとても大事です。

それはやはり個別性があると思います。「依存的にならないように見守りで行きましょう」とすると関係性もできませんし、「丸抱えでずっとやっていきましょう」とすると支援者がバーンアウトしてしまったり、そのお母さん自身の力がついていかなかったりします。このほどよい加減を、われわれみんなで相談しあって作っていきたいと思います。




ご購入いただくとすべてのプログラムがご覧いただけますのでぜひご検討ください。







プログラム


・妊娠中~産後の女性は母親脳になる
・アロプレグナノロンがもたらす変化
・妊婦健診、産婦健診、助産師外来で助産師に見て欲しいこと(妊産婦のスクリーニングのポイント)
・症例による解説(病態の基本/薬剤の知識/本人・家族への説明/助産師の対応として求めること)
 【疾患例】うつ病、不安症・強迫症、発達障害(神経発達症)、ボンディング形成不全…など
・精神科連携するときのコツ
・育児する父親のメンタルヘルス
・トラウマを抱えた人を支援するということ
・質疑応答
 知的障害のある方に分かりやすい、声掛けのポイントは?
 産前・産後で、精神科受診したほうがよい基準は?
 医師とスタッフが同じ方向を向いて患者をサポートするためにはどのような働きかけが有効か?
 短い期間で信頼関係を築くコツは?
 メンタル不調の方、強迫障害、不安症の方に妊娠期からの育児技術の説明は有効か? …など

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