山崎早苗
東海大学医学部付属病院 特定看護師・救急看護認定看護師

救急看護認定看護師の資格取得後、特定行為研修、看護学修士課程を修了。現在は、看護師長という立場を務めつつ、週に1回は特定行為実施日を設けて院内で活動している。呼吸ケアチームに携わった経験があるほか、フライトナース、トリアージナース等の経験を持つ。


救急医療の現場はめまぐるしく進歩し、高度な医療がスピーディかつタイムリーに行われている。常に自身をブラッシュアップし、最善の医療提供者、看護師でありたいと思う。一方で、一人の人間として人を思い、寄り添う気持ちは普遍的なものである。東海大学病院は「ヒューマニズムと科学の調和」という理念のもとに心温まる医療を提供しており、私もこの言葉を通して救急看護師としての思いや展望を語りたい。

臨床では「何かおかしい」と気づく能力を研ぎ澄ます

救急看護師として臨床で最も大切にしていることは「気づき」である。気づきとは、患者さんの表情、顔の色、話し方、目線、反応の仕方、体の温かさなど、自分の五感で感じられることのほか、もちろんバイタルサインやフィジカルアセスメントによって得られる患者の状態の気づきも含まれる。

救急トリアージをしていた時に、数年前にくも膜下出血の手術をした男性が嘔気を主訴に車いすで来院した。問診を始めた。患者の顔はピンク色に紅潮、橈骨動脈を触れると皮膚は暖かいが脈が触れない…?脈が触れない?…逆の手の橈骨動脈を触れる、皮膚は暖かいがやはり脈が触れない?しかし、患者さんはお話もできるし、目線もあっているように見える。私の手がおかしいのか?と自分を疑ったが、これはただごとではない。バイタルサインの測定をやめて処置室へ患者を搬送した。周囲のスタッフを呼び集め、モニターを装着し血圧を測定したところ、収縮期血圧が40mmHgであった。敗血症性ショックの診断で入院となった。

救急看護師は患者の状態が「何かおかしい」と瞬時に気づくことができることが何よりも特化された能力であると感じている。そして「何がおかしいのか」を患者の安全を最優先に考えながら医師の診断・診療の補助を行っていく。

私の大事にしているこの「気づき」は道具や器械はなくともできる。しかし、気づこうとしない限り気づくことはできないのである。だからこそ、ドクターヘリやドクターカーに乗って活動するときに欠かせない能力でもあり、モニターやデータに頼るだけでなく、最も高めてほしい大切な技術なのである。

専門分野をもち、最新情報を常にチェックする

私は救急看護認定看護師の資格を取得し、さらに特定行為研修の修了後は、自分のサブスペシャリティとして呼吸を整える技術を高める努力をしてきた。その結果、ある時は診療科の医師に「呼吸ケアはすべて山崎さんにお任せします」と依頼されることもあった。なかなか肺炎の改善が見られない患者の主治医から呼吸ケアを依頼された時は、家族からもその成果を認めてもらったこともある。その患者は他病院に入院した際に、当院の救命センターの看護チームに呼吸ケアをお願いしたい、と言って転院してきた。救急看護師と患者は初めてお会いする場合が多く、継続して看護をすることは少ないが、「この病院の救急看護師に看てほしい」と当院の看護が選ばれたのである。

看護が評価されるためには、自己研鑽が必須である。私は現在も呼吸ケアを中心に研究を行い、学会にも参加し、最新の知見やさまざまな取り組みに興味を持ち、その習得を心掛けている。年に1回は海外の学会にも参加し(英語はまったく得意ではないが…)、視野を広げ、世界と日本、自分の施設の状況も比較しながら救急看護師としての道を邁進している。自分たちのやっていることが他国よりも進んでいると認識できたときに、より一層の研究や学習への意欲が増すのである。

救急医療は「何のためか」を語り合う指導、協働を

医療者である以上「良き後輩を育てる」ことは重大な役割であると認識している。私は救急看護認定看護師であると同時に看護師長の役割もある。毎朝の朝礼の時に「師長の言葉」を話す時間をもらっている。ここで私が話をする大きなテーマは「何のために」私たちは看護を提供しているのかである。

私が特に伝え続けていることは「2.5人称の看護」である。これは東海大学病院の理念であるヒューマニズムの部分にも相当する。私たち医療者は、患者さんの家族にはなれないけれど、0.5人称分、患者に近い3人称でありたいという意味である。自分の家族のように大切な人と思い、本当にその方の立場になって医療者として対応できているのか。「人間としての成長なくして医療者としての向上なし」である。救急医療の現場は突然の発症、重篤な病態、予測できない出来事に際して患者、家族への対応に当たる。患者の立場に立つことができることが、何より救急の現場で働く医療者に求められるものではないだろうか。

私は看護師長という立場で後輩たちに伝える場がある。現場で日々活躍している救急看護師、医師たちにも「何のために」この医療があるのかを語りあえる仲間を作り、後輩指導、育成に励んでほしいと考える。


本コラムは『Emer-Log(エマログ)』の2020年年間購読限定の特典として刊行された『デキる救急医・救急看護師の3つの習慣』からの再掲載です。

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本誌:隔月刊/増刊:年2冊刊行

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12 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018
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15 ①熱中症診療ガイドライン2015
②新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)[医療従事者向け]
16 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)
17 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
18 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
19 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
20 ARDS診療ガイドライン2021
21 成人肺炎診療ガイドライン2017
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定価:2,970円(税込)
刊行:2023年3月
ISBN:978-4-8404-7972-1

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