大野博司
洛和会音羽病院ICU/CCU

2001年千葉大卒。麻生飯塚病院にて初期研修後、舞鶴市民病院内科勤務。2004年米国ブリガム・アンド・ウィメンズホスピタル感染症科短期研修後、洛和会音羽病院入職。2011年より多臓器不全など内科系全般および心臓血管外科術後を含む外科系集中治療と重症感染症診療をメインに従事。超急性期でも集中治療室をベースに業務をこなす。
(2020年執筆時点の内容です)



スマートに診断、治療を効果的に行い、患者・周囲を気遣い、そして就業規定を守って申し送り、時間通りに仕事を終わる──これがデキる医師の典型だろう。残念ながら小生は決してデキる集中治療医(救急医)ではない。悪くない、Not too bad、程度、またはそういうこともあるんだくらいの習慣と考えてもらえたらと思う。

自分にしかできないことを

心がけていることがある。一言で言えば、医師になって19年ちょっと、ひたすら現場に没頭、よくいえば患者に寄り添いベッドサイドにへばりつき、その瞬間瞬間を見逃さないようにしてきた。それは自分にしかできないから。

それはなぜか?自分は小さいころから誰かと比べられるのが苦手で、キャリアも資格もひとつのモノサシで測られる/評価されるのが苦手だった。同じことをすることに息苦しさを感じていた。だから大学受験、進級試験、国家試験のたびに体調がわるかった。晴れて医師になってからは常に「自分でなければできないこと」「自分なりのアイデンティティ、生きてる証明」を探し続けてきた。それがベッドサイドで病気を抱えた患者と向き合うことだった。

何度も何度もベッドサイドおよびいろんな患者情報を収集してはああでもないこうでもないと考えてきた。そして自分の頭の中で目の前の患者の全体像が描けたとき、すべてがうまくいくことを学んだ。でもそのone pieceでも欠けていたり、協力すべき各科が各々の主張ばかりで順序立てずに、とっちらかって空中分解してしまったら患者の不利益につながることも学んできた。

スマートさが求められるこの時代に、時間に関係なく泥臭く仕事をすることは好まれないかもしれない。逆行していて大衆は受け入れないと思うだろう。だが、患者を助けられる医師を目指すには、どの瞬間の判断で患者が助かったのか、そして逆にどうなったら患者は死に至るのか──それを自分の血となり肉とするためには、考えては調べて、患者のそばに行く、を昼夜問わず繰り返すしかない。エビデンスや論文は残念ながらそれを教えてはくれない。

ベッドサイドからの積み重ね

患者のそばに行く、そしてICU/CCU、病院を離れないことだと思う。

患者を助けられる医師になろう、そして助けられるICU/CCUを作ろう。内科・外科系各科専門医に認められる・頼りにされる医師、そして専門医をサポートできる医師になろう。そして結果として、その地域の住民にとって意味のあるICU/CCU、病院になるのではないかと思ってやってきた。小生を雇用している法人の価値が上がれば、自分なりの恩返しだと思ってやってきた。

研究や学習のきっかけもベッドサイドに

ベッドサイドでの「?」を学習のモチベーションにしている。学会発表でもベッドサイドで得たことを22年前から発信し始めた。

心臓外科術後の不整脈をどう予防するか、大量出血での血液製剤の効率的な使い方や敗血症性ショックの初期蘇生をどのような順番で行うか、抗菌薬選択、どのような場合に特殊な治療が必要となるかなど、エビデンスというよりもその場その場の臨機応変な判断を支える基礎知識・文献的根拠をできるだけ整理しながら、目の前の答えのない「?」にメリット/デメリットをてんびんにかけて、そのときの最適解を目指すようにしてきた。

総合力を意識して指導、協働を

今はなにかとすぐに誰でも調べられる時代となった。だからこそ、自分のスタイル、背中になにかを若い連中が感じてくれたらとも思う。患者の病気の診断・治療そしてその経過はベッドサイドでこそ起きていることだから、その瞬間瞬間を大切にしていきたい。「雄弁は銀、沈黙は金(Eloquence is silver, silence is gold.)」だと思っている。

若いときは自信のなかった自分は「できるようになりたい!」の一心でひとりでも多くの患者さんをみたい、病気をみたいと思ってひとり走り続けてきた。そして狭い世界でひとり自己満足にひたっていたのかもしれない。負けたくない弱い自分を敵にしたて、それに向き合ってきた。今でもその気持ちはかわらない。しかし年とともにできること・身につくこと以上にできなくなっていくことが増える。どうしたら患者が救われ、自分も救われ時間をもたせられるかも考えなければいけないところにきた。

ONE TEAMとして医師、看護師、理学療法士、薬剤師、臨床工学技士らコメディカルを有機的につなぐにはどうしたらいいか、の視点を大切にしている。それはミーティングかもしれない、勉強会かもしれない。何気ない仕事を離れたところでの飲み会の席でのコミュニケーションかもしれない。

総合力こそが今以上の高みにICU/CCUをもちあげるものだと思っている。

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本コラムは『Emer-Log(エマログ)』の2020年年間購読限定の特典として刊行された『デキる救急医・救急看護師の3つの習慣』からの再掲載です。

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Emer-Log(エマログ)とは?
チームで読める、救急看護の専門誌。二次救急や救命救急センターなど、さまざまな場での患者さんの評価、初療対応を取り上げます。救急看護を深めたいあなたへ、「自己学習」と「後輩指導」に役立つプラクティカルな知識をお届けします。
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巻頭 新人・異動者のためのERの歩きかた

Chapter 1 [緊急度判定]トリアージクイズ
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3 呼吸困難
4 意識障害
5 失神
6 めまい
7 腹痛
8 腰背部痛
9 発熱
10 小児
11 高齢者
12 妊産婦

Chapter 2 [優先順位・多重課題]トリアージクイズ
1 同時刻に複数の患者さんがやって来た ―どこに誘導する?
2 同時刻に同じ緊急度レベルの患者さんがやって来た ―優先順位はどうする?

Chapter 3 トリアージで必須の指標
1 JCS
2 GCS
3 AVPU
4 qSOFA
5 SIRSの診断基準
6 NEWS2
7 小児のトリアージにおける第一印象
8 NRS
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定価:2,970円(税込)
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ISBN:978-4-8404-7973-8

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