林 寛之
福井大学医学部附属病院 救急科総合診療部 教授

自治医大を卒業し福井の僻地医療に従事。カナダのトロント総合病院で救急を学んだのをきっかけに救急の道へ。野戦病院のような現場に快楽を覚えたのち、教育(「せんのう」と読む)に専念するため大学病院に異動。「隣の芝生は青かったかも?」と思いつつ、国際的な関係を広げて、愛と勇気と涙と感動で日々、後進を熱血指導中。


24時間365日市民のために日夜頑張っているみなさんは素晴らしい!

臨床で気を付けること

1)臨床鑑別診断学を大切に
非典型重症例を見逃さない
ERに携わっていると0.2~0.7%の重症患者が歩いてやってくる……いやいや救急車呼んでよ(^^;)。典型的な重症例を見分けるのは難しくない。歩いて受診したのに、帰宅させて死んでしまったとなると、訴訟になっちゃう。さまざまな疾患に対応するERだからこそ、きちんと鑑別診断をあげて学際的にアプローチしよう。胃が痛い心筋梗塞、嘔吐だけのくも膜下出血、痛みのない失神の大動脈解離。あぁ、ERって面白い!「ERでは命に関わらなければいいよ♪」なんて診断もつけずにいい加減に患者を帰していると、いつまでも腕は上がらない。慢性であろうが何であろうが診断つけようね。診断がつかない場合は必ず具体的なフォローアップ計画を立てるべし。

患者の話を鵜呑みにしない
患者は医療のプロではない。便が軟らかければ、何でも下痢と言う。便秘が開通して、硬便に続いてドバーッとビチビチウンチが出たら、「下痢しました」と患者は言うんだ(# ゚Д゚)。患者の「知らん!」は覚えていないだけ。「何もしてない」は何かしている……●△★※ウッ、そんなことって(* ´ 艸`)クスクス!テレビの再現フィルムを作るかのように問診するのがコツ。

2)軽症患者を診たら、「来てヨカッタ」と言わせる
ER受診患者の6割は比較的軽症。「万が一悪い病気だったら」と心配で受診してくる。あなたの態度次第で「来てヨカッタ」と安心を与えてハッピーにできる。軽症患者が来たらとにかく笑顔で帰ってもらうべし。訴訟も激減間違いなし。

3)ERは「心の修行」と割り切る
人生の縮図を見るのがER。理不尽極まりないことがあっても、ケセラセラ。いつも不機嫌な●●先生は人〇障害だから、すっぱり諦める。あなたの給料の9割は「我慢料」。でも患者に興味を持ち、患者背景が垣間見えてくると非常に興味深く、たくさん元気をもらうんだ。陽性感情になるかどうかはあなたの心の持ちようひとつなんだ。

研究や学習を進めるために

1)学習時間をひねり出す
緊急性が高くて重要な仕事はどうせする。でも緊急性がないけど重要な仕事(本や医学雑誌を読む、セミナー受講など)はついつい忙しさに紛れておろそかになりがち。自分を高めるためには、学習の時間をひねり出す習慣を作ろう。

2)臨床研究のヒントは臨床の中にあり
臨床研究は常に臨床の中にヒントがある。常日頃アカデミックに考え、とにかくたくさん論文を読むこと。総説は実臨床に生き、原著論文はプロとしての先進性を養う。総説と原著論文は両輪なのだ。

いい人のフリして指導、仲間に優しい「悪の組織」を

1)ERはまさに若者の教育チャンス
「家政婦は見た」理論
後ろを振り向いてごらん?ホラ純真無垢な学生が見ているよ。さぁ「いい人」を演じましょう。きっとわれわれと同じ救急の道を目指してくれるはず……騙されたとも知らないで、フッフッフ。「ため息」「愚痴」「昔話」「自慢話」「説教」は封印しよう。「いい人」を演じ続ければ、ホラ本当にあなたは「いい人」になっちゃうから、アラ不思議。

サンドイッチ法
後進を育てるには「positive(褒める)」→「constructive(建設的具体的改善点を述べる)」→「positive(褒める)」で締めくくれ。ついnegative(欠点をあげる)なことを言いがちだが、そこをぐっと我慢して、どこをどう(how)直したらいいかを指導しよう。「なんで(why)それしたの」などと“why”で問い詰めると若者は泣くんだよ。

2)多職種連携が高齢者を救う
老年医療は社会的精神的問題も多い。医療的問題より福祉的問題の方が大きいと思ったら一人で頑張らない。多職種連携をフルに使って生活を支えてあげよう。

3)「悪の集団」を目指す
組織は出来の良い人とそうでない人がいるのは当たり前。一人前になる速度は人それぞれと思って、出来の悪い人も息のしやすい環境を作ろう。悪の組織は使えない隊員ばかりいるのにいつも笑って登場し、新しい怪人を作るため毎週研究開発を怠らない素晴らしい組織じゃないか。正義の味方は友達はせいぜい5人しかいなくて、夏休みも満足に取れず怒ってばかり。仲間に優しい「悪の組織」こそ目指す境地なのだ。ワークライフバランスも重要。趣味も真剣にやれよ、仕事じゃないんだから。モットーは「人に甘く、自分にもっと甘く!」


本コラムは『Emer-Log(エマログ)』の2020年年間購読限定の特典として刊行された『デキる救急医・救急看護師の3つの習慣』からの再掲載です。

// 専門誌案内 //

Emer-Log(エマログ)2023年2号


Emer-Log(エマログ)とは?
チームで読める、救急看護の専門誌。二次救急や救命救急センターなど、さまざまな場での患者さんの評価、初療対応を取り上げます。救急看護を深めたいあなたへ、「自己学習」と「後輩指導」に役立つプラクティカルな知識をお届けします。
本誌:隔月刊/増刊:年2冊刊行

Emer-Log(エマログ)
最新号 2023年2号

【特集】エビデンスがわかる!後輩指導に役立つ! 厳選 救急ガイドライン集


1 JRC蘇生ガイドライン2020:一次救命処置(BLS)
2 JRC蘇生ガイドライン2020:二次救命処置(ALS)
3 JRC蘇生ガイドライン2020:小児の蘇生(PLS)
4 JRC蘇生ガイドライン2020:急性冠症候群(ACS)
5 JRC蘇生ガイドライン2020:脳神経蘇生(NR)
6 外傷病院前救護ガイドライン(JPTEC)
7 外傷初期診療ガイドライン(JATEC)
8 外傷初期看護ガイドライン(JNTEC)
9 頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版
10 急性腹症診療ガイドライン2015
11 急性膵炎診療ガイドライン2021
12 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018
13 急性中毒標準診療ガイド
14 日本版敗血症診療ガイドライン2020
15 ①熱中症診療ガイドライン2015
②新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)[医療従事者向け]
16 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)
17 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
18 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
19 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
20 ARDS診療ガイドライン2021
21 成人肺炎診療ガイドライン2017
22 脳卒中治療ガイドライン2021
23 救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド

定価:2,970円(税込)
刊行:2023年3月
ISBN:978-4-8404-7972-1

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