第一線で活躍する医師や看護師、医療従事者などが講師として登場し、わかりやすく解説する「メディカのセミナー」。そのセミナーのプログラムのうちチャプターの1つをメディカLIBRARYだけで特別配信します。

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講師
讃岐美智義
呉医療センター・中国がんセンター 中央手術部長・麻酔科科長

鈴木昭広
自治医科大学附属病院 周術期センター長

<周術期管理のテーマは2つあります>
一つは元気な人向けに、快適な術後を目指して早期の社会復帰を目指すことです。もう一つは、身体に異常がある人(身体が弱っている人)が手術を受けて重篤な状態にならないように術前から準備をしていくことです。本セミナーでは術前から術中・術後、病棟帰室後において重要なポイントを解説します。周術期にかかわるすべてのスタッフが知っておかなければいけない“共通必須知識”です!


配信|CHAPTER 2:術前の患者さんの状態把握・リスク評価(術前ドーピング)


ではここからは薬のことです。

私は「術前ドーピング」と呼んでいますが、これは出場停止、つまりオペキャンセルのことですね。手術に備えて休薬するはずの薬を間違って飲んでしまった。これを俗称として「術前ドーピング」と呼んでいます。

オペ室ナースができる「実践!周術期管理」01


術前内服薬は「休む薬」「続ける薬」「どうでもいい薬」の3つのパターンに分類できます。

「休む薬」というのは、休まないと手術や周術期管理に支障が出るため一時的に休薬はするけれども術後なるべく早く再開しなければならないものです。

「続ける薬」というのは、患者さんの全身状態や合併疾患の管理上、術前絶飲食であっても服薬してもらったほうがいいよねというものです。もちろん、飲まなくても術中管理はできなくはないんですが、飲んでもらったほうが管理が楽になる、といったものが中心になります。

オペ室ナースができる「実践!周術期管理」02


継続・休薬の考え方としては、患者さんにとっては原疾患が悪くなる場合。例えば喘息をもっている人は薬なしで手術に臨むよりもちゃんと服薬したり吸入して来てくださいねとなりますよね。

ほかにもベータブロッカー(β遮断薬)とかスタチン、カルシウムブロッカー(CaB)、抗けいれん薬、抗パーキンソン薬、三環系、抗うつ薬、抗血栓薬といったものがあります。抗血栓薬は継続の場合と休薬の場合が分かれますので要注意です。

外科の場合には、オペに支障があれば休薬になりますが、原疾患のために飲まなければならない場合もあります。また、傷の治りに影響するものとして、肺塞栓ができるということで抗がん剤、エストロゲン製剤はやめるということになります。

麻酔科は、オペに支障が出るものとしてステロイドは続けておきたいですが、糖尿病の薬なんかは寝ていてい意識がないのに低血糖が起こると困るということでやめる、インシュリンはⅠ型、Ⅱ型によって続ける、続けないなど病態によって変わってきます。

オペ室ナースができる「実践!周術期管理」03


「術前ドーピング」に抵触する薬とは何かというと、

①血が出る薬:要は抗血栓薬ですね。これは必ず処方医師に確認が必要です。主治医でも麻酔科医でもなく処方医師に対して「これは続けなきゃまずいですかね?」と聞く薬です。

②血栓ができる薬:これはピルとか骨粗しょう症の薬です。

③傷の治りが悪くなる薬:これは抗がん剤です。

④絶飲食が悪さをする薬:糖尿病関係です。

⑤ナゾの薬:これは健康食品やサプリで、術前ドーピングに抵触する可能性があります。特にニンニク系は出血・凝固に影響する可能性があります。

オペ室ナースができる「実践!周術期管理」04


抗血栓薬(抗凝固・抗血小板)の処方理由としては、血管の詰まりを予防するということになりますね。なので、休薬による周術期塞栓イベントが患者予後に影響します。オペが成功しても脳梗塞になってしまった、心筋梗塞になってしまった、ということでは手術をした甲斐がありません。継続なのか中止なのかは処方医師の判断が重要です。

ざっくりと早い血流、動脈系のものとして抗血小板薬(SAPT、DAPT)は、心筋梗塞とか脳梗塞、ステント・コイル後に使われていることが多いです。薬をやめると血管が詰まってしまいますので、本当にやめていいのかどうか判断する必要があります。

静脈系としては、抗凝固薬(ワーファリン、DOAC)が使われていますが、心房細動で心臓に血栓ができて脳梗塞が起こってしまうとか、下肢に静脈血栓があってそれが飛んだら困るので予防しているとか、そういった場合になります。

オペ室ナースができる「実践!周術期管理」05


糖尿病薬は、院内でしっかりルール化してもらう必要があります。

糖尿病関連薬剤の休薬期間の覚え方は、末尾に数字が付いているのですが、この数字に騙されないようにしてくださいね。

Biguanide系は、「bi」というのが「2」という意味なので2日間と覚えてください。乳酸アシドーシスのリスクがあります。

SGLT-2は、最初の「S」を「3」と考えて3日間と覚えてください。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクがあります。

ほか、GLP-1やDPP4は数字は無視して、手術当日はやめましょうと考えてください。

オペ室ナースができる「実践!周術期管理」06


ちょっと最近困るのが、SGLT-2阻害薬です。「S」は「3」だから3日前にやめるんだよねとせっかく覚えたのに、近年、日本循環器学会でSGLT-2阻害薬は糖尿病だけじゃなくて心不全にも有効だということになったんですね。

そしてSGLT-2阻害薬のフォシーガ®やジャディアンス®という商品名で呼ばれている薬、これらは心不全に効くのです。となると、糖尿病で飲んでいるときは心不全の有無にかかわらず手術3日前から休薬するのに、慢性心不全で処方されている場合には術前の終日絶食日に休薬ということですから、手術当日の朝でよいということになるんです。

なので、このあたりが麻酔科医としては対応が難しくなっています。つまり手術当日だけ休薬したといっても、この患者さんは慢性心不全だからオペキャンセルではありませんといったことが起こるので十分注意をして、何のためのSGLT-2阻害薬なのか考えた上で臨む必要が出てきているということですね。

では糖尿病患者さんの場合も手術当日の休薬でもいいのかと考えてしまいますが、他の糖尿病薬の影響もあるので、休薬は3日前からとなります。

オペ室ナースができる「実践!周術期管理」07


続いては「たばこと手術」についてお話ししていきます……



ログインして動画でご覧いただくと、「たばこと手術」「お酒と手術」「術前の飲水・食事はどうする?」の解説まで視聴することができます。また、ご購入いただくと本セミナーで取り上げるすべての解説がご覧いただけますのでぜひご検討ください。







プログラム

【前編】
●はじめに:なぜ、いま周術期管理が熱いのか(10分/讃岐先生・鈴木先生)
●講義①:術前の患者さんの状態把握・リスク評価(23分/鈴木先生)
併存合併症/術前ドーピング/たばことお酒と手術/術前の食事はどうする
●講義②:手術開始前/手術中/手術終了前に気をつけるポイント(21分/讃岐先生)
プレウォーミング/術中患者観察/WHO手術チェックリスト…ほか
【後編】
●講義③:病棟での術後疼痛管理の実際と看護師さんの注意点(32分/鈴木先生)
基本的な鎮痛管理/IV-PCA/硬膜外麻酔(PCEA)/持続神経ブロック(PNB)
●講義④:術後の患者観察ポイント(28分/讃岐先生)
改変Aldreteスコア/悪心・嘔吐/シバリング/低酸素/低血圧/術後せん妄ほか
●質問:質問コーナー(6分/讃岐先生・鈴木先生)
・室温についてですが、夏も冬も変わらず、入室時は26~28℃調節でしょうか?
・周術期管理において、マンパワー不足でも最低限行えることはありますか?
・うつ熱のリスクがある手術(口腔外科の手術など)の術前加温について
・講義のまとめ

講師のほかのセミナーの紹介

Dr.讃岐のサラサラ明解!手術室モニタリングの極意

麻酔科医が教える!術後全身管理 10の要点

さぬちゃん先生の周術期の薬剤と患者状態これだけ編

講師が執筆された書籍の紹介


ねころんで読める周術期管理のすべて

やさしい周術期入門
ねころんで読める周術期管理のすべて
ナースと多職種でおさえる術前・術中・術後のキホン


発行:2023年7月
A5判 152頁
2,200円(税込)
ISBN:978-4-8404-8188-5
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