立野淳子
平成紫川会小倉記念病院 看護部 クオリティマネージメント科 科長/急性・重症患者看護専門看護師

看護師23年目を迎えました。平成23年に急性・重症患者看護専門看護師を取得、平成29年より現部署で看護科長として実践、管理業務に従事しています。その間、看護学修士号、保健学博士号を取得、山口大学では10年間教育研究職を経験しました。現在は看護師の特定行為が働き方改革や医療や看護の質にどう寄与できるのかに興味を持っています。
(2020年執筆時点の内容です)



時を大事に。生に向き合う

これは、当院HPに掲載した私の言葉で、私が実践で最も大切にしていることです。専門看護師として日々組織横断的に実践していると、さまざまな“時”にある患者さんやご家族にお会いします。それは、循環維持のため大量の輸血をしている“時”、命の最期を迎えようとしている“時”、手術を受けようか悩んでいる“時”などさまざまです。一人、一人異なった“時”を過ごしながら懸命に生きている患者さんやご家族との出会いは、偶然であり、ご縁だと思うのです。私は出会ったお一人、お一人と真に向き合うことを信念としています。

真に向き合うとはどういうことだろうか、そんな自問自答を繰り返し、私の思うよい看護とは、患者さんやご家族が今どんな“時”にあるのか、その方をよく知り、痒いところにまで手が届くようなきめ細やかなケアを提供することだということに至りました。それは単に、病状や治療など医学的状況に応じた観察や処置を行うことだけではありません。患者さんの全人的な苦痛や思いなど細部にわたる状況を捉え、患者さんやご家族が心身ともに安楽・安全でいられるように、必要なケアを提供することです。ステレオタイプに対象を捉えるのではなく、一人、一人の患者さんやご家族に向き合って初めて本当に必要な看護が見えてくるのではないかと考えています。限られた時間でも、真に向き合う姿は患者さんやご家族に伝わり、そこから信頼関係は生まれ、よりよい医療や看護につながると信じています。

研究的思考を臨床でも活用する

「臨床では日々の業務に追われ、研究する暇なんてない!」と言われることもありますが、そんなことはありません。“このケアの根拠はなんだろう”、“ケアの方法を変えるとどうなるだろう”、臨床現場では日々このようなResearch Questionが生まれます。実践の科学とも言われる看護には、実践だけでなく、委員会活動や管理業務などあらゆる場面で研究的思考は役立ちます。私は10年間の研究職の経験と、修士・博士課程で学んだ研究的思考を、どうすれば現状を可視化できるのか、新たなケアの方法を導入した時にはその効果をどのように検証するのかなどを解決する手段に役立てています。

これからも看護の発展のため、さまざまなデータをまとめ、臨床現場から研究成果を発信していきたいと考えています。

継続教育

現在、臨床教育は、off-JTからOJTへと移行すると同時に、教授方法についても座学形式からアクティブラーニングへと変化しています。座学が駄目とは決して思いません。受ける側の学習ニードと合致していれば、座学でも多くの学びを得ることができます。しかし問題は、座学で学んだ=実践できるにはなかなかならないことです。ならば、座学にアクティブラーニングを組み合わせることで学習定着は高まるのではないかと、インストラクショナルデザイン(ID)を用いた研修の企画・運営に取り組んでいます。

厳格な労務管理が求められる現状において、本当に必要な研修は何か、どのように教授設計すれば学びを支援できるのかを考える必要があります。

「新人には何でも優しく教えてあげなさい」、「質問じゃなく答えを教えてあげなさい」という言葉を耳にすることがありますが、本当にそれは教育でしょうか。それでは自立した看護師は育ちません。なぜなら、本来OJTで必要な、自分で考えるというプロセスの支援になっていないからです。教える側の関わり一つで学習者の思考は活性化され、自ら学ぶようになります。 臨床現場での教育とは、学びが実践に活かせてこそ意義があります。off-JTでもOJTでも必要なのは、教育できる人材の育成だと思っています。しかしながら、「教え方」を学ぶ機会は多くはありません。自立して学習を継続できる看護師を育成するために、効果的なoff-JT、OJTを推進できる組織づくりに取り組みたいと思っています。


本コラムは『Emer-Log(エマログ)』の2020年年間購読限定の特典として刊行された『デキる救急医・救急看護師の3つの習慣』からの再掲載です。

// 専門誌案内 //

Emer-Log(エマログ)2023年2号


Emer-Log(エマログ)とは?
チームで読める、救急看護の専門誌。二次救急や救命救急センターなど、さまざまな場での患者さんの評価、初療対応を取り上げます。救急看護を深めたいあなたへ、「自己学習」と「後輩指導」に役立つプラクティカルな知識をお届けします。
本誌:隔月刊/増刊:年2冊刊行

Emer-Log(エマログ)
最新号 2023年2号

【特集】エビデンスがわかる!後輩指導に役立つ! 厳選 救急ガイドライン集


1 JRC蘇生ガイドライン2020:一次救命処置(BLS)
2 JRC蘇生ガイドライン2020:二次救命処置(ALS)
3 JRC蘇生ガイドライン2020:小児の蘇生(PLS)
4 JRC蘇生ガイドライン2020:急性冠症候群(ACS)
5 JRC蘇生ガイドライン2020:脳神経蘇生(NR)
6 外傷病院前救護ガイドライン(JPTEC)
7 外傷初期診療ガイドライン(JATEC)
8 外傷初期看護ガイドライン(JNTEC)
9 頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版
10 急性腹症診療ガイドライン2015
11 急性膵炎診療ガイドライン2021
12 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018
13 急性中毒標準診療ガイド
14 日本版敗血症診療ガイドライン2020
15 ①熱中症診療ガイドライン2015
②新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)[医療従事者向け]
16 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)
17 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
18 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
19 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
20 ARDS診療ガイドライン2021
21 成人肺炎診療ガイドライン2017
22 脳卒中治療ガイドライン2021
23 救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド

定価:2,970円(税込)
刊行:2023年3月
ISBN:978-4-8404-7972-1

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