第一線で活躍する医師や看護師、医療従事者などが講師として登場し、わかりやすく解説する「メディカのセミナー」。そのセミナーのプログラムのうちチャプターの1つをメディカLIBRARYだけで特別配信します。

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講師
清水 研
公益財団法人がん研究会 有明病院 腫瘍精神科 部長

<どんなセミナー?>
「病棟での看取り」をテーマにした、こころの柔軟性のレッスン
がん患者向け「レジリエンス外来」を日本で初めて立ち上げた清水研先生を講師に迎え、「病棟での看取り」をテーマにお話しいただきます。

予後が限られた患者さんやご家族との関わり方に加え、看護師自身の心のケアについても、これまでに約4,000人のがん患者さんと向き合ってきた清水先生が、現場で役立つアドバイスをお伝えします。


配信|2 がん体験後のこころの軌跡



病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法

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これは、松田さん(患者)と山崎さん(看護師)の対話の一例です。<br>
「もし自分が山崎さんの立場だったら、どのような言葉をかけるだろうか?」と想像しながら見ていただければと思います。

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これは、松田さん(患者)と山崎さん(看護師)の対話の一例です。
「もし自分が山崎さんの立場だったら、どのような言葉をかけるだろうか?」と想像しながら見ていただければと思います。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法01


入院中の松田さんのベッドサイドに行くと、松田さんが涙ぐんでいました。
山崎さんは驚いて、「どうされたんですか?」と声をかけます。
すると松田さんが、「先生に、もう私の病気は治らないって言われてしまったんです」と。
山崎さんが「もう治らない…そう言われたんですね」と繰り返すと、松田さんは「そうなんです」とうなずきます。

このとき、山崎さんは「それはつらいですね」と声をかけたそうです。
すると松田さんは、「私は、これからどうしたらいいんでしょうか?」という問いを投げかけてきました。

――さて、皆さんだったら、こんなふうに聞かれたとき、どんなふうに答えるでしょうか?

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法02


山崎さんは、すぐには答えが見つけられず、少し苦し紛れにこう返したそうです。
「どうしたらいいのかわからない…それも、つらいですね」
すると松田さんは、少し間をおいて、こう言ったそうです。
「つらいですねって言ってくれるけど……山崎さんに、私の気持ちがわかるんですか?」

その言葉に、山崎さんは何も返せなかったそうです。
松田さんは続けました。「そうよね。このつらさは、なった人にしかわからないわよね」

山崎さんは申し訳なくなり「すみません」と謝ったといいます。
すると松田さんは、こう返してくれました。「謝らなくていいですよ。山崎さんには、いつも助けられてますから」
山崎さんは「…はい」と返すのが精一杯だったそうです。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法03


実際のところは、松田さんは山崎さんに対して、感謝の気持ちを抱いていました。
でも山崎さんの方には、悲しんでいる松田さんの気持ちにもっと寄り添えたのではないかと、後悔や不全感が残ってしまいました。

この場面には「山崎さんに私の気持ちがわかるんですか?」という、問いかけが出てきました。
――皆さんは、この言葉をどう受け止めますか? そもそも他人の気持ちを「わかる」ことはできるのでしょうか。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法04


たとえば、皆さんがご結婚されているとして……夫の気持ちって、ちゃんとわかってますか?
この質問、特に男性側に聞くと、首を横に振ることが多いんです。まあ、それはちょっと冗談として(笑)

実は私自身も、がんを経験していない立場でこの仕事をしています。
その中で、ときどき「がんを経験していない先生に、私の気持ちがわかるんですか?」と患者さんに聞かれることがあります。

そんなとき、私は最近こうお答えすることが多いです。
「わかっていないかもしれません。でも、わかりたいと思っています」

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法05


「人の気持ちがわかる」ことを、一般的に「共感」と呼びます。英語では「エンパシー」といい、研究や実践が重ねられてきました。
この「共感」という言葉を、カウンセリングの世界で「神様」とも称されるカール・ロジャーズは、こう定義しました。
共感とは、「その人の私的な世界を、あたかも自分自身の私的な世界であるかのように感じ取ること」だと。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法06


先ほどの、山崎さんと松田さんのやりとりを思い出してください。
もしここで、山崎さんが、松田さんの気持ちや考えていること、さらにはその肌感覚や怖さまで「ああ、松田さんは今、こういうふうに感じているんだ」とすべて受け取れたとしたら、それがまさに「共感」だと言えます。

でも、どうでしょうか。
私はこれを非常に難しい、むしろ不可能に近いと思うことさえあります。
人の気持ちは簡単にはわからないんです。だからこそ、理解しようとする姿勢が大切なのだということを強調したいと思います。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法07


よく、「アドバイスはいらないから、ただ話を聞いてほしい」と願う方がいらっしゃいます。
その言葉の奥底には、「自分の気持ちをわかってほしい」という希望があるのではないでしょうか。
なぜなら、これはカウンセリングの基本原則でもありますが、「自分の気持ちをわかってもらえた」と思えたとき、初めてその人の苦悩は癒されていくからです。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法08


先ほどの山崎さんと松田さんの対話に立ち返ってみると、ここで「あなたは辛いですよね、わかってますよ」といった、相手の気持ちを言い当てるような言葉は、控えた方がよいのではないかと思います。

では、どのように声をかけたらよいでしょうか。
たとえば、「もう治らないと告げられたんですね。そのことで泣いていらっしゃるんですね」。
すると、松田さんは「はい」とだけ、うなずくかもしれません。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法09


たとえば、このように言葉を続けるのはどうでしょうか。「今、どんなことを思って泣いていらっしゃるんですか?」
すると松田さんは、こう答えられたそうです。「家族のことです。私はもう仕方ないんですが……夫のことが心配で」
それまで語られていなかった松田さんの思いが、ここで初めて出てきたのです。
「ご主人のことを思って泣いていらっしゃるんですね。何か気がかりがあるんですね」と山崎さんが尋ねると、松田さんはこう続けました。
「夫は体が不自由なんです。私がいなくなったら、あの人はどうなってしまうんだろうって。夫は、心細かった私をずっと守ってくれるような存在でした。夫が脳梗塞になってからは、今度は私があの人を守ろうと、恩返しのつもりでずっと頑張ってきたんです」 そういった思いが語られました。

山崎さんが「そんなことがあったんですね。ご主人のことを思って、泣いておられたんですね」と返すと、松田さんは「はい」とうなずかれました。
ここで初めて、山崎さんが「それは……つらいですね」と静かに声をかけると、松田さんは「そうなんです」と返されました。この「そうなんです」という言葉は、山崎さんの「つらいですね」という言葉を「受け取った」というサインでもあります。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法10


カール・ロジャーズは、カウンセリングがうまくいくための条件を6つ挙げています。その中でも重要とされている3つの条件を、私なりに平易な言葉で言い換えたのが、次のような考え方です。
ひとつは、「無条件の肯定的関心」です。これは、「人の気持ちは簡単にはわからないけれど、その人の悩みにはその人なりの事情があるんだ」と、まず受け止めようとする姿勢のことです。
そのためには、こちらからいろいろと丁寧に尋ねていくことが大切です。話を聞いていく中で、少しずつ相手の状況が奥行きを持ったイメージとして浮かび上がってきます。
その上で「あなたの悩みは、こういうことなんですね」と返す。そうすると心から「ああ、それは辛いですね」と自然に言えるようになるし、相手が「自分の気持ちをわかってもらえた」と感じてもらえるチャンスが広がっていくのです。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法11


ここで一つ、ぜひ強調しておきたいことがあります。
「今、どんなお気持ちですか?」とこちらが尋ねたときに、相手から「いや、ちょっと…」とか「まあまあです」といった、はっきりしない返答が返ってくることがあります。
そんなときは、「ああ、今はそっとしておいてほしいのかな」と受け取り、少し距離を保つことも大切です。
そうやって尊重された距離感の中で過ごしていると、あるときふと「話したい」という気持ちになられることもあります。
私自身も、常に「清水さんは自分の気持ちをわかってくれた」と患者さんに感じてもらえるよう、話を聞きたいと思っています。けれども、それが毎回うまくいくわけではありません。
「絶対にわかってあげなきゃ」と思うとこちらも苦しくなるので、「わかるかどうかわからないけど、わかろうとする」という姿勢で、想像し、理解しようとし続けることが大切なのではないかと、私は常々感じています。

病棟での看取りと患者さん・家族・自分のこころのケア方法12




ログインすると動画でも解説が聴けてより理解が深まります。また、ご購入いただくとすべてのプログラムがご覧いただけますのでぜひご検討ください。






プログラム


1 はじめに

2 がん体験後のこころの軌跡

3 ご家族と遺族のケア

4 ケアのコツ

5 死と向き合うことと自らのケア

6 質疑応答

 ・シビアなICの後の患者様への声かけについて
 ・「患者さんにもっとできることがあったのでは」という後悔の声が出たとき、チーム内でどのように対応すべきか?
 ・「苦しい」という最期の言葉を聴き、看取ることになったスタッフへの声かけについて
 ・患者さんや家族から怒りをぶつけられたときどのように自分を守ればいいのか?
 ・認知症・せん妄の患者さんへのこころケアについて
 ・外部との面会を厳しく制限されている場合、患者と家族にどのようにかかわればよいか?
 ・つねに優しくなれない自分を許すことの大切さについて
 ・年齢が近い患者さんの死に直面したとき、感情移入してしまうことについて

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本セミナーについての清水先生へのインタビュー記事はこちら