「学びかたを学ぶことで看護師として生きる選択肢をふやしていく」ことをコンセプトに立ち上げたメディア「メディカLIBRARY」のスタッフが、毎回、フラクタルのみなさんにテーマを伝えています。
今回のテーマは「患者さんの死」です。
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「あの患者さん、DNARになったから」
DNAR。
Do not attempt resuscitation。
心肺停止時に、蘇生処置を行わない。
病棟ではナースステーションにあるナースコールボードに、DNARの説明と同意を取った患者さんがひと目でわかるように印をつけていた。
医師にそう声をかけられて、ボードに印をつけた。
「指示も書いておくね。メインもちょっとしぼろうかな、浮腫(むく)みも強くなってきてるし」
「はい」
消化器外科の病棟には、がんを根治するべく手術に臨む患者さん、がんを抱えて生活をするべく化学療法をする患者さん、そして数は少ないけれど、人生の終末段階にいる患者さんがいた。
点滴の流量を変更しにいくと、部屋にはご家族が付き添っていた。
「ひょっとしたら今日、明日かもしれないって、さっき先生に言われました。何度も手術して、もう十分がんばったからさいごは自然なかたちで……と言ったんですけどね」
「……」
「こうやって見てたらもっと長生きしてほしいな、って今は思います」
「……」
「あぁ、処置をしてほしいって言うわけじゃ、ないんですよ。先生も『痛い思いしても元に戻るわけじゃない』って話をしていましたし」
「……」
「でもねぇ……」
なにも言えないまま、うんうん、そうなんですね、とうなずきながらご家族の話を聞いて、逃げ出したい気持ちで部屋を出た。
その翌々日の朝、患者さんはお亡くなりになった。
死亡確認は夜勤帯の時間でし、家からご家族が着せたいお洋服を持ってくると言う。
死後の処置とお見送りは日勤帯で引き継いだ。
先輩とふたりでエンゼルケアに入る。
逃げ出したい気持ちで接してしまったからか、本当に部屋に行きたくない気持ちでいっぱいだった。
「点滴もバルーンも抜けて良かったですね」
笑いながら先輩が、患者さんに話しかける。
「お疲れさまでしたね。お化粧しますね」
エンゼルケアが初めてだと事前に声をかけていたので、先輩は私に教えながら実施してくれた。
ご家族は「看護師さんにお任せします」と一度退室した。
「普段自分でするメイクと一緒だよ。するでしょ? ファンデーションが白浮きしないか顔と首の境目で確認して。眉毛、チーク、リップ。この口紅の赤いのを耳たぶと、顎の先にすこしつけると血色が良くなるよ」
たしかに真っ白だった顔に朱がさして、若返ったように見える。
亡くなったかたに相応しくないが、すこし活き活きとして見える。
なんだかすこしうれしくなった。
「それで、ポイントは、家族に見てもらうの。『どうですか?』って聞いて、『もっとこうしたほうが良い』とか言ってもらう。私たちは元気なときの顔、よく知らないからね」
ご家族を呼んで、お顔を見てもらう。
「きれいにしてもらったね! 良かった~」
「ありがとうございます。ありがとう」
そう言って笑ってくれたご家族のおかげで、エンゼルケアがとても素敵なものに思えた。
もうきっと、逃げない。そう思ったエンゼルケアだった。
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#001 孤独にDance in バベル
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fractale~nozomi~
twitter:のぞみ(@sratsylenol)
看護師クリエイティブプロジェクトFractaleのエモ担当。なぜか気が付いたら在宅沼に片足突っ込んでいた7年目看護師。外科・脳外科病棟→救命救急センター→集中治療室→2020年2月から在宅。新米訪問看護師。輸液ポンプ、シリンジポンプのコード整理の特技が活かせなくなってしまった。元葬儀屋、病院栄養科勤務経験のある社会人から看護師パターンのやつ。ケアの原点を在宅に感じて、改めて生と死を見つめ直そうとしている。趣味は筋トレと読書とロードバイクと音楽鑑賞。B'zに対する並々ならぬ執着心がチャームポイント。 好きなトレーニングはレッグエクステンション。
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